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ミルフィールJK

作者: 万千百十一八

問 左利きとAB型、あと一つは何でしょう?


 その建物を見上げ、召谷諭はため息を吐いた。

交番勤務を終えて、諭を待ち受けていたのは、被害者の人間関係を洗う敷鑑だった。

感情線の乏しい諭にとって、被害者のバックボーンより、四課の大捕り物の方が性に合っている。

「カラオケか……」

目当てのカラオケボックスは大通りに面していた。

被害者の妹、舞野環がこのカラオケボックスに滞在していることは、昨日の段階でわかっていた。行く寸前、相方の名島には「よろしく」と一言告げられ、単独捜査としてやってきた。恐らく、彼女はもう雀荘の彼方だろう。

事件の発端は五日前に遡る。最初の被害者は千巻雄馬という叡明大学に通う大学生だった。千巻は大学付近のアパートで刺殺体として発見された。そこから短期間で、さらに二人もの被害者が出た。被害者はいずれも叡明大学で独り暮らしの男子大学生だった。その中に舞野環の兄、舞野司がいた。司は三番目の被害者だった。

「いらっしゃいませ」中に入ると、カウンターの女性店員がすぐに営業スマイルを浮かべた。

「いや、客じゃないだ。責任者いるかな」

「何か不備等、ございましたでしょうか」女性店員が眉を顰めた。歳は大学生ぐらいだ。厄介事は御免だといわんばかりに諭を見つめている。

「別にクレームとかじゃないから安心してくれ」

 諭のその言葉に、女性店員は顔をパッと明るくさせ、少々お待ちください、といって奥へ消えていった。

 ものの数分で責任者と思われる男が現れた。

「店長の檜垣ですが、どういったご用件でしょうか」

「この中に、舞野環という方がいると伺ったんですが、案内していただけませんか」諭はサッと檜垣だけに見えるように警察手帳を見せて訊いた。

「事件か何かでしょうか」

「まぁそんなとこです。で、どちらです?」諭は適当に濁した。

 案内されたのは最上階、五階の一室だった。扉には和室ルームと書いてある。

「舞野環はよくこちらに?」

「ええ、ほぼ毎日ご利用されております。というより、暮らしているに近い感じです」

「暮らしてる? ここに?」

「ええ」檜垣はそれだけいって、口を噤んだ。これ以上は聞くなと目の奥が訴えている。

諭は礼だけ告げ、逃げるように個室に入った。

中に入ると、諭は自分の目を疑った。

和屋に一人、舞野環がマイクも持たず胡坐を組み、テレビ画面を凝視していた。巨大な画面には流行歌の歌詞が映し出されている。

「あのぅ」諭が控えの声でいった。「舞野環さん?」

「はい」

諭の声に反応し、環が振り返った。十七そこそこの瓜実顔がそこにあった。

 環は上下スラックスというラフな出で立ちだった。

「舞野環さんで間違いありませんね」

「はい、そうですが……」環は長い黒髪を耳へと掻き上げていった。先ほどの受付嬢同様、眉が曲がっている。

「申し遅れました。私、東大塚署の召谷と申します」

諭の警察手帳を見て、環の顔が幾分和らいだ。「刑事さんでしたか」 

「お兄さんの件で二、三お訊きしたいのですが、宜しいですか」

「えぇ……ですが、私が兄のことで話せることなど……」

環は伏せ目気味にそういって、カラオケのデンモクを操作した。演奏中止ボタンを押したのか、室内が一瞬にして静かになった。

自分だけ座っていることにバツが悪く思ったのか、環は諭に座るように勧めた。

「失礼ですが、いつもここに?」諭は腰を落とすなり、口を開けた。

「はい。大抵はここにいます」

「どうしてまた……ご自宅には帰られないのですか?」いい終わった直後、思わず諭は顔を顰めた。昨日見た調書が過ぎった。「……そういえば、ご両親、再婚されてましたね」

「いえ、確かに兄は連れ子で家には居づらかったですが、ここにいるのは、人々に逢うためです」

「人々? そんな大勢の方と毎日ここで?」

「あ、そういう意味じゃ――」環がかぶりを振った。「それより兄の件でしたよね。何か捜査に進展があったのですか」

「いえ」諭は咳払いをし、神妙な面持ちで環を見た。「正直な話を申し上げますと、捜査は難航しおります。ですので今一度、事件を洗い直しているところです。なので、もう一度、お兄さんについて二、三宜しいですか」

「勿論です」そういって、環はクスッと笑った。

「何かおかしな点でも?」

「あ、すみません。ただ、刑事さんが私みたいな何歳も年下の小娘なんかに敬語を使ってるのが面白くて……」

「はぁ……」仕事だから仕方がない、ともいえず、諭は少し視線を外して頭を掻いた。

「まぁ当然ですよね。お仕事なんですから。でも、気がついたら右手も左手も見えない荷物でいっぱい 大事なペンすら握れない……」

「はい?」

「あ、失礼しました。これ歌の歌詞なんです」

「そんな曲ありましたっけ?」諭が首を傾げた。

 すると、環は無言でリモコンを手元に取寄せ、テンキーを数回押した。するとすぐに、画面に曲名が表示され、イントロが流れ出した。

「『horizon』知らない曲です」

「でも、歌手は知っていると思います」

 環にそういわれて、曲名の下の歌手名を見ると、確かにピンと来るものがあった。数年前、サラリーマン向けの曲がヒットしていた。

「この人の歌、ほとんどが働く人に関する曲なんですね。この人、女性の方だって知ってました?」

「いいえ、ただ何となく男かと」諭が首を振った。

「そうだと思います。歌詞が泥臭く、メロディーラインが鼓舞的ですからね。でも、彼女が訴えているのは、女性の社会進出なんですよね。女性だって、満員電車に乗るし、靴底もすり減らすほど歩き回る。ビールだってしこたま飲みたいし、家族サービスだって嫌気が差す……でも、世間は未だに大和撫子の型が強いですよね」

「それをいわれると、耳が痛い……でも、どうしてこの歌手が女性だと? 確かこのアーティスト、一切メディアに出ないで有名だったはず」

「あぁ……」環が呟き、画面に視線を移した。

 諭は環の意図が分からず、堪らず口を開いた。「一体何を――」

「この歌詞」

 画面には、『満員電車 髪も靴も台なしじゃあ 長かった朝がサイアクに塗り変わるさ』という例の曲の歌詞の一部が映っている。

「この歌詞のどこが?」

「長かった朝ってフレーズ、違和感ありません? 男性は起床してから家を出るまでの間をいかに短縮させるか考えているもんです」

「それは君の主観的考えじゃないのか」

「じゃあ、召谷さんはどうですか?」

 女子高生に問われ、諭はぐうの音も出なかった

「でも、それは時間が不定期な刑事であって、他は……」

「時間のリズムが一定でない職は何も刑事だけじゃありません。それに、一定であっても朝を急いでいる人は多いです」

「それでも少数派……」

「それで充分です。何せこういう歌は大衆に共感を得られないといけない。そう考えると、このワンフレーズ、男性にとっては余計な一言です。プロの男性アーティストであれば、まず書きません」

「そういうものか」諭はいまいち納得いかず、首を傾げた。

「そういうものです。歌詞っていうのは、書き手の心情やモットーだけでなく、その人そのものが如実に含まれているのです。例えばこの歌――」環は素早くリモコンを操作し、一曲を入れた。

 大画面にはとある有名な曲が映し出されていた。卒業シーズンになると必ず耳にする曲だ。誰もが知っていて、四半世紀経った今もなお多くのアーティストによってカバーされている、女性ソロ歌手の名曲だ。

「この曲がどうかしたのか」

「この歌詞が指す、『あの人』って誰だと思われますか?」

「ん? その当時好きだった先輩、もしくは恋人だろ」

「大概の方はそういいますね。でもこれ、実は美術の先生を指しているんです」

「美術教師? そんな大恋愛の歌なのか」

「そうじゃありません。そもそも、これはラブソングではないんですよ」

「え?」

 諭自身その曲は、何十年も耳にしてきた。当時はなけなしの小遣いを崩してCDも買ったもんだ。歌詞も諳んじて歌える状態にある。そんな愛着ある歌の背景が哀しい恋愛だと信じて疑わなかった。

「これ、感謝の気持ちなんです」

「感謝?」

「この人、歌っている人ですが、音楽ではなく、芸大の道を志していたんです。で、高校の先生に絵を熱心に教えてもらっていた。でも結果は不合格。その当時、今以上に芸大の道は厳しかったそうです。で、先生からもう来年もチャレンジしなさい、といわれ、その人はうん、といった」

「それで?」

「本人もそのつもりだったんですが、ただ、家は裕福じゃなく、浪人はさせてもらえず、遂には美術の道も諦めてしまった。そして何年も経ったある日、歌詞にあるように、街で偶然見かけてしまった。だけど、先生の言葉を背いちゃったから――」

「遠くで見守るしかなかった……でもそれって感謝か? 後ろめたさに隠れたのなら、謝罪の念が強そうだが」

「いや、これは私の想像ですが、今この方の作詞法の基礎は、その先生にいわれた言葉にあるんじゃないのか、と思っているんです」

「なるほどねぇ。軸を作ってくれたことに関する感謝、か」

「こういう風に、歌は感情のすべてが詰まっています。他にもこんな曲が……」

「それはまた他の誰かにしてくれないか。悪いが、今日はお兄さんに関する情報をもらいにきたんだ」

「あぁ、そうでしたね。すみません、お忙しい中こんなくだらない話を」

「いや、結構楽しませてもらったよ。でも、そんな人の感情に詳しそうなあなたでも、お兄さんのことはあまり?」

「そうですね。背が高く、気弱だったことくらいしか記憶がありません。まぁ、言葉を交わす機会もなかったですから」

「そうか……あぁ、これ、あまり気持ちのよくないものだが、これを見て違和感ないか? いつものお兄さんらしくもないところとか、普段部屋にないものが映り込んでいるとか」諭はそういって胸ポケットから数枚の現場写真を見せた。

「はぁ、でも兄の部屋は一回も見たことないのですが」

「まぁそういわず、見るだけ見てくれないかな」

 諭に半ば説得させられ、環は悲鳴も上げず、黙々と写真を見ていく。そして一枚の写真に環の手が止まった。

「その写真がどうかしたのか」諭は写真を覗き込んだ。被害者である舞野司の顔をアップしたものだ。苦悶の顔を浮かべている。

「これって涙流した痕ですよね」

「どれ?」

「ほら右目から頬までかけて、何か筋が浮き出てます」

 諭は写真を手に取りいわれた箇所を凝視した。「あぁ、確かにそうかもしれないな。でもこれがどうかしたのか」

「兄はほとんど感情を表にしない人なんです。だからこそ、よくわからない部分が多いんですけど」

「でも、死に迫ったら誰でも恐怖で涙ぐらい……」

「でも、ほら、絞殺なのに首に引っ掻き傷がないですよ。恐れてるのに抵抗しないって変じゃないですか?」

「確かに……」

「だとしたら、何の涙だったんでしょうね」

「あ、」諭が漏らした。環の話を聞いていると、一つ思い出したことがあった。「涙、確かに意味があるかもしれないな」

「どういうことです」

「いや……」自分から口に出したものの、一民間人に兄以外の事件の情報を漏洩させていいのか悩んだ。

 それを察知したのか、環は「別に無理には訊きません」といった。まるで諭の感情を汲んだような口ぶりだった。

「これぐらいはいっても大丈夫だろう」諭は一回深呼吸する。「今回の被害者みんな、涙を流している」

「そうですか」

「呆気ない返事だな。そんな驚きじゃないか」

「別段、他がどうとか興味ないです。そうやって全体の共通点ばかり探しているから個人の感情に気づけてないんじゃないのですか」

「個人の感情?」

「他の人は知りませんが、兄は並大抵のことでは涙を流しません。それこそ死を直面したとしても涙は流さないと思います。そんな兄が涙を流す。殺される恐怖以上の感情がそこにあった証拠です。それを考えた方が解決の糸口が見えるかもしれません」

「なるほどね。参考にするよ」諭が無感情でいった。

「なので……絶対に事件を解決させますから、他の情報ください」

「悪いがそれは出来ない」

「一種の講義だと思って……」

諭がふっと鼻で嗤った。「講義? プロの僕にか?」

「確かに召谷さんは事件を多角的に調べるプロです。それなら私は感情のプロ。歌同様、事件にはホワイダニット――何故それを行ったのか――が不可欠です。カラオケで鍛えた私の感情解読術に試してみませんか」

「見かけによらず大胆な一手に出たな。それでもおいそれと情報は流せない」

「兄は私の大事な人だったんです。私に賭けていただけませんでしょうか?」環は僅かに声を震わせた。

「なら、三十分だけ」巧く感情をくすぐられたとわかっても、自然と首が縦に動いた。「何がほしい?」

「取り敢えず、事件の写真、全部見せてくれませんか」

「もう決めたことだから別に構わないが、君はそんなものを見ても平気なのか?」

「ええ、それに命果てるその姿こそ、感情の終着点です」

 諭は環のいっている意味がわからないまま、写真数枚をさっきと同じ胸ポケットから取り出した。「遺体がよく映っているのは、おおよそこの辺だ」

 環はありがとうございます、といって和室のカラオケルームとは正反対の気忙しい写真たちを見ていった。

「確かに泣いてますね、問題は何故泣いているのか」

「簡単に考えれば、色物沙汰」

「愛おしい彼女だから、抵抗せずに殺された……一応、筋は通りますね。兄のそういった線はどうなってます?」

「どうやら恋人はいるらしい。頻繁に同様の女性と連絡を取り合っている。文面から親密な関係だが、まだ特定は出来ていない。それに例え彼女が犯人だとしても、涙を流す理由にはならないだろう」

「あれ、刑事さん、感情に興味おありですか」環が冷やかした。

「バカいえ、君の推理ミスを指摘しているだけだ。感情なんかで、事件が解けるはずがない」

「いや、もう解けるかもしれないです」環が静かにいった。両手にはそれぞれ一枚の写真を持っている。かたや被害者のクローゼットを映した写真、かたや玄関の写真だ。

 改めて写真を覗き見るが、特に違和感はなかった。クローゼットにはシャツやジャケットが並んでいて、玄関は靴が散乱している。ただそれだけだ。

「それはどういう――」諭がいい終わる前に、またイントロが流れ出した。聞いたことないメロディーだ。

 画面中央には大きな文字で『赤い靴』とあった。

「悪いが、曲のレクチャーはまた今度にしてくれ」

「いえ、この曲が真相です」

「曲? この『赤い靴』って曲か。これがどうした」

「これを歌っているのは男性の方です」

「さっきの逆か、それがどうした?」

「わかりませんか、男性でも赤い靴を履きたいってことです。そして、兄もその一人だった」

「GLTBか、でも、どうしてそれが……」

「クローゼットの中のジャケット、中には女性物あります。ほら、これとかボタンの位置が逆です」

「そんなの、彼女の忘れ物だろう」

「でもこれ、だいぶ丈が長いし、値札ついてますよ」環が写真を指差した。指摘通り、値札がついている。しかも、一着だけでなく五、六着はあった。

「ならプレゼントとか?」

「それなら包装されたままでしょ」

「そうだろな……自分がGLTBだと彼女にカミングアウトしたのにも関わらず、逆上され殺された」

「ありえませんね」環がぴしゃりといい切った。「この事件、そんな一筋縄ではないです」

諭の眉がぴくりと動いた。「どうして?」

「この玄関の写真に男性物の靴があります」

「そりゃあ男の部屋だ。あってもおかしくないだろう。実際、服もほとんどが男性用だ」

「でもこの靴、コードヴァンですよ」

「それがどうした」

「召谷さん、靴は口ほど感情をいう代物です。コードヴァンなんて革のダイヤモンドと称される靴です。確かに男性なら一度は履いてみたい靴かもしれませんが、先ほどもいった通り、兄は気弱な性格です。そんな兄がコードヴァンを履いていたとは到底思えません。それに長身の兄にしてはサイズが小さいです」

「それは、つまり……」

「兄の恋人は、男勝り……いや、男でありたかった女性です」

「でも、それなら殺す必要は……お兄さんはGで恋人がLならお互いカミングアウトすれば――」

「召谷さん、何か勘違いされてません?」食い気味に、環がいった。これまでは違って、冷ややかな口調だ。

「勘違い?」

「Gは確かに男性しか愛せない男性同性愛者ですが、必ずしも女装するとは限りません。いや、むしろそちらの方がマイノリティーでしょ。そして、あくまでも、心は男性のままで男性に惹かれるのです。しかし、兄は女性服を持っていた……つまり、兄の場合は、心は女で、あくまで愛の対象者は女性だった。兄の彼女はその逆で、心が男で、愛の対象者は男性だった」

「どちらも、T……だから、どちらかがカミングアウトしたとき齟齬が生じて殺意を抱いた……引っ搔き傷がなかったのは、それでも恋人を愛していたから……まさか、GLTBだったとは……そんな可能性(マイノリティー)、微塵も思い浮かばなかった」

「マイノリティー? 召谷さん、本気でいってます?」環がいった。憤り混じりのため息もあった。

「え?」

「GLTBをマイノリティーなんて、よく口に出来ますね。知ってますか、彼らの割合は今や七・六パーセント、左利きやAB型の割合とほぼ同じだといわれています。私からいわせれば、暗数を含めればもっと多くの人がいて、もっと多くの人が苦しんでいるんです」

「苦しんでいる?」

「ええ、先ほどから召谷さんはカミングアウトという言葉を使用していましたが、それもおかしな話です。何故、自分の在り方を語るのにカミングアウトと口にするんです? そうやって、ことを大袈裟に奉れば奉るほど、彼らの居場所がなくなっていくんです」

「……」諭は何もいえなかった。

「すいません、いい過ぎました」環が小さく首を垂れた。「でも、これだけはいわせてください。兄を殺したのは恋人ですし、動機はGLBTです。ただ、元を糺せば、真の動機は彼らをGLBTという枠で縛りつけている世の中の感情があります。我々の感情はもう、メジャーではないんですよ」

「その感性は歌から得たのか?」

「いったはずです。歌は感情のすべてだと」

「そうか……」

 気づくと諭はエレベーターの中にいた。いくら整理しようとしても、釈然としない感情が胸の中で渦巻いていた。

 事件は感情で解決した。それどころか、感情なしでは到底、たどり着けない真相だ。諭の中でメジャーの物差し(measure)が崩れていく音がした。

「ありがとうございました」

 エントランスを横切ると、例の受付嬢がいた。左手でペンを持っている。

「ちょっといいかな」

「何です?」

「君、血液型は?」

「え? AB型、ですけど……」受付嬢は怪訝な顔を浮かべながら、渋々答えた。


「だよな……」

 諭はそれしかいえなかった。


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