No.13 不思議なコトと潜入任務
データがまた消えました。
報告とは別に3回目です。
もうヤダ·····。
そしてもうお分かりの通り、点をまた変えました。
もうこれにしようかな→·····
〈模擬戦終了直後〉
········
·····
···
·····心臓が、痛い。汗が、体の震えが、止まらない。止められない。
ああ、早くどこかにもたれかかろう。そうでもしないと、今すぐにでも膝から崩れ落ちそうだ。
私──エレン・シークはこのような状態になっていた。
どうしてこのような状態になったのか──それはもうお分かりだろう。···危なかった。
まさか、あんな威力の高いエネルギー弾──レーザーとでも表すべきだろう──をぶち込んで来るとは、夢にも思わなかった。
アレは、私を殺す気で放ってきた。そう思う程の威力だった。
その証拠に──
──私が数秒前まで構えて立っていた場所の地面は融解しており、『奈落の底』という言葉が相応しいほどの、何処までも続きそうな漆黒の穴が空いていた。
薄紅色の光が一瞬光ったと思ったら、その光が猛烈な勢いでこちらに迫って来たのだ。私が避けようとした時には、もう既に遅かったのだ·····。
では、なぜ私は生きているのかという話になるのだが·····。
それについては、きちんと説明がつく行動を取ったため、今私はここに存在できている。
それは──魔法を使用したからだ。
この世界では特殊魔法に分類される魔法、転移魔法:『瞬間移動』を。
魔法と言えば、魔術師や人外の種族──エルフや魔物─が使用するイメージがあるだろう。実際、その通りだ。
この世界では、魔法と言えば攻撃的な物か、生活で使う類である物が一般的な知識だ。
だがこの魔法は、世界の常識を覆した。
物を遠くまで直ぐに送ることだって可能であるし、何しろ人間を移動させられる事さえ可能だ。
だが、帝国では魔法の存在自体を伏せている。まあ、ここではある意味当然の措置だろう。
帝国が食糧自給率が高い、という話を知らない人間はこの世界に居ないだろう。
だが、実際にその高い自給率にありついているのは、貴族と王族のみなのだ。
平民も下民も、お互い助け合って生活している光景が日常茶飯事のように見る事が出来るこの国で、貴族と王族に憎悪の感情を持つ者が居ない──なんて綺麗事の事実は、有り得ない。
もし魔法の存在自体をこの帝国の民全員が知っているとしたら──間違いなく反乱が起き、世界地図から一つの国が消滅する程の事態になるだろう。その国とは──もう、分かるだろう。
故に、魔法の存在は知られていない。それを知るのは、貴族や王族の中でも更に一握り者達のみだ。
言わずもがな、私もその内の一人だ。
だが、魔法を使うのは、貴族や王族は『緊急時のみ』。戦闘員は『緊急時か戦闘時のみ』というルールが存在する。
今回のケースは、模擬戦である為使用する気もなかったのだが·····。
だが、余りにも危険だと思ってしまった。
迎撃の為に放った攻撃魔法:『爆裂波』なのだが、彼等が一つになった機体に命中したところを見てしまった。
多分、今彼等が動かないのもそれが原因だと思われるが······。
まあ、不可抗力というやつだろう。仕方があるまい。
·····いつまでもここにいる訳にはいかない。
心配なため、取り敢えずクロ達を病院に連れて行くか。
誰かに連絡をしなければならないのだが·····誰か応えてくれる奴は居るだろうか?
応えてくれそうな奴を頭の中でリストアップしている中だった。
私の身体から、急に音が鳴り始めた。何故か壮大な音楽である。
慌てて音が聴こえてくる左ポケットの中を漁ると、携帯機器が出て来た。
どうやら壮大な音楽の鳴りどころは、この機器からのようだ。
この音楽は·····ッ!!そうだ!貴族達と国の代表共からの連絡だ。
一体なんだって言うんだよ。今結構忙しいんだぞ!
内心愚痴を零しながら、携帯機器を起動する。
機器の中央にあるボタンを押すと、辺り一面の景色がガラッと変わる。これは立体映像だ。
帝国自慢の技術の賜物である。
暫くすると、顔が暗く隠れた男女四人の若人達が現れた。
顔見せろやこの野郎。
『連絡に応答してくれて感謝するよ。エレン・シーク大佐』
『今回は我らの母国、帝国ビードに歯向かう愚か者共に粛清する事に関する件よ』
『ただ、今回はいつもと違うケースにだ。君達の極秘部隊:bunkerの協力が必要となった』
『検討を要求する』
彼等は現れた瞬間、話を始めた。中には高圧的な野郎もいる。まあいつもと同じだな。
ちなみに、彼らの名前は私も知らない。若いお偉いさん方という事だけは上層部から伝えられている。
ただ、もう少しこっちの状況を考えろよ。
「ハッ。今回は、どのような話なのでしょうか?」
返答を返しながら、下らない話なら無視しよう、そう考えていたのだが──私はこの集会で耳を疑う話を聞くこととなる。
◆
「···うっ」
「·····あァ」
暗闇の空間の中、呻き声を上げる者達がいる。
言わずもがなクロと黒丸だ。
「···ここは一体、何処なんだァ?」
やけに大きい独り言を呟く黒丸。彼が呟いた独り言は、この空間にとても響いた。
どうやら、このは音が反響しやすい場所のようだ。
周囲を見渡すと、辺り一面は漆黒で塗り潰されていた。足場らしき場所は無く、今の自分達は、どちらかと言うと立っていると言うよりは宙に浮いてるというのが正しい。
そして、自分の周囲数メートルが明るくなっていた。試しに腕を大きく振ってみると、それと連動して明かりも動いた。小さく振ってみると、明かりは余りに動かなかった。
状況を確認した黒丸は、クロに声を掛け──ようとして気付いた。自分に──カラダがあることに。だが、そのカラダは完全体という訳では無さそうだ。
輪郭が曖昧で揺らいでおり、印象的には砂糖水の様な不安定さを感じる。
これに黒丸は驚愕した。自分はあくまでもクロの第二性格、いや、第二人格として、この情報世界の意思で生まれた存在。決して自分には専用のカラダは無い筈なのだ。それなのに何故·····。
クロの方を見てみると、顔ごとキョロキョロと動かして現状を確認している。
そして、やはり彼女にもカラダはあるらしい。彼女と言ったのは、それが相応しいと思ったためである。やましいことは無い。
「···一体、どォなってやがんだ······?」
「おい、そんな事言ってる場合では無いぞ。あれを見ろ」
呟きを聞いて、こちらに向かってきては何かを見せたいのだろう、彼女から見て前の方向へ指差すクロ。···唐突だが、こんな奇妙な状況でもぶれることの無い彼女は、ある意味異常だと言える存在だろう。
クロの指差す方向に顔を向けると、人影が見えた。体格から見て、その人影は男のように見える。
彼(?)が現れるにつれ、周囲の景色がガラッと変わる。上は満月が浮かぶ夜空となり、足元は土の大地に。そして周囲は──小さな村になった。
だが、状況や雰囲気が異なっている。あちこちに血痕が付着しており、悲鳴も聞こえる。
鳴り響く叫び声。
阿鼻叫喚。
この村は、どこかと戦闘に巻き込まれているようだ。
すると、男の人影の前に複数の人間が現れた。
その数は目視できるだけで50人強。
彼等は、どうやら男と敵対をしているようだった。
暫くすると、集団の中から、代表者だと思われる人影が男の前に立った。
「~~ッ、~~!!」
何かを言っている。だがここからでは遠すぎるため、どんな内容かは分からない。
感じ取れる事は、雰囲気的に彼等と男は敵対しているという事だろう。
「~~!!~~ッ」
代表者と思われる者はまだ何かを言っている。
その時だった。
キンッ!!
と空間に響く綺麗な金属音と共に、その代表者の人影から首と胴体が離れた。いつの間にか、男の左手には剣が握られていた。多分、いや確実にそれで代表者の首を斬り落としたのだろう。
それだけで十分な理由になる。男と彼等の戦闘が始まった。
だがそれは、戦闘とは言えないほど惨く、一方的な蹂躙劇だった。
50人強の集団は瞬く間に武器を手に持ち、男に仕掛けていく。後方支援型の人間も居るのだろう、武器を取った者達から離れた場所から弓などで攻撃する者や、何やら呪文のようなものを唱えて攻撃やオーラを前線に居る者の体に被わせる者もいる。
それに被われた者達は、気が高まったのか雄叫びを上げて男に迫っていく。
数の暴力。まさにその言葉通りの状況なのにも関わらず、男は動じる様子もない。
男は、左手に持つ剣を独特な姿勢で構え集団を見据える。ボソボソと小さな声で何かを呟く。
そして次の瞬間──集団の前に、紅蓮の竜巻が出現した。
その事については何も知らなかったのだろう、彼等の動きが一瞬硬直した。
だが、その一瞬で──集団の八割の者が細切れになり、命を落とした。
この光景には、流石に驚きを隠せないのだろう。クロは当たり前だが、黒丸までもが、言葉を失っていた。唖然としていて、声も出ない様子だ。
そんな二人を置き去りにして、事態はどんどん進んでいく。
この状況に、集団は恐慌状態に陥った。
当然だ。ついさっきまで共に戦っていた者が、一瞬で細切れにされたのだから。
冷静な判断など、誰もとれる訳が無い。
一体感は一瞬で崩壊し、人間たちはバラバラになりながら逃げ惑っている。今の彼等の頭の中にある事は男から逃げて生き延びることのみ。もう誰も、男と戦うなんて考えは持っていなかった。
だが──現実は無情である。
男は、また何かをボソッと呟き、剣を構えた。
そして『回転斬り』とでも言い表せる動作をすると、彼の剣から紅蓮の竜巻が放出された。
竜巻は無慈悲に、逃げようとする愚者に襲い掛かり、細切れにする。
それでも生き残った──生き残ってしまった者も居る。そうなってしまった者達は、皆同じように男に命乞いをする。
だが、そんな行為は心に響かないとでもいうように、流れ作業の如く命乞いをして来た者達の命を狩る。
戦闘開始から僅か数十分。50人強も居た集団は、今はただの血痕へと姿を変えていた。
途中、クロが揺れて倒れ込みそうになる。単にグロテスクな光景が苦手なのか、精神が弱いのか·····。
だが、それは無理もない事だろう。あの黒丸でさえ顔を顰めているのだから。彼の場合は苦手などではなく不快になったからなのだろう。
その戦闘が終わって数分たった時だった。
男が何かをクロ達の居る場所へ体を向けた。どんな手段を使用したのかは不明だが、どうやらクロ達を視認したらしい。
男は剣を鞘にしまうと、こちらに向かって走って大声で何かを叫びながら近付いてきた。
彼が近付いてくるにつれて、声も鮮明になってくる。彼は、「早く逃げろ!!」と言っているようだ。
だが、彼が近付いてくるにつれてクロ達は警戒態勢をとる。当然だ。
男の服装は血塗れになっており、顔も血で真っ赤に染まり、表情が何も見えないからだ。だが、だんだんと、男の表情が分かってくる。血が取れてきているようだ。まあ、服の裾で顔を拭いていたのも要因の一つであろう。
男の顔は──一言で言えば美形であった。
髪は女性のように黒髪の長いストレートヘアで、肌は美しいベージュ色。下手をすると、女性と見間違えてしまう程だ。
だが、女性では無い。はっきりと分かったのは、服が破れたところから見れる正面の筋肉が決め手だろう。まず、ブラを必要としていない。というか、声が男の声なのだからそれで分かるというものだ。
男はクロ達の数メートル前で走るのをやめ、立ち止まると、クロ達に話し掛けた。かなり必死の様子だ。
だが、その声は先程と違って何も聞こえなくなった。『早く逃げろ』と叫ばれた時はくっきりと聴こえたと言うのに。
まるで、聞かれたらまずいとでも言うように、この空間が意志を持って阻止をしているかのようだった。
そして、何かを話し終えると、彼の視線は黒丸に向けられた。
また、何かを話している。だが、それも聞こえない。
そして、男は満足したような表情をすると、彼の姿は霧のように消えてしまった。
クロは何も分かっていない様子だ。
だが、黒丸は目を見開いて激しく動揺している──ような様子だ。
その証拠に、彼の手足はプルプルと震えており、未完成のカラダだと言うのに、その顔からは動揺している事がありありと窺える。
黒丸は、右手で疼く左胸を強く握り締めながら、本人も気付かないほどの小さく掠れた声で、こう呟いた。
「······親···父?」
だが、ここには二人しか居ないためか、その声はクロの感知機器に拾われたらしい。
「親父?それは一体······?」
だが、その質問に黒丸は応えない──応えられない。
それは、彼が激しくカラダを震わせ、しゃがみ込んで両腕をさすっている様子を見れば明白だ。
これでは埒が明かない──そうクロが思っていると、突然自分の後ろがやけに明るくなった。
自分の影まで見えるのだから、間違いない。
振り返ってみると、そこには光の球体が浮かんでいた。
光の球体は、自分達から遠ざかったと思ったら、強い光を発してきた。徐々にその光は強さを増し続け、最終的には目視出来ないほど強く光を発した。
クロ達の意識が曖昧になってくる。
この感覚は、あの時以来だろう。
クロ達が意識を手放す前に、光の球体が言葉を伝えてきた。
『──第二都市マーレで、逢いましょう──』
それを境に、彼等の意識は途絶えた。
◆
「今、何と仰いましたか?」
私は先程の発言の理解に苦しんでいた。
先程から、お偉いさん方と私は、これから起こる──起こす予定の戦争について会話をしていた。要約するとこうだ。
──帝国ビードの第二の都市として名高い街マーレに不穏分子が紛れ込み、そこに住む誇り高き民全員が不穏分子に洗脳されてしまった情報を得た。
彼等は帝国から独立しようと、武力集団を複数結成いている。
このような状況にした不穏分子のリーダーを突き止め、可能ならば殺害せよ──
と。だが、この後の話が問題だった。
『言った通りだ。今回の件は余りにも重大だと上層部側は判断した』
『よって、この情報は絶対に漏れてはならないのよ』
『もし、今回の件が失敗したら──』
『マーレに住む建造物と民諸共我らの兵で蹂躙する』
──こう言い放ったのだ。
これは、余りにも惨すぎる話だ。
流石にこれはおかしいだろう、私はそう思った。
「お待ち下さい!それでは上層部は、陛下は、誇り高き我らの帝国の民を見捨てると、そう仰っているのですか!?他の手段は無いのですか!?」
『これは決定事項なのだよ、エレン大佐。君は、何か考えでもあるのかい?』
「─ッ。マ、マーレに住む民をその不穏分子から解放して、洗脳を解くなど──」
『甘い。甘いわ、エレン大佐。仮に民を解放できたとしても、洗脳はどう解くの?まさか、科学技術をもって解くなんて言わないわよね?』
「なっ!?それでは、何のために科学技術はあるのですか!?」
『戦争のためよ。大佐』
「──ッ」
ここまでくると、何も言い返せない。
彼等には、陛下には、血も涙も無いようだ。
「···了解しました。先程の無礼、お許し下さい」
『分かればいいのよ。分かれば』
「では、bunkerの隊員から複数人選び、潜入させる事になります。宜しいですか?」
『まあ待て。焦るな。今回は、君の部隊の中から一人のみ潜入させてもらう。その者ももうこちらで決定している』
「······左様でございますか。失礼ですが、その者をお教え頂けないでしょうか」
何やら非常に嫌な予感がする。
この第六感とでも言うべきものは、よく当たるのだ。今回は一体──
『上層部でも話題になっている機械兵Code960に潜入してもらうが、宜しいな?』
「なっ!?お、お待ち下さ──」
『何よ、貴方らしくないわね?何か隠しているのではなくて?』
「そういう事ではありません!今、Code960は腕に酷い損傷を──ッ!!」
『なら、直ぐに修理に取り掛からせなさい。必要最低限でいいわ』
「ッ!·····了解しました」
『あと三日で準備をしておいてくれ。頼んだよ?』
そう言うと彼等からの通信は途絶えた。
同時に、立体映像も切れ、もと光景に戻る。
私は、彼等の方へ視線を向けた。
正拳突きのような構えで、眼の光が暗くなったまま固まっている状態だ。
私は奥歯を食いしばる。ギリギリと、歯が欠けそうな強さで固く食いしばる。
「すまない、クロ、黒丸。お前達に、厄介事の任務を頼む事になりそうだ」
頭が冷めた私はそう呟き、携帯機器である相手に連絡を取った。その相手は──ハチである。
──一方その頃、ハチは·····
(アイアンって何なんだ?)
エレンに言われた事についてずっと考えており、取り敢えず、部屋の掃除をしていた。