自称偽物(?)との模擬戦──其の八──
遅れてすみません。
忙しくなってしまい、休ませていただきました。
「大丈夫かな?まだ帰って来てないだなんて・・・・・・そんなに高く飛ばしたか、私?」
私─エレン・シークは、不安になりながらそう呟いていた。
アイツの様子がおかしくなってからもう数時間経っている。
模擬戦でなら何かが分かるのではないかと考え、幸いにも馬鹿な発言をしたあいつの言質を利用して強引にそれにまで流れを持っていったのだが・・・・・・。
──ハッキリ言うと、アレは別人だ。
実際、『自分はクロであり、そうでは無い存在』と自分で説明していたからそうなのだろうがな・・・・・・。
下手すると私が負ける事になっていた。
多分、姑息な手段を使うか、私の全力と魔法を使って闘り合わなければならなかっただろう。そう思ってしまった程だ。
まず、戦闘技術がいつものクロでは無かった。
いつものあいつならば、スピードで翻弄なんて事はせず、どのようにして相手をラクにするかを考えているかのようなスタイルで、いわばカウンター重視の戦い方だった。
だが、あいつは─黒丸は、それとは正反対のスタイルの戦い方だった。
例えるならば、戦闘狂や暗殺者の様なスタイルだ。
機械兵特有の加速──マッハアクセルを使用して自分の背後に現れたと思った瞬間、あいつの脚が目と鼻の先に来ている。
何とか防げたと思うと、今度は真正面から突っ込んできて、普通は剣や細剣でやる技であろう刺突を脚で繰り出してくる。
反撃をしようとすると、あいつの背後から殺気、覇気と言い表すべきなのだろうか。
そのような、今まで感じた事がないような鋭い空気が私の身を襲い、動きに阻害が発生してしまう。
この連撃を防げたのはまぐれと言ってもいい。
次の攻撃も防げるかどうか・・・・・・。
これが私の持つ感想だ。
あいつは─黒丸は、姿かたちはクロなのに、パーツも何も変わっていないのに、異世界から伝わった技術で造られたLEDの眼の眼差しは、酷く冷たく、濁っている─ように感じた。
まるで一人の歴戦の人間を相手にしているようにかんじる。
「……どうするかねえ…」
私は茫然とした感情をそのまま含んだ声で、また呟いていた。
そろそろ終わらせるか、なんて考えていると、上空から、
「~~!!ガッ~~ウルァ~ナ~~ニゲッ!~~」
声が聞こえてきた。酷く濁っている。
その声(?)の言う通りに、その場から数百㍍離れた瞬間、
ドッッガァァァァン!!
という轟音と共に、人型の物体が落ちてきた。
恐らく、いや、絶対クロ─黒丸だろう。
「おい!黒丸!どうした?何があったんだ?」
と、声を声を掛けるのと同時に、耳を劈くような奇声を発して来た。
思わず耳を塞いでしまう。
奇声が収まり、恐る恐る手を離して、黒丸の方を見ると──
「…なん…だ?……その姿は…」
「ウゥゥルルゥァ……タイ…チョ…ニゲ…ウガァ!」
苦しそうにもがきながら、私に『逃げろ』と伝えてきた黒丸だった。
だが、その姿はまるで獣のようだ。
鋭く、黄色い瞳。
前屈みの姿勢で、腕は力が入っていないのか、プラプラさせている。
その腕は何故か変形しており、鋭利な刃物や業物等を無理やり詰め込んでいるように思える歪んだ形状になっている。
どうしてこうなったのかを聞こうとした時、様子が急変した。
ビクッと身体が痙攣したかのように震えたかと思うと、その歪んだ腕から煙が出てきて、赤色に発光し始めた。
そして、発光が収まり、身体の震えも収まった黒丸の姿は──別人のように変化していた。
黒色の長髪は、黒銀色の荒々しさを感じるショートになっており、先程黄色かった瞳は、青色になっている。
「「ハァ…ハァ…。すみません、隊長。オレらのアクシデントに巻き込んじまって……」」
そして人工声も変化していた。
クロと黒丸、二人が重なっているような声になっている。
「一体何があったんだ?その……」
クロなのか黒丸なのか分からないので言葉の選択に迷っていると、
「「オレらはクロと黒丸の意識が合体したようなもんです。意識は繋がっていますし、どちらかの意識だけを表に出すこともできますよ」」
と言われた。
お、おう。そうか…。
だがやっぱり──
「もう一度聞くぞ。一体何があった?」
気になるので聞くことにした。
「「はい。分かりました。少し長くなりますよ?」」
そう言ってコイツは話し始めた。
私にぶっ飛ばされてから上空で何が起きたのかを。
……そろそろ決着着けないといけないよな?
◆
「世界的スキル、だァ?」
見た事も聞いた事もねェ、だがオレの目の前に存在するモノにオレは困惑する。
((ああ。どうやらこれらを使用すると今までよりも比べ物にならない程強くなれる─らしい))
「らしいってなんだよ。確信持ってからにしろやクソガキ」
((うっ))
はァ、これだからクロはよォ。
だが、確かに知った方がいいなァ。
「まァそいつァ仕方ねェ事だ。教えろ」
((…すまないな。だが感謝する。それじゃあ説明するぞ?まず──))
オレに感謝の気持ちを伝え、クロは説明─仮説兼事実─を始めた。
スキルという物は、オレらが今を生きている場所とは別の世界─異世界に住む生物達や神話の中での存在で、この世界の人間や人造物はスキルを顕現する事は不可能。
それ以外の存在ならば顕現すると言う。
スキルは、異能力や超能力の類だと言う。
「もうその時点でダメダメじゃねェか。何でオレらに顕現してんだよ」
((そんな事言われても困る。顕現してんだからさ。その事は置いておこう))
「…おう。納得いかねェがな」
((それよりもワタシたちに顕現したスキルの方が問題だよ。何だよ、『科学ノ狂者達』・『人間ノ始祖』って))
「さァな。だが、これらが持つ能力が強いのは確かだろうな。確認は?」
((まだだよ。そもそも、どうやって確認するんだ?))
「気合いでなんとかなるだろ。念じてみるぜ」
((それは流石に──))
「(オレらは求める。我らが身に顕現した能力の詳細を。その能力、示したまえ」
オレが念じてみると──
〖Code960&960’─クロ・黒丸─:スキル〗
スキル
『科学ノ狂者達』…権能:精神・心理
能力:表裏交代、狂気科学 、戦闘狂化
解放度48%・現在、世界的スキル
〈使用中、身体能力の超強化を可能にする。
ただし、初回及び使用増加に伴い身体が戦闘狂化に侵食されてしまう。
対抗又は統一するにはЙЖЬスキル『科学ノ狂者達』又は『人間ノ始祖』が必要となる。
以下が使用時などの影響である。
・初期状態:獣の様になり、意思疎通が困難になる。
・中期状態:思考回路が凶化。理性が保てなくなる。
・最終状態:サイコパス化。無差別に破壊活動を行う。破壊活動に快楽を覚える〉
『人間ノ始祖』…権能:生命・星
能力:永久探求、創攻守、星質操作
解放度48%・現在、世界的スキル
〈常時発動型。無意識に発動している為、使用者に負担や影響は無い。
発動中は自身のエネルギーや魔力が倍増する。
ただし、星質操作は使用者のエネルギー又は魔力を多大に消費する。
以下が星質操作の説明である。
・星質操作…世界の物質を強制変換させたり、周囲の元素を変換する。自身のエネルギーや魔力を変換して草木を育てたり、汚染された空気や物質を清浄する事が可能。
ただし、使用したら数日は使用が不可能になる〉
*これらは現在使用可能な物となる。
──普通に表示された。
「なァ?言ったろ、気合いで何とかなるって」
((嘘つけ!結構専門用語的なやつを並べなくてはならなかっただろうが!))
うるせェ野郎だ。
見れたんだから別にいいと思うんだがなァ。
「わァったよ。すまんかったなぁ」
((いやもういいわ。お前なら何でもありって覚えておくとするさ))
……解せぬなァ。どうしてだァ?
((そんな事はともかく、一緒に確認するぞ))
……。
馬鹿にされてる気分だなァ。
まあいい。
少しばかり不満を覚えたが、直ぐに確認することにした。
○
確認後──
((うぅーん?まあつまりは、この二つのスキルはメリットもデメリットも存在するという訳か?特に『科学ノ狂者達』は))
「そォいう事だろうなァ。どうする?使ってみるかァ?」
オレらは確認後、使用するか否かを話し合っていた。
とんでもなくすげぇスキルという事は分かったのだが・・・危険な感じがする。
ぶっつけは危険だと本能が訴えて来るんだよなァ。
ソレには俺も同感なのだが。
がしかし──
((使ってみるとするか))
「!?待て。何の確認も無しにぶっつけで使うってかァ?危険だ、辞めた方がいい」
クロは使おうと言い始めた。
しかも準備も始めている。
((何でだ?使うかと聞いたのはお前だろう?ダメな時はダメでその時に考えればいいだろう))
「確かにそうだがよォ、馬鹿かお前は!お前は一度も使ったこともねェ爆発物系武器をぶっつけで装備するか?しねェだろ!考え─」
どうにかして止めようとしたが──
「ちょっ待─!?」
((さっきのお前の言い方風に話すとこうか。
スキル発動。『科学ノ狂者達』、『人間ノ始祖』!
ワタシに力を!!))
止める暇もなく、勝手に発動させられたのだった。
そして、現在に至る。
◆
「「という訳ですよ」」
何がという訳ですよだよ。
つまりはクロの暴走?だろ。自業自得だな。
「…話は分かった。だが驚きだな。スキルが顕現しただなんて」
これには本当に驚きだ。
この世界でのスキル所持者は異世界人か他の種族くらいだろう。
我々の中にスキルを顕現させる者が現れるなんて…
「「もしかしたら、隊長もスキルを持っているのかもしれませんね」」
「いやいや、それは無いだろ」
思わず苦笑いして答えた。
そんな事は天地がひっくり返っても無いだろう。
「「本当ですか?なら、模擬戦が終わったら見せて下さいね」」
「?ああ、分かった」
一体何を見るのかは知らないが、取り敢えず約束をした。
「「それでは、再開しますよ!」」
「ああ。全力で来い!」
私たちは全身全霊を掛けて、攻撃へ臨んだ。
そして勝負は、直ぐに決着が着く事となる。
(さぁて、どうしようか)
オレは再開した模擬戦を楽しむ為に、全力を尽くそうかな、と考えていた。
そんな時──
(いい考えがある。聞いてくれ)
クロから提案が出てきた。
嫌な予感しかしない。
(…聞くだけ聞いてやる)
(感謝する。スキルを使おうと思う。『科学ノ狂者達』を)
やっぱりだ。
それに対する返答は一つのみ。
つまり──
(却下だ)
(何でだ!?全力でならばスキルを使うのが一番だろう!?)
(てめぇはさっきの事を学ばなかったのかあ"ァ"!?これ以上迷惑かけんじゃねェ!)
(君は何も分かっていないね。今回の失敗を次に活かせばいい話だろう?)
(分かってねぇのはお前だ!お前!いいか?─)
そしてここから、体感時間数十分、実際一秒の口論が続き──
(はァ。わーったよ。どうなっても知らねェからな)
オレが丸められた。
どんなに危険性を訴えても聞く耳を持ちやしねェ。
何でオレがこんなことを思ってんだァ?
(感謝するよ。すまないね、黒丸)
(そう思うんなら頼んでんじゃあねェよ)
ったくよォ。
そんな事を言いながらも、作業は一緒に進められていく。
(これでいいなァ?)
(あぁ。一瞬でやって野郎じゃねぇか)
(おう。行くぞ)
オレらは完全に一心同体になり、共鳴し合う。
そして─
「「いくぜェ?"狂科学重撃波"!!」」
全力で叫び、両腕に集めた膨大なエネルギーを一気に隊長のいる場所へ放ち──意識はそこで途絶えた。
『面白い』『なんじゃこりゃ!?』などと思ったら、評価などをお願いします!
追記:またまた「·····」を変更しました。すみません!
最後の文に、二人の会話が有りましたが、アレはスキルの設定で、体は一つ、思考は二つ。という設定です!