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 愛しているから。

 好きだから。

 それが駄目だって言われる。

 私には何が悪いのか分からない。人を好きになってはいけないのだろうか。


―――――――――――――――


「私としては二つ! 由仁が鹿乃の気持ちを認めたとしても鹿乃が大人になるまで待ってあげる場合、それか鹿乃のこと好きじゃないから鹿乃に潔く諦めてもらう場合」

 そんな選択肢に意味はない。それは私だってそう思ったし、鹿乃さんなら猶更だろう。

「どうして待たなきゃダメなの!? お互いに好きなら、ずっと一緒にいていいじゃん!」

「それは犯罪だから」

 馬希の言っていることも確かだ。未成年どころじゃない子供と恋愛なんていうのは犯罪で悪いこと。認められない関係なのだ。

 同性愛だって昔はそんな扱いだったし私は今でもあまり良くないと思っている。本音で話すと決めた馬希に隠していたからそんな疚しい気持ちが残っているせいかもしれないけれど。

 だから簡単に否定するのは躊躇われる。こんなに好きだという気持ちをぶつけられて蔑ろにするのは気が引ける。

 でも私がどう思わなくてもダメなものはダメ、というのだ。

「鹿乃さん、今告白をしても断ります。私は貴女とは付き合いません。子供だから」

「それでも……一緒にいるくらいいいじゃないですか。私は……」

 子供であるとか、友達の妹であるとか、一緒にいる理由ならいくらでもある。だから今まで一緒にいたのだから。

 それが許されなくなったのは鹿乃さんのせい。

「あんな風に乱暴にされると、とても」

「……そんな風に好きだって気付いたんです。由仁お姉さんの姿を見て、そんなつもりじゃなかったのに、私……、だって、でも、そんなのお互い好きだったら……」

「私は鹿乃さんにそこまで許してない」

 彼女は大人なのかもしれない、思っているよりずっと。そういう性が目覚めているくらいには。

 でも体の発達とか問題はある。まだ恋愛対象だってきちんと選べているかどうかわからない。彼女が子供であるというだけで、彼女の選択や意思の一つ一つさえ疑わないといけない。

 自己責任が許されるのはもう少し大人になってからだ。

「それだったらお姉ちゃんたちはどうなの!? まだ大人じゃないのになんでもかんでも知った風に言って!」

「お父さんとかお母さんに聞いても同じように言うよ。言ったら色々鹿乃がヤバいから言わないようにしてるだけだし」

 馬希の言葉は絶対的に正しかった。少なくともそれが常識的な言葉であって、鹿乃さんさえ反論できない。

 ただそれとは反対に私は言葉も気持ちも弱くなってしまった。そういうことを考えていると男と女では結婚ができないとか子供ができないとか、いろんな理由を探せば見つかるのを通して現状が変わったのに、今の鹿乃さんがそれだけ未成熟な人間には見えなかったから。

 もう中学生にもなる、電車では大人料金だ。数学の問題だって解くようになるし私との年齢差もせいぜい三つか四つだろう。

 私が偉そうに言えることなんだろうか。暴力的だったのは悪いけれど、私だって自分の感情を抑えられないことはあるし、小学生同士や高校生同士で付き合っている人がいるのに小学生と高校生が付き合ってはいけない理由があるのだろうか。

 可哀想だ、なんて思うこと自体失礼だし、子供だからって思ってしまうのかもしれないけど、私はもう長いことこの子に同情し続けてきてしまった。

「……ねえ馬希、でも私も、もうちょっと、なんか、鹿乃さんに……歩み寄りたい、みたいな……」

 私の言葉に、馬希も鹿乃さんも絶句しているようだった。きっと、誰も想像してなかったんだろう、こういう風に私が思うことを。

「きっと鹿乃さんを不幸な風にはしない。体を触られるとかは嫌だし、鹿乃さんの体を触るようなこともしないけど、一緒にいてあげるくらいは……もう少し優しい言葉をかけるくらいは……」

 ぬ。

 眼前に馬希の顔があった。

 ぐい。

 タイを掴まれて。

「キスするよ」

「!? !? はい!?」

 むちゅう。

 混乱一秒。

 あとは白。

 目を閉じているはずなのに目前は何もかも真っ白だった。何も見えない白のはずなのに。前に馬希がいるっていうことは何故か分かっていてそれが私にとっては念願の、積年の気持ちの何かであることが確かで夢に見ていたそれを今しているというのが理解できているというのはきっとこれは夢なのかもしれなくて今の不安定のフワフワした不明な感情は猶更実感のある夢のようで体の底から沸き立つ感情も熱情のオーバーヒートしたけだるさもそれでもなお湧き上がる全身を動かしたい震えのような歓喜とただ身を任せてしまいたいいっそ死んでもいいような殺されても幸せであるような人生の有頂天を前に――

 ああ、帰ったらオナニーしよう――


「で、まだ鹿乃と仲良くしてもいいって思う?」

「……え、うん、それは別問題だし」

「そう。じゃあ、いいや。……私のことまだ好き?」

「うっ! うん! もしかして馬希私のことを」

「いやないない。鹿乃に変なことされて変な気になってないかっていう確認したかっただけ」

「それでキスまで?」

「もうキスくらい平気じゃない? ……なんていうけど結構緊張したけど」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 突然鹿乃さんが発狂したみたいに叫んで暴れ出したので、それを落ち着かせるのに少し時間がかかって、それどころじゃなくなった。

 ただ、なんだろう。私はもう少し鹿乃さんと真っすぐ向き合える気がした。なんか色々どうでもよくなった、というのが正直な気持ちだけれど。

 馬希は、うん、元からスキンシップ多かったし平気なんだろう。馬希が好きでよかった、馬希じゃなかったらこんなことしてくれなかった。……はぁ……。


――――――――――――


 お姉ちゃんにキスをされた由仁お姉さんを見て、わかった。

 敗北、だった。

「由仁お姉さん、私が大人になってから告白したら真剣に考えてくれますか?」

「うん、いいけど」

 今までははぐらかされているとか先延ばしにされているとか、真剣に考えられていないと思っていた。だから私も頑張ろうって、もっと近づこうって思った。お風呂で由仁お姉さんにしたことは、私としても予想外だったけど、それでお姉ちゃんよりも近づけたならそれだけで優越感さえあった。

 でもダメだった。だって私のことを好きじゃないから。私よりずっと好きな人がいるから。

 だから、今は待つ。諦められないから今よりも後に、きっとお姉ちゃんより私の方を好きになってくれるだろうと信じて。

 子供というだけで惨めだ。由仁お姉さんの大事にしている嘘を吐かない、隠し事をしないっていうルールを破ってでも、でもしがみついている。まだ好きだから、絶対好きだから。

 だから、待つ。眠れない日もあったけど、表向きは由仁お姉さんも仲良くしてくれるから、耐えられる。

 私の気持ちはきっと色褪せない。子供だからって雑に考えたわけじゃない、すぐに変わるような気持ちでもない。本当の大好きだから。


―――――――――――――


「キスなんてしたことないからドキドキしたよ」

「……本当に私が好きってことはない?」

「前も言ったけど、学校の友達でなら一番好きだよ。でも、まだ王子に未練ちょっとあるし、由仁のことがベストではないねぇ」

 なんて言いながら、由仁の部屋にある同性愛がなんだのかんだのっていう本を手に取って、めくってみる。

「あ、それ」

「これってどういうきっかけで買ったの? 自分が女性のが好きって気付いたから? それとも単に偶然?」

「……どうだっけ。好きな人ができる前に買っていたから、なんとなくかな」

 由仁がそういうのならそうなんだろう。同性愛とかの本をパラパラ読んで、難しいなぁ、なんてぼやきながらも真面目に読んでみる。

「友達も家族もこうだし、私も勉強しないとね」

「あ、ごめん、なんか」

「由仁が謝ることじゃなくない? ま、いーけどさ」

 そう、由仁だけじゃなくて鹿乃も井藤さんもそうだったんだから、ちょっとでも知ることは大事だろう。

 ……まあ、そう思わせたのは、私が好きって言えないであんなに辛そうにしていた由仁が原因だけど。

 由仁も井藤さんも隠していたわけだし。正直にぶつかったのは鹿乃だけだ。我が妹ながらバカみたいだけど、そういうところがいいよね。

「今なら、まあ応援できるよ、二人のこと。鹿乃が大人になったらね」

 まだ由仁は、私のことを好きなんだろうけど、そんなことを言った。

「馬希、私は……」

「私はやっぱりそういうのない……、っていうかやっぱり女の人を好きにならないよ。変だからとかじゃなくて、私自身の気持ちの問題。それはもう、ごめんとは言わない、って感じかな」

 本をパラパラ読んで得た言葉をそのままぶつける。好きとか好きになれないに理由なんていらないし、誰かに謝るようなことでも責められるようなことでもない。

 由仁が私を好きになって鹿乃さんと付き合わないみたいに、私はまだ王子のことをどこかで想っていて、由仁とどうこうなろうなんていうのはない。

 恋愛が面倒臭い、っていうのはちょっとあるなぁ。

「ま、でもこれからも末永くよろしくよ、由仁さん」

「……はいはい」

 私が笑いかけると、由仁も呆れた風に笑ってくれた。

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