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よん (ネーロ視点)

なんで、なんでなんでなんでだよ!!

ハクが魔素を吸うことが出来るのは俺だけだって、そのはずなんだって聞いてたのに、何が起こってるんだよ。

このままだと俺の中の信用ならない奴が出てきてしまいそうになる。

怖い怖い怖い。ハクがいなくなりそうで、この手を少しでも緩めたらハクがいなくなってしまいそうで。


「 あ、の、ネーロ。うで・・・。」

「 あ、わりぃ。」


ハクの痛そうな声で我に返る。きっと、力の加減が出来ずに掴んでしまった腕には俺の手の跡がバッチリついてしまったに違いない。

ハクはとても弱いのにひどいことをしてしまった。だから最近の俺は信用できないんだよ。いつも後で後悔してしまう。ハクを大切にしたいだけなのに、ハクをひどくしているのは俺じゃねえか?

そのまま不安げにしているハクを抱き上げる。落とさない様に、今度こそ間違わない様に、大事に、大事に。嫌なのかハクが体を少し捩った。


「こら、危ないだろう。動くなよ。」


落とさない様に、大事にしたくて、離したくなくて腕に力がこもる。大丈夫、今度は加減がわかる。

そのまま進んでいた先にある、ベンチに運んで姿勢を立ててやる。倒れ込んでもいいように横に座ればハクは俺がつかんでいた場所をさすっていた。俺の魔素吸ったら痛てえのも治んだろ。


「 なあ、おまえ、俺の魔素吸えよ。」


お、びっくりしてる。いつも伏せていた目をクリッと大きく開けて、口を開けている。赤い目が光に当たってキラキラと光る。あれ、これ息もしてないんじゃねえの? ふ、かわいいなあ、おい。

にやけているんだろうなあ、今の俺の顔。

ああ、久しぶりに見たハクの表情。最近の、というか、この場所に来る前から何してたんだろう。

一番大事なのはハクだろ? 俺の事情とか、気持ちとか、それよりも優先はハクのことだよなあ!

あーーーーーー!!やっぱり最近の俺、信用できなかった!


そう思ったら目の前が明るくなった。周りの景色もクリアになった気がするし、隣にいるハクのいい匂いも強くなった。


「 ふ、驚いた顔も不細工だな。」

「 ぐ、知ってるよ。」


うそだよ、本当は可愛くて食べちまいたいよ。そうだよ、食べちまいたいんだよ。

でもよお、食っちまったらハクはいなくなっちまうだろ? 俺を見つめているこのキレーな赤い目も。

そしたら食えねえし、そのためには食う気も抑えろよなあ、ネーロさんよお。



「 そんなことより、腹減ってるんだろ、吸えよ。」

「 え、でも、これ以上吸ったらネーロが倒れちゃうんじゃ・・・。」

「 あー、そんなこと言ったか?」

「 うん、ここに来る前に『 あんまり吸うな。』って・・・。」


はあ、ホントにろくでもねえなあ、俺。

ハクにひどいことしたのに、俺の言葉がハクに響いてるって思うだけで温かいものが後から後からあふれてきちまう。


「 あー、まあ、それは無しだ。今からちゃんと吸え。もういい、他のやつの魔素を吸うくらいなら俺のだけ吸え。」


もし、まだハクの中に俺がいてもいいのなら、こんな俺でもいいと思ってくれるなら俺の魔素を吸ってほしい。

俺は臆病者だからここでもハクを試しちまう。


「 あ、ネーロ。すごいよ! さっき、オラムさんの魔素を吸えたんだよ!! 」


・・・ハクは嬉しそうな顔で言いやがった。

今の言葉で軽く死ねるな、俺。


「 これでネーロもボクを気にせずに好きなこともできるし、好きな所にも行けるよ!ここを卒業したらまた旅に出ることもできる!」

「 ・・・おまえはそれでいいのか?」

「 うん、だってさ、ネーロをいつまでも縛り付けておくわけにはいかないだろう? たくさんたーくさんお世話になったんだからボクはネーロに早く自分の為に生きてほしい。ボクなんかにかまってないで、ネーロが必要とするところに行けばいい! それがボクに出来るネーロへの唯一の事。」


はあ、情けねえ。命よりも大事な番にこんなことを言わすとか、番に会す顔がねえ。親父にぼこぼこにされちまうだろうし、おじさんとおばさんにも合わす顔がねえ。

ああ、俺のしっぽは素直だな。情けなくて素直に喜べない。もう揺らす力も出ねえ。

神狼族のどこに尽くして世話させてほしい相手が自分の事を気遣ってくれてるとか、そんな幸せな関係を築けてるやつがいるのか。そんなことにも気づかずにあーでもねえ、こーでもねえって自分の事ばっかり考えてハクの事を何も考えてなかった。


目の前で首をかしげてるハクは本当によくできた番だよ。


「 はあああああああ・・・。俺も悪いけど、これはキツイ。」

「 え? どこか辛いの?」

「 いや、何でもない。」


綺麗に光る白い頭を撫でまわす。ああ、この感触も最後かもしれねえからよく覚えておこう。

まあ、いつまでもこのままでいてえけど、そういうわけにもいかねえ。ハクがその気なら俺も腹据えねえとな。

自分の頬を両手で張って立ち上がる。


「 よし、仕切り直しだ。おい、お前、っと、ハク。」

「 は、はい。」

「 魔素は好きなだけ吸えばいい。ハクの吸いたいときに吸いたいだけ、だ。だからほかのやつの魔素は吸わなくてもいい、吸うな。」


分かったな、と頷かせる。これで真面目なハクは俺以外の魔素を吸う事は無いだろう。


「 でも、ネーロの負担が増えちゃう。」

「 大丈夫だ、ハクが吸ったところで俺が倒れるわけがない。思いっきりいけ。」

「 でも、」

「 でも、じゃねえんだよ。これは決定なんだ。ハクが何を言ってもこれだけは譲らねえ。」


何か難しそうな顔をしているハクもかわいいなあ、おい。


「 あの、ネーロ以外の魔素が吸えるってことは調べていきたいんだけど・・・。」


俺の目を見つめてくるハクは想像以上にヤバくて今すぐに腕の中に閉じ込めたくなる。

でも俺は他の神狼族とは違う。俺の事を本当に考えてくれている言葉だってわかってるから激昂しない。深呼吸してからハクに言う。


「 ・・・わかったよ。しょうがねえ。だけど条件がある。」

「 条件?」

「 ああ、俺も一緒に調べる。いつも一緒だ。何があったらすぐに言え。俺の視界から消えるな。俺のいないときは鍵かけて部屋でじっとしてろ。一人で出歩くんじゃあねえぞ。それと・・・。」

「 ええ、まだあるの?」

「 ああ、まだある。知らないやつについていくな、一人で行動するな、魔素が吸えたらすぐに教えろ、そして俺以外の魔素は吸うな。」

「 なんかおんなじことばっかり言ってるよ。ふふ、結局ネーロと一緒にいろってことだよね。」

「 ああ、このことを守らなければ調べることは許さないし、部屋から出さねえ。」

「 何言ってんの?もう、ネーロは冗談ばっかり。わかった、約束する。でも、ネーロはいいの?」

「 ・・・不満だらけだが仕方ねえ。」

「 だよね。ボク、今まで以上にネーロの負担にならない様に気を付けるから。」

「 ああ?負担とか気にしてんじゃねえぞ。俺とお前、じゃねえ、ハクの仲じゃねえか。」

「 ・・・ありがとう。」


いや、冗談じゃねえから。本気で俺の言うこと聞かなかったら、その時点ですぐに閉じ込めるから。

ふふふ、と、笑うハクは急に大人びて見えて今までのおどおどした感じがなくて見とれてしまった。よく考えれば、ハクが楽しそうに笑うのを見ると時間が止まってしまうのはいつもの事で、その後は恥ずかしくなった俺が悪態をつくところまでがセットだったんだが・・・。


ああ、始まったようだ。俺の魔素がハクの方に流れていくのがわかる。

何が影響したのかわからないが、明らかに魔素の吸収の効率が良くなっている。ちょっと前までは吸った魔素の半分も吸収できていなかったはずだが、今はそのまま吸収しているようだ。

体が急な成長を見せ始め、チビでやせっぽちだった体が二回りくらい大きくなってきた。前髪も、いや、髪全体が伸びて、後ろ髪は腰辺りまで伸びている。

急な成長に体がついていかずに痛いのか、ハクは綺麗な目からポロポロ涙をこぼし始めた。うー、と、うなりながら目をこすろうとするから手をつかんで止める。


「こするんじゃねえ、大丈夫だから。」


傷でもついたら大変だ。そっと前髪を横に流してやる。落ち着いてきたのか顔色も少し赤みが差してきて呼吸も元に戻った。

そのままハクの髪を流しているふりをして頬に手を添える。頭と頬を遠慮なく撫でさせてもらえば、目をつぶっているせいか、俺に心を許してくれているように見えてくる。



と、急にハクの目が開いた。


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