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いち (ネーロ視点)

俺とハクが最初に会ったのは親父に強引に連れていかれた旅の途中だった。

神狼族の多くが流れの傭兵やったり、用心棒や護衛をやることが多い中、俺の親父は珍しいことに商人になった変わり者だった。

神狼族は群れを離れて旅をするものと思われているようだけど、番を見つけても旅するような変わり者は親父だけで、本来の神狼族は番を縛り付けて離さないものが多い。同じ種族だったらその辺は了解済みのものとしてお互いに妥協しあうのだが、異種族だった場合に大きな問題となることが多いと聞く。

そこらへんのいざこざや対処法などは神狼族の街を出るときに年長者から教わる。なぜならうっかりと旅先で同胞以外の種族を番認定してしまったら相手の種族を巻き込んだ大問題に発展してしまうからだ。過去に何回か大ごとになったらしいが、ここ最近は起こってない。誰も悲劇など望んでいないからだ。

俺はそんな話をされても大げさに言ってるだけだろうと思って話半分に聞いていた。大体、一目見ただけで惚れ込むっておかしくないか?ましてや常に一緒とか息苦しくて嫌だろう。好きな事も我慢して、ただ一人のために生きるってつまんないよな。番ってつまんねーな、そう思っていた。


そんなある時、親父と次に向かう吸血族の街の注意点を聞き流しながら街道を歩いていたら、何か得体のしれないモノがそこにいた。

白くて小さくて丸くて、日の光を反射してキラキラとしていたそれは、もぞもぞとしていたと思ったら急に動きがカクカクして止まった。親父が「あちゃー。」とかつぶやくから何か良くないモノなんだと思ったらその白いモノは俺に向かって手を伸ばしてきた。白い毛の中から見えた二つの赤い宝石のようにきれいな澄んだものを見た時、体が勝手に動いてしまった。その白いモノの方に。

そして俺の手がその白いものをつかんだ、と思った瞬間に、一族の中でも多い方じゃないかと言われていた魔素は一気にその白いモノに吸い取られてしまい俺は気絶してしまった。


そのあと、俺の体調回復という名目で吸血族の街に滞在することになった。長老の爺さんをはじめとする白いやつの親御さん達は平謝りで、ぜひともおもてなしを、お詫びをさせてくれ、と、申し出てくれた。丈夫な俺はすぐに復活したし、心配することもなかったので逆に申し訳ない気がして身の置き所がなかったのだが俺たちが思ったよりも大事になってしまったようだ。親父は結局押し切られてしまったようで俺だけ吸血族の街に預けられることになった。まあ、あの白いのに俺の魔素を定期的にやらないとダメらしいから俺は強制的に残されたんだけど、ちょっと親父との旅に飽きていた俺はそれでもいいかなって思った。初めて入る吸血族の街はいままで見たことのない物がたくさんあってすぐに発つのも残念だったからな。親父は心配なのか何度も振り返りながら旅立っていったけど、大丈夫だってば。俺だって小さいけど神狼族の一員だぜ。ここから逃げることぐらい簡単にできるってば。そう思ってた。

心配していた待遇もほど良くて、親戚のうちに遊びに来たみたいな感じで楽しく過ごせた。ただ唯一の例外は朝晩の魔素の受け渡しだ。

それをやられると足元から体温を奪われている感じがして背中がすうっとして嫌なんだよな。でもこれをやらないと白いのが消えちゃうって言われてやってた。本当はめんどくさいし感覚が気持ち悪いから嫌なんだけど、目の前で消えられたら気まずいし、嫌じゃんか。俺が見殺しにした、みたいな感じになるだろ?

白いのは顔半分をぼさぼさ髪で隠して口元しか見えなくて、魔素を吸い終わった後はガサガサの小せえ声でありがとう、っていうけど、くらくらしてる俺は適当な相槌しか返せなかった。仲良くなることもなく、事務的に接するだけの毎日。まあ、面倒見てもらってる代わりの仕事としては悪くないかもね、と思って日々過ごしていた。


そんな感じで三か月くらいたったある日、俺は深夜になってもなぜか眠気が起こらず、なかなか眠れなかった。ベッドの中で何回も寝返りを打ったがそれもつらくなってきた俺は仕方なしに親父が残していった本を読むことにした。

何度も読んだ本をパラパラとめくっては閉じて、めくっては閉じてを何回か繰り返すと飽きてしまった俺は仰向けになって目をつぶった。あの時、意識が暗闇に飲み込まれそうになった時に見えた、綺麗な白い長髪の可愛らしい赤い目の子どもは何だったのか。それからその時の事を思い出してはため息が止まらないのはなぜなのか。白なんて珍しい色の髪だから目立つはずなのにあのぼさぼさの白いの以外見たことがない。あの白いのの関係者なんだろうか・・・。そんなことを考えていた時、何かが視界の端で動いた気がした。よく気配を感じようと集中すれば何かつぶやいているような声が聞こえた気がする。

完全に眠気が去った俺は好奇心も手伝って夜の散歩に出ることにした。


屋敷の裏庭の方で気配を感じた俺はそこで人形に向かって話している白いやつを見つけた。

なんかもっと凄い物でもいるのかと思った俺はそこにいるのが白いのだけだということに失望感となぜか少しの安心感を感じた。その安心感を感じたことが恥ずかしかった俺はそこで何をしているのか、からかってやろうと白いののほうに足を進めた。


「 ありがとう。」


小さいけどはっきりと聞こえた声はいつも白いのが出す声よりもしっかりとしていて、いつも聞いているはずなのに初めて聞いたような、心に刺さるようなそんな声だった。その声を聴いた俺はなぜか泣きそうになってあわてて目元をぬぐった。まだ泣いてなかったけどな!

そんな風になったことに驚いて固まっているとまた白いのの声が聞こえた。


「 こんなんじゃだめかな。もっと気持ちを込めないと。」


何のことだと思っていれば白いのに近づく女の人がいた。


「 ハク、もうそろそろいいかしら?」

「 あ、おかあさま。」

「 だんだんと冷えてきたわよ?」

「 うん、でもなかなか上手に言えないの。」

「 大丈夫よ、今は伝わらなくてもちゃんとわかってくれてると思うわ。」

「 でも・・・。」

「 あら、体がこんなに冷えてるじゃない。今日はもう終わりにしてまた明日にしましょう。」

「・・・うん。」


白いのが立ち上がった時、風が吹いて隠れていた顔がはっきりと見えた。その顔を見て俺は驚いた。その顔があの時に見たあのかわい赤い目の子供だったから。髪の長さは違うけれどあの目とあの顔は間違えようもない。記憶の中でしか見たことないから夢なのかと思ったけど、夢じゃなかった!

それが分かった時、足が勝手に白いのと白いののお母さんがいる方向に一歩動いた。そのまま前に進もうとした時、俺の肩をつかむ手があった。


うるさい、邪魔をすんな。


そう思って振りほどこうとしたけどなかなか強い力で止められて振りほどけない。どんどん離れていく白いのと白いののお母さんを見て焦った俺は止めている奴を振りほどこうと思いっきり力をためた。もう少しで力いっぱいぶつけてやれるところになった直前にその何かが俺の首根っこをつかみ、そしてそのまま意識が落ちた。


目が覚めたらそこは応接室だった。そばには白いのの親父さんが困った顔して俺を見てた。


「 君には重ね重ね済まないことをしたね。」

「 おじさんがやったのか!ひどいじゃないか!」


こうしちゃいられない。早くあの白いのを捕まえなきゃ。捕まえて閉じ込めて囲って逃がさないようにしないと誰かに盗られてしまう。そんなの絶対に嫌だ。そんなの許さない。早く、早くしなきゃ。


「 ネーロくん、待ってくれ。せめておじさんの話を聞いてくれないか?」

「 だって早くしないと・・・。」

「 大丈夫。今あの子は寝てるし、私の妻が付いている。消えたりしないし、逃げることもないよ。」

「 それなら・・・すこしくらいなら・・・。」

「 ありがとう。ここに座ってもいいかい?」


寝かされていた大きなソファの横を指されて頷けば安心したようなため息が聞こえた。

なんだか居心地が悪くてもぞもぞしながらおじさんが話し始めるのを待っていた。


「 ネーロ君。君の種族のことは君のお父さんから話を聞いてわかっているつもりだ。ちょっと長くなるけどちゃんと聞いてほしい。大丈夫かな?」

「 ああ、でも早くしてほしいな。はやくあいつのところへ行きたい。」

「 うん、早くするよ。でも自覚するとすごいとは聞いていたがここまでとは驚くね。」

「 なんのこと?」

「 君も知ってはいると思うが神狼族の番の話さ。君のお父さんがね、まずいことになった、と言っていたが・・・。」

「 なんのことかよくわかんないけど、もういいかな?おれ、あいつのところに行かないといけないから・・・。」

「 ごめんごめん、年寄りは話が長くなっちゃってね。」


それから俺はおじさんの話を聞きながらいろいろ話し合った。どうしたら俺もハクも幸せになれるのかを。

なかなか仲良くならなかったのは意図的に俺とハクが少ししか会わないようにされていたからだとか、もう少し俺が自制を覚えて、心も体も大きくなってからちゃんと会わせようとしてたとか、夜のあの光景はここのところのハクの習慣だったとか。俺の魔素をハクが取り込めるのはまあ、その、ハクもその、あのな、番だって認めてくれたってこと・・・らしいとかな・・・。まあ、その、にやけが止まんねえとか、そんなことねえからな!

結局のところ親父が最初にハクを見た時につぶやいたとおりになったわけだ。俺がハクを見つけた瞬間に番にしたってよくわかったな。そしてその対処法をおじさんと話し合ってたなんて全然気づかなかった。


「 あちゃー。」


吸血族の至宝、そのハクが俺の番になったってことは俺以外のだれにとっても「あちゃー。」ってことだ。

結局逃げるどころか囚われてしまった。


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