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建物の裏側にある庭に引きずられて連れてこられた。掴まれた腕はもうしびれていて感覚があいまいだ。

自分のしでかしたことを棚に上げるつもりはないけれど、ちょっとこれはひどくないかな?


「 あ、の、ネーロ。うで・・・。」

「 あ、わりぃ。」


パッと手を離してくれたのは嬉しいけど、そのまま抱き上げられて運ばれる。抱き上げられて運ばれるのはよく部屋ではやられていることだからいい。でも外でやられるのはちょっと恥ずかしいからやめてほしい。

ちょっと体をねじれば危ないだろう、と、さらに腕に力が籠って余計に固定されてしまった。これでは非力なボクにはなすすべもなく、そのまま、仕方なく! ベンチまで運ばれた。


「 なあ、おまえ、俺の魔素吸えよ。」


少し奥まったところにあるベンチに運ばれて、座らされる。横にはネーロも座ったけど、そこまでは別に普段通りだった。でも急にそんなこと言われたボクは驚いて、驚きすぎて息が止まった。そんな僕を見てネーロは口元を緩め、目を細める。


「 ふ、驚いた顔も不細工だな。」

「 ぐ、知ってるよ。」


ちょっと落ち込む。ネーロに不細工って言われた。いつもの軽口かもしれないけど、それなりに傷つく。

目はぎょろりとしていて、痩せているから角ばっているし、腕と足が長いから蜘蛛みたいだっていつも鏡を見ながら思う。白髪は目を隠すために長くしているし、後ろ髪はちょっと伸びたらハサミで切っている。うう、確かに綺麗ではないな。


「 そんなことより、腹減ってるんだろ、吸えよ。」

「 え、でも、これ以上吸ったらネーロが倒れちゃうんじゃ・・・。」

「 あー、そんなこと言ったか?」

「 うん、ここに来る前に『 あんまり吸うな。』って・・・。」


頭をガシガシと掻きながら横を向くネーロは珍しく表情が柔らかい。そんなネーロを見ていると、ボクと一緒に笑ってくれていた学校に入る前の事を思い出して思わず笑ってしまった。

さっきまでの機嫌の悪さはどこかへ消えてしまい、ここには前のネーロがいる。それだけでうれしい。


「 あー、まあ、それは無しだ。今からちゃんと吸え。もういい、他のやつの魔素を吸うくらいなら俺のだけ吸え。」


その言葉で思い出した。さっき、ネーロ以外の魔素が吸えた!


「 あ、ネーロ。すごいよ! さっき、オラムさんの魔素を吸えたんだよ!! 」


これでネーロはボクというお荷物を下ろすことが出来るかもしれない。きっと、きちんと調べたらこの体質を直す方法も見つかるかもしれない。最悪ネーロ以外の魔素が吸えればネーロは自由に旅をすることが出来る!


「 これでネーロもボクを気にせずに好きなこともできるし、好きな所にも行けるよ!ここを卒業したらまた旅に出ることもできる!」

「 ・・・おまえはそれでいいのか?」

「 うん、だってさ、ネーロをいつまでも縛り付けておくわけにはいかないだろう?たくさんたーくさんお世話になったんだからボクはネーロに早く自分の為に生きてほしい。ボクなんかにかまってないで、ネーロが必要とするところに行けばいい!それがボクに出来るネーロへの唯一の事。」


なんて素敵なことなんだろう、ネーロも喜んでいると思って見れば、なんとも言えない顔をしてボクを見ているネーロと目が合う。なんか、気のせいかもしれないけど、ちょっと元気がない?

不思議に思って首を傾ければネーロの長いため息が聞こえてくる。


「 はあああああああ・・・。俺も悪いけど、これはキツイ。」

「 え? どこか辛いの?」


何でもないって言ってボクの頭を撫で繰り回すネーロの表情は見えない。でも触れた手からは初めて会った時に感じた暖かさを感じるから不機嫌ではない、と思う。

撫で繰り回していた手を下ろしたネーロはそのまま自分の頬を両手で張った。大きな音に驚いて固まっているとネーロが立ち上がる。


「 よし、仕切り直しだ。おい、お前、っと、ハク。」

「 は、はい。」

「 魔素は好きなだけ吸えばいい。ハクの吸いたいときに吸いたいだけ、だ。だからほかのやつの魔素は吸わなくてもいい、吸うな。」


分かったな、と顔を覗き込まれて勢いに押されて頷いてしまったけれど、そうしたらそのままネーロの負担だけが増えてしまう。そんなのは嫌だ。


「 でも、ネーロの負担が増えちゃう。」

「 大丈夫だ、ハクが吸ったところで俺が倒れるわけがない。思いっきりいけ。」

「 でも、」

「 でも、じゃねえんだよ。これは決定なんだ。ハクが何を言ってもこれだけは譲らねえ。」


わわ、意地を張ってしまった。こうなるともう撤回することはできない。昔からこうなんだよね。

でも、ネーロ以外の魔素を吸えることがわかったんだから、そのことを何とか調べたい。


「 あの、ネーロ以外の魔素が吸えるってことは調べていきたいんだけど・・・。」


ネーロを解放することが出来るチャンスを逃したくない。

真剣なことをわかってもらおうとネーロの目を見つめながら話す。わかってくれるでしょ?


「 ・・・わかったよ。しょうがねえ。だけど条件がある。」

「 条件?」

「 ああ、俺も一緒に調べる。いつも一緒だ。何があったらすぐに言え。俺の視界から消えるな。俺のいないときは鍵かけて部屋でじっとしてろ。一人で出歩くんじゃあねえぞ。それと・・・。」

「 ええ、まだあるの?」

「 ああ、まだある。知らないやつについていくな、一人で行動するな、魔素が吸えたらすぐに教えろ、そして俺以外の魔素は吸うな。」

「 なんかおんなじことばっかり言ってるよ。ふふ、結局ネーロと一緒にいろってことだよね。」

「 ああ、このことを守らなければ調べることは許さないし、部屋から出さねえ。」

「 何言ってんの?もう、ネーロは冗談ばっかり。わかった、約束する。でも、ネーロはいいの?」

「 ・・・不満だらけだが仕方ねえ。」

「 だよね。ボク、今まで以上にネーロの負担にならない様に気を付けるから。」

「 ああ?負担とか気にしてんじゃねえぞ。俺とお前、じゃねえ、ハクの仲じゃねえか。」

「 ・・・ありがとう。」


なんか昔に戻った感じで背中がムズムズする。心の中もぽかぽかしてきてなんだかいい気分になってきた。

ふふふ、なんか楽しい。そう思ってすぐそばにいるネーロを見上げれば思ったよりも近くに顔があってびっくりした。ボクを見るネーロの目は驚いていて、いつも細くて鋭い目もくりくりと丸く見開かれている。

そのまま見上げていたら右目に何かが入った。痛くて瞬きをすれば涙がポロポロ落ちた。慌てて目をつぶってもまだ目の異物感が無くならない。いたたたた。うーっとうなりながら目をこすろうとすればネーロの大きな手が慌ててボクの手をつかむ。


「こするんじゃねえ、大丈夫だから。」


優しい声色に安心して目をつぶったままじっとしていればネーロの手で前髪を横に流されていく。気持ちよくてうっとりしてしまう。

ネーロは何も言わないけれど、少しづつ、少しづつネーロの魔素を吸っているのがわかる。いつもよりも温かいものに包まれてちょっとしか吸っていないのに満足感がある。うーん、違うかも。心も満たされている感じ、これはなんていう感覚だろう。

目をつぶっているせいか感覚が鋭くなっているみたいだ。いつも冷えている手足の先まで温かい。力、というか元気が湧いてくる感じ。今なら足がしっかりと踏みしめられそうだ。パチリと目を開ける。


「・・・。」


目の前に垂れ下がっている白髪。肩や体にふりかかっているこの髪は・・・自分の髪?

ネーロを見れば眉尻が下がっていて困った顔をしている。でも撫でている手は優しくて・・・。


ネーロの瞳に映っている白い髪の長い女は誰なんだろう。


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