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15.椎奈ギミック

 阿呆みたいにじっとしたまま動かない猫耳男の横を走り抜け、仕掛けを施したブランコへ向かい脚の回転速度を上げていく。

「来いよ、猫かぶり野郎!」

 すれ違いざまに、あからさまな挑発をかける。もともと鋭く細い瞳孔がさらに細く小さくなって、その眼光だけで肉体を切り刻めそうな恐ろしい視線が僕に送り返された。それを確認し、僕はブランコへ急ぐ。

 左を見れば、ターザンロープに巻きつくようにして少年があたふたと畑中から逃げ惑っていた。脇に立つ白色燈に照らされて、離れていても二人の動向がよくわかる。一応公園のものを傷つけない配慮からか、畑中はダーツを投げてはいないようだった。が、僕からでは見えない何かが少年をひたすらに襲っているらしい、彼は見るからに必死だ。

 「一方的」という描写がここまでシックリくる情景も珍しい。まあ注目するべきはそこじゃないというか。

 畑中、まさしくそれは鬼の形相である。

 相当さっきのババァ発言が響いてるな。なんとなくだが、そう思った。いや、なんとなくなんかじゃないけどね!

 ご愁傷様です。

 振り返らずに走る。おそらく僕が全速力で走ってみたところで、あの猫耳男が本気を出せばいとも容易く追いつかれるだろう。僕がブランコに向けて疾走できているということは、奴がまだフルパワーの片鱗を見せているにすぎないとも言い換えられた。

 僕は易々とカラフルブランコにたどり着き、そこでようやく視界を百八十度回転させる。僕のぴったり後ろにつけていたかのように、すぐそこに白い猫耳の生えた男の長身が迫っていた。見れば顔つきは、逆三角形の猫目を除いて非常に端整なものだ。

「なんだ、意外にイケメンじゃないか」

 からかってやる。

「余裕だな、小僧」

 セリフこそ落ち着いたものではあったが、そこに上乗せされた単純な感情を隠し通せるほどの冷静さは無くなってきている。

 もう一押し。

 僕は青筋の立った額めがけて、また左ポケットからつぶてを放った。もはや確実にかわされることが分かっている以上、僕がそれをする意味は一つしかないわけだが。

「無駄だと言うことがわからんのか?」

 案の定、猫耳男が首を僅かに傾けるだけで、その石は目標にヒットすることなくカラカラと地を転がった。じりじりと、一歩ずつ確実に、僕は後ずさりする。

「わざわざこんな入り組んだ遊具まで走ってきて、結果自分の逃げ場を狭めるだけとは、哀れな。しかもそれで小賢しい武器のストックも切れたと見た。ブランコの下の地面は擦れていて、小石も落ちていない。まさに絶対絶命、というわけだ」

 僕の逃げ腰な足の動きを見てか、ポケットを探る右手を見てか、男は心に再びゆとりを取り戻したのだろう。笑いに口の端を歪めつつ悠長に長台詞を吐く。そして一歩、また一歩と、時間をかけて僕へと歩み寄ってくる。

「お前もそれなりにいい面だ。顔は傷つけないでやってやる」

 不吉なセリフを吐いてくれるな。

 それより僕もイケメンだってか?

「怖がろうか喜ぼうか迷うところだ」

 僕の態度が気に入らないのだろう、猫耳男の表情が一層険しくなる。

「この期に及んで強がりを」

 強がり? 確かにそう聞こえなくもないだろうが。

「……おしゃべりしてないでさっさとやれよ」

 ザ、とさらに一歩下がり、僕は並はずれて挑発的な言葉を口にした。表情と声色も適切なそれへと切り替え、目前の猫耳の怒りを買うことだけに意識を向ける。

「ほう?」

 効果覿面。その三白眼が判然たる怒りに見開かれた。

「猫は猫らしく背中の毛を逆立ててろ、って言ってるんだよ」

 もう一歩、下がる。

 この辺りでいいか。

「よもや鬼ごっこのルールを忘れたわけではないだろうな?」

 だが襲いかかるのを躊躇するかのように、平坦な声は会話を続けようとする。ああ、あれは本気で言ってたのか。そういえば鬼は僕だ、とか言ってたな。

「そういうことなら、忘れたつもりは毛頭ない」

 むしろ完璧なまでに記憶していると言って差し支えないくらいだ。

「そうか。どうせギブアップするのなら今ここで楽にしてやるが」

 そんな漫画や小説でしか聞けないようなセリフを生で聞けたことに並々ならぬ感動を覚えつつも、僕はもう一歩後ずさりした。

 後ずさりして。

「!」

 こけた。

 踵が何かにつまずいたのか、いや理由はなんでもいい。とにかく僕は、ブランコを後方数十センチにして、派手に尻餅をついてしまったのである。

「痛ってえ」

 反射的に口を突いて出る言葉と共に、顔を上げて冷徹な猫の瞳を睨む。

 同時に、視界の端で右手の遊具にて争いを繰り広げる少年と少女を捉えた。二人は、飛んだり跳ねたりしながら(まだ常識的な感覚を持つ僕としては非常に不本意なのだが、本当にそうとしか描写のしようがない)ジャングルジムの頂上からシーソーへと飛び移ろうとしていた。

 畑中もうまくやってくれている。時間の配分もばっちりだ。成程やはり、彼女は僕が心配するような玉ではなかった。

 さて、と。

「そろそろ、チェック・メイトの時間だ」

 言ったのは猫耳男。両手合わせて十本の爪が、白い服の胸の前で交差して構えられる。格好つけやがって。勿論対象は、僕だ。しかしそんなものに感興はそそられない。僕が見るべきは。

 僕は目を正面の男からそらして、再び右方へと向けた。

 ――少年が落ちる。

 猫耳男が両手の爪を僕へと突き下ろし。

 ――少年はジャングルジムから飛んで。飛んでそして。

 右手と左手の爪は、夜風を切って僕の首へと向かってくる。

 ――そして持ち上がっているシーソーの座面へ。

 首狙いかよ。B級スプラッターな映像なんて見たくもない。関田に無理やり『エルム街の悪夢』を見せられて吐きそうになったのも今やいい思い出だ。

 ――椅子へガタリと着地した。

 瞬間。

「!」

 僕は左手に隠し持っていた石を、力任せに猫耳男の顔面直撃コースで、つまりはほとんど真上へと投げつけた。

 石は、一驚を喫する猫耳男の鼻へ向かってヒュンと飛翔する。

「まだ石が……!」

 だが、その駭然は僕にまだ抵抗の意思ならぬ石が残っていたからの駭然に過ぎず、それを回避できないが故ではなかった。その石単体には猫耳男の攻撃を一時中断させる程度の効果しかない。

「結局甘い!」

「違うな」

「!」

 甘いのはお前だ、猫耳野郎。

 僕には当たらない、ギリギリで。

 固く、そして大きな木製の直方体が、髪の毛をふわりとそよがせる風圧を伴い僕の頭上を通り抜ける。

 それは――ブランコ。

 シーソーの一方が下がることでブランコが動き出す、単純だが悪質な仕掛け。

 そしてその起動スイッチを押したのは僕じゃなく、あの少年。

 猫の神経を持つ猫耳男とは言え、僕に攻撃を仕掛けようとしていた状況ではそれに気づくのも遅れる。最も間接的にそれを押させたのは畑中であり、回り回ってさらに言えば、畑中にそれを頼んだ僕でもあるのだが。

 どちらにしろそんなことは過程にすぎない。結果として、今猫耳男の顔面30センチに、ブランコは迫っている。

 それでいいじゃないか。

「っおのれ!」

 そんな叫び声とともに、猫耳男は咄嗟に後ずさりした。ブランコの動きは比較的ゆっくりだし、避けるのは困難でない。だがそれはこんな風に不意を突かれなければの話だ。

「当たれ」

「ちぃ!」

 だが後ずさりの二歩目には、猫耳男は地を蹴っていた。嘘みたいな反応速度で、長身の体躯は大胆に跳ぶ。普通の人間とはそもそも出来が違うというわけか。ブランコの一撃は、猫耳男の鼻擦れ擦れのところで空振りに終わり、僕の敵は前方一直線上で後ろ向きに宙を舞う。

 だけど、これで終わりじゃない。

 へたり込む僕を前にして、さっきとは逆の構図が出来上がっている。今や、僕は攻勢に回っている。そしてそれは何を意味するのか?

 それは、僕が奴の攻撃の間合いから外れるということを意味し。

 それは、一刹那の安全が確保でき、瞬時であれ集中できる環境が整ったということを意味する。

「つまりこういうことだ……猫耳野郎」

 僕の周囲の空気が――変わる。正確には僕の右手の周囲の空気が。

 序導、そして顕現。

「工程は網羅した」

 僕の世界に僕だけを突き落とし、一気に集中力を高める。時間はかけられない。

 ほとんどぶっつけ本番みたいなものだけど、やるしかない。

『ほう、やるな』

 フーの声が遠くで響いた気がした。

 親指、人差し指、中指。他の二本は折りたたむ。極限まで高めた精神力を駆使し、三本の指の間にマナを一気に収束する。その飽和点を見極め、凝結。

 頭がきぃんと痛んだ。だが、そんなことは気にしていられない。さらに力を加え、見えない手で握るようにしてマナを手の中へと押し込める。額には玉汗が浮かび、息が乱れる。

 右腕全体が、蜂に刺された痛みと熱さを帯びていく。

「くっ!」

 耐える。耐えろ。そうしていれば次期に、それらはすうと引いていく。

 そんなのは一瞬の出来事で、僕の掌には、赤く煮えたぎるマナの塊がふよふよと浮いていた。炎よりもずっと紅く、そして夕暮れよりもきっと燃えていて、血よりもなお鮮やかな朱。龍ちゃんの造り出したそれよりもずっと小さく、ずっと弱弱しく、今にも消えそうだけれど、しかしそれでいて信じられないほどのエネルギーを感じさせる紅の球。

 僕にだってこれくらいは出来るということだ。

 やはり、話だけは先に畑中から聞いていて助かった。

「ほらよ、懇親の第一弾、だっ!」

 役割を終えて返ってくるブランコを再び頭上に見つつ、僕は掌の球と自分の存在とを切り離す。つまり、僕がかき集めたマナの塊『魔弾』を世界へと放つ。

 傍から見れば、普通にボールか何かを投擲しているようにしか見えないのだろう。

 実際、その動作は必要のないものだ。魔導師は身体で魔術を使わない。魔導師は頭で魔術を使う。だからこの動作は、僕自身に対する自己暗示にすぎない。『飛ばす』というイメージが必要だったから、投げる真似をする。

 そんなことはどうでもいい。

 当たればいい。

 当たれ。心でほんの少し、そう願った。

「――当たれ!」

 というか口にも出した。

 小石とは違い、一直線に、それも猛スピードで飛んでいくそのギラギラ光る赤い球は、触れたら火傷しそうな尾を空中にギラギラ引きながら翔空する。

「!」

 猫耳男はそれを見て、初めて狼狽したように見えた。のだが。

 案に違わず同じこと。

 奇妙な捻りの動きによって、器用に空中でポジションを変えた猫耳男の脇を、僕が顕現させたマナの塊はかすりもせず通り抜けた。

 ……あっさりとかわされてしまった。さすがに少しショックを受ける。

 そして、綺麗に着地を決める猫耳男。

「三段攻撃には……さすがに驚いたが。それでも詰めが甘い。俺を普通の人間として見ているうちは俺には勝てないぞ、小僧」

 メルシング。普通ではない。人間ではない。

 そして普通ではないが故に、人間ではないがゆえに。

 お前は僕に負ける。

「ふっ」

 僕はこらえきれずに、笑みを漏らした。

「何がおかしい」

「残念だけど」

 僕は数メートル離れて立つ猫耳男を指差した。

 正確には、その頭上を。

「既にギミックは完成しているんだよ」

 その頭上に落ちてきた。


 ――小石を。


 指差して。僕は言った。

「え?」

「僕の勝ちだよ」

 鬼ごっこのルール的には駄目なのかもしれないけど、間接タッチってことで。

 そいつがそれに気づく間もなく、コツン。と、可愛らしい音が周囲に響いた。

 猫耳男の頭に天から小石が降ってきて、当たった音だった。まさかここまで絶妙なポジションに立ってくれるとは。考案者の僕であれ、多少の驚嘆さえ感じなくもない。

 そして、何の脈絡もなく次の瞬間、猫耳男の姿は僕の視界から消え去った。

「…………」

 わけではなく、小さくなっていた。肉眼でなんとか確認できる程度の大きさへと、その姿を変貌させてしまっていたのである。

「そうなるのかよ!」

 また驚きながらも僕は立ちあがって、ズボンをの砂をはらい落しながら、そいつへと徒歩で近づく。

「馬鹿な!」

 そして甲高い声でキィキィ喚くそいつを、右手で軽く摘みあげた。どちらかというとそれは猫というより、毛玉に近いだろう。体型はピカ○ュウっぽい。かもしれない。

「保護完了、と」

 全くもって面倒くさい任務だった。

「待て! 説明しろ!」

 ったく、うるさいな。手足をばたつかせたりして、さっきまでの威厳はどこへ行ったんだ?

「くぅぅぅぅぅ!」

 唸る猫毛玉。猫耳男と呼べていたころの面影すらない。みじめなもんだ、というか可愛いんですが。僕は喧しい毛玉が黙るのを待って、口を開いた。

「さっきブランコの前でお前に向かって投げた石。あれが最初で最後の僕の攻撃さ」

 あれ以外はブラフだったんだよ。

 ブランコはそれなりに大がかりな仕掛けで発動する攻撃だった分、あれをかわしたお前はおそらくそこで僕の攻撃が終わったと考えただろう? だからあのブランコは、最初から避けられることを想定しての攻撃の歯車の一つに過ぎなかった、というわけ。

 さらにそれでは足りないと思ったから、三発目を最後の攻撃だと思わせるためにわざわざ魔弾を使ってはみたけど、ブラフという意味ではそんなことをする必要は端からなかった。ただの小石でも一応役割は果たせていただろう。

 だが、お前の気をそらすためのミスディレクションは必要だったからな。

 結果として、お前は僕の攻撃を避けきったと思いこんで完全に安心し、最初の投石の行方を追おうともしなかった。それが四発目の攻撃となってお前の頭上へ落下しているのにも気付かずにね。

 僕は一回目のバックジャンプの時、お前がどれ程後方に飛べるのかを観察していた。そしてそのあと小石の回避運動にあの捻る動きを加えたことも考察し、ああいう咄嗟の反射的跳躍をさせれば、お前は必ず限界ぎりぎりの距離を飛ぶだろうと考えた。一回目と同じ、もしくは極近い状況を作らなければ僕の見立てが成功する確率は下がるからな。ブランコと魔弾にはその見込みも含めていたのさ。

 当然ながら、それまでの小石をただがむしゃらに投げているように見せかけていたことも功を奏した。当てる以外の狙いもなかった、単調な攻撃。そう見せかけることこそが、僕の狙い。そうすることでお前が小石の行く末を気にかける危険性を限りなく低くして。

 今回もどうせ苦し紛れの一発だろう、と思わせることで。

「お前が僕の本当の狙いに気づく可能性はかなり低くなった」

 それでも念には念を入れて、お前が僕の意図に気づかないよう、わざわざ無駄な話をして気を逸らせていた。正直な話、シーソーが動くタイミングとお前の攻撃のタイミングを合わせるのには苦労したし、半ばギャンブル的な話だったかもしれない。

 だが、結果として勝ったのは僕だ。あの間抜けなエンドがお前へと訪れのも必然だよ。終始お前は僕の狙いに気づこうともしなかったんだからな。僕は魔術の使えない最下級のアーティスト、方やお前は普通の人間じゃないメルシング。そのディスアドバンテージが逆に僕を勝利へと導いたのさ。

 簡単に言ってしまえば、お前の敗因は僕に対する見縊りと油断、だな。

「……馬鹿な。そこまで仕込まれて、いたのか?」

 馬鹿な。もう一つそう呟いて、いったん静かになったかと思うと。

「だ、だがっ! 何故俺の性質が解った!」

 再び喚き散らす白猫毛玉。

 ああ、それね。

「畑中、ああ、今あそこで少年を追い詰めてるあの娘だ、あいつから教えてもらったんだ。メルシングとはつまり、精神生物。人がいないと認識すればいないし、いると認識すればいる。つまり、高度な精神活動を持つ生物に依存し存在を保っている、言ってみれば幽霊だとかお化けに近い存在だ、ということをな。まあ、魔術だって似たようなもんだしな」

 だから龍ちゃんは僕に対して魔法を信じるか、なんて質問をしたのだろう。言ってみれば人が魔術を使えるようになる為のハードルの一つは、それを心から信じられるかどうか、らしいから。メルシングにも、それと共通する点はあるのであり。

 遠巻きに畑中と少年の攻防を眺めつつ、語る。あっちももうすぐ終わるだろう。

「メルシングの存在の顕現には、多種多様な手段がある。それでもやはり精神生物と言うくらいだ。人の精神に依存するのが最も簡単な方法。そうじゃない場合は自分の精神濃度を上げて、大気中のマナを取り込むしかない。まあ簡単に言えば」

『簡単に言えば、人の導力に頼った顕現は頑丈なボディ付きで、そうじゃない顕現はボディが脆い。そのメルシングが持つ力にもよるがな』

 その先を引き受けたのは腕輪の中のフーだった。

『私たちがこの世界に干渉するための方法として、前者を嫌うメルシングは少なくない』

 とは言うものの、前者を取るメルシングもまた少なくはないのである。それによる影響を懸念するのが『封じ屋』の行動理念にもなっているくらいだ。

 今はそれは関係ないので、閑話休題。

 だからまず、弱点は見抜いたと言うよりも、知っていた、に近い。

 だがその『脆さ』だって僕には曖昧な言葉だった。どの程度を脆いといい、脆くないと言うのか。その線について畑中から聞き出すことはできなかった。聞く必要も大して感じられなかったしな。

「そこで、もう一つの判断基準」

 首根っこを摘む白猫毛玉が、しんと静まるのを待って口を開く。

「お前は避けに避けた。避け過ぎた」

 少年の蹴りも、畑中のダーツも、僕の蹴りも、投石も。すべてを避けた。そもそも投石なんかは当たったところで大したダメージもない。

「僕の投石には一応、それを確める為の意味合いもあったんだ。身動きの取れない空中ではまず、あんな厄介な回避動作を取るよりもお前のあの立派な爪で弾いた方が明らかに早い。空中で迫りくる飛び道具を無理にかわそうとするより、簡単で効率的かつ安全な動作だろう。少なくとも僕ならそうするし、僕じゃなくても大抵はそうする」

 それをあえてしないということはつまり、それをしないだけの理由があるということだ。だからあの時点で、お前の性質に関する予想はついていた。

 小石すらかわさなければいけない、理由。あるとすればそれは二つ。

 お前がメルシングであると同時に、人間に頼らないタイプで、不完全な顕現しか保てないということ。

 さらにその『脆さ』とは、小石程度の打撃を身体に一発食らうことで致命傷になり得るということ。

「お前自身が言った『鬼ごっこ』もヒントにはなったね。どちらにしろ意味するところは同じだ」

 それで小石がヒットしたお前は、こうなった。

 予想通り、読み通り。

「ちんまいな、お前」

「ううぅぅ……そんなことでこの俺が」

 まさに負け犬に用意された捨て台詞。実はお前ゲームの登場人物とかかよ?

『向こうも終わったようだぞ』

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