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1-7

●1-7


 僕がなかなか頼りになる男だという事を、サーラさんも分かってくれただろうか。


 戦闘以外にも、ダンジョンは危険がいっぱいだ。小さなネズミや虫だって、どんな恐ろしい毒を持っているか分からない。


「サーラさん、水溜りです!」


 腰を持って持ち上げてあげようとして、


「そんな事せんでよろしい!」


 三角長剣(デルタ・ソード)の柄頭で殴られる。


「疲れたでしょう? おんぶします!」


「いりません!」


 どうも上手くいかない。難しいなあ。


「君の行動には下心が見えます!」


「え!? 誤解です! 冤罪ですって! 真心でやっているだけなのに!」


 そりゃ、確かに女の子に触れるとドキドキはするけど、そういう事を抜きにしても、助けるのは当然じゃないか。心配だもの。


 だって、マントの下は素肌なんだもの! 女の子だよ? 傷ついたらどうするのさ。たとえモンスターが相手でなくても、ダンジョンには危険がいっぱいなんだから。


「心配なんですよ」


「心配って……君は私の召使じゃないんだから」


「召使じゃなくても心配はしますよ」


 どうも噛み合わない。


 村では子供だって、年長の者が幼い子の面倒を見るのは当たり前だった。家畜の世話だって真心がなければ出来ない。そもそも助け合わねばどうにもならない貧しい村だったので、持ちつ持たれつ、気を使わなくてもそれが自然だったのだ。


「こう見えても僕は、村の婆さん達からの評判は良かったんですよ。まあ、こき使われていただけかもしれないけど」


「そしてお小遣いをもらって?」


「小遣い? そんな物くれるはずないじゃないですか。そもそも街まで行かないとお店がないんだから」


「お菓子をもらったり?」


「それも、別になかったです。意外に甘い物は多かったんですよ。ミツバチを飼っていたし、どの家もジャムを作っていたから。とは言え、お菓子ってわけじゃなくて、蜂蜜もジャムも冬の間の命綱だったんですけどね」


 田舎の村とは言ってももちろん領主はいて厳しい税もあった。物納だったから、これら甘い物が納められた。蜜蝋も、ロウソクの原料となるので物納された。


 そもそもが痩せた土地だった。花は咲いたが、作物の実りは少なかった。ジャガイモと豆でぎりぎり生きていくだけだった。家畜を太らすのも困難だった。養蜂と、森での木の実や茸の採集が大事な栄養素となっていた。


「とは言え、それで腹を膨らませるのは大変でしたよ」


 それから、村の話をいくつかした。


 彼らがいかにのん気で馬鹿だったかを、街に出てから始めて知った事を。つまり街から来る商人との取り引きでどれだけ損をしていたかを。


「酷いわね」


「でも騙されている事も知らなかったから、誰も嫌な思いはしてなかったんだと思う。逆に、取り引きが終わるたびに、儲けた儲けたって大騒ぎしていたもの」


「私の家族とはまるで反対ね……」


 サーラさんが言う。


「サーラさんの家はお金持ちだから、貧乏村とはえらい違いなんでしょう。羨ましい」


 それにサーラさんの物腰から見て、ただの悪徳商人の家ではないんだろう。悪徳じゃない商人なんて会った事ないけど。


「君は優しい人達に囲まれて育ったのね」


 僕の方を見ないで、サーラさんが言った。


「優しいと言えば優しかったのかな。今にして思えば、うん」


「私も、私も、お父様は優しかったわ!」


 強い口調に少し驚いた。


 サーラさんが真っ直ぐ僕を見ていた。


「あ、はい。良かったです、サーラさんのお父さんも優しい人で……」


 やっぱり、サーラさんの親も立派な人だったんだ。それは良かったんだけど……。


 ちょっと、変な間があった。


「ええと……」


 何か言わなきゃと思っていると、


「故郷は遠いの?」


 とサーラさんが言った。


「まあ、遠いです。もう、ないから」


「それって」


「全滅しました。堕天使がやってきたんです」


 僕を残して、一人残らず。


「堕天使が、地上の村を!? だって……」


「彷徨う堕天使だったんです。どこから来てどこへ向かっていたのかは知りません。僕の村を襲った理由も分かりません」


 そんな事はどうでもいいのだ。大事なのは、僕の大切な人達を皆殺しにした事。


「奴は、僕から父さんと母さん、皆を奪った。だから僕は、彷徨う堕天使を倒したいんです。仇を討ちたいんです。その為に、魔剣を手に入れたいんです」




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