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1-6

●1-6


「グルルル」


 咽喉を鳴らす唸り声に、振り向く。


 三つの人影があった。でも人じゃない。その頭は、犬のそれだった。手には剣や棍棒を持っている。犬人間、コボルトだ!


「サーラさん、下がって!」


 いくらサーラさんが剣に覚えがあっても、裸じゃどうにもならない。その点僕にはこの輝く破邪の鎧と、僕の造った数々の武器がある!


 僕は愛用のメイスを両手で構えた。肉を千切り骨を砕く兇器。


 サーラさんは僕が守る!


「行くぞ! うおおー!」


 ガチャンガチャンと鎧を鳴らしながらコボルトに突進する僕!


 フルアーマー!


 フルウエポン!


 今の僕は無敵だ!


 父さん、母さん、僕はやるよ!


 そんな僕の横を、風のように追い越して行くサーラさん。……あれ?


「ハァ!」


 彼女の見事な跳躍は、僕には空中で静止しているように思えた。


 マントが派手に翻って、その下の艶々したお肌が丸見えになっていた。本当に申し訳程度に局部を線で隠した、革紐の下着だけをつけたお肌が。しなやかで優雅な引き締まった腕と脚が。そして優しく柔らかな白い胸とお尻が。


 人って、集中すればここまで時間を超越出来るものなのか、ってほどに、僕は彼女の跳躍を長く感じていた。戦いの達人は飛んでくる矢さえ止まって見えるって言うけど、こういう事なのかもしれない。


 跳びながら、彼女は動き、流れていた。いつか街のお祭りで見た、優雅な舞いのようだった。


 マントが花びらのように翻り、露になった白い肌が滑らかに回る。流星のように三角長剣(デルタ・ソード)の刃が煌き、そうして、最後に赤い血が飛んだ。


 一体の犬人間の死体が、飛沫を上げて地面に倒れた。断末魔の悲鳴さえも上がらなかった。


 サーラさん、強い。強すぎる。僕の出る幕まったくなし。


 そして今、ゆっくりと、ほとんど音も立てずに着地したサーラさんが、僕を見て、それから今度は時間が早回しになったように、物凄い速度でマントを体に巻きつけた。


 え、どうしたんだ?


 そんなサーラさんに、他の二体のコボルトが駆け寄ってくる。


「サーラさん!?」


 しかしサーラさんは、体にマントを巻きつけたまま、中腰の姿勢でじっとしている。


「あっ……ん……! 擦れて……食い込んで……動けない……!」


 サーラさんが声を搾り出す。


「え、もしかして紐の下着が!? だからやめた方がいいって言ったでしょう!?」


「そんな事言ったって……んんっ」


 マントの中でモジモジしているサーラさんへ、大急ぎで駆け寄る僕!




「はあはあ……しょ、勝利!」


 七爪剣(クロウブレード)を支えに息をつく。


 敵は全て倒した。


 地面に転がったコボルトの死体は、いつの間にか、犬そのものの死体に変わっていた。舌を突き出した、ぼさぼさに毛の乱れた野良犬だ。これが、コボルトの「正体」だったのだ。


 遺跡が『堕天の力』でダンジョンに変わるように、動物も『堕天の力』を受けてモンスターに変化する。これほどに強力なのだ、『堕天の力』とは。


「サーラさん、ご無事で?」


「ええ、ありがとう。それにしても……、君、すごい大騒ぎして戦うのね。コボルト二体を相手に」


「そりゃもう、油断したら死にますから」


 僕は言いながら、クロスボウの鉄矢をセットし直し、膝の隠し刃を戻し、試しに投げてみた鎖分銅やクナイを拾った。担砲(ショルダーカノン)が使えないのが痛かったが、どうにか勝てて良かった。


 七爪剣(クロウブレード)の七本の刃を戻しながら、


「サーラさんも、下着のポジションは直せましたか。調節し直しましょうか」


 と聞いてみた。


 サーラさんは答えない。





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