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ミミックがいた部屋の奥には、下り階段があった。
曲がりくねった階段を降りて行くと、前後に伸びる道に出た。石造りではない。硬く押し固められているが、粘土質のようだ。
「ダンジョン、まだまだ先がありそうですね……」
「当然。だから言ったでしょ? ミミックがボスだなんて片腹痛いって」
「はは……。はあ」
一歩ごとにピチャピチャと水が跳ねる。ランタンの明かりに、床も壁も天井もぬめぬめと光っている。さっきまでいた階と比べてやたら湿っぽい。
天井からの滴りもあるので、サーラさんはマントのフードをかぶった。
道は曲がりくねり、床は常に傾いている。天井の高さもまちまちだし、道自体が捻れているみたいだ。
「なんか、歩いているだけで酔ってしまいそうですね」
「『堕天の力』のせいね。それだけ大きな『堕天石』が落ちたのよ」
サーラさんの言うように、『堕天石』は空から降ってくる。
それが落ちた場所は、『堕天石』から発する『堕天の力』の影響をもろに受けて、「変化」する。僕らが今いるこのダンジョンもそうだ。ここも、以前は単なる古代の遺跡だった。石で出来た、地下数階程度の宗教遺跡だ。
それが、『堕天の力』の影響で、遺跡全体が変化した。道は伸び、捻れ、曲がり、それどころか階数自体も増えてしまった。地下深くに潜れば潜るほど、元の遺跡らしさが減っていく。
「この階なんて、遺跡にはなかったんでしょうね」
「そんな感じですね。より一層気をつけて進みましょう」
……という事は、そうか。やっぱり僕が大冒険の果てに死んだ場所は、結局は元の遺跡の階層範囲だったんだな。ダンジョン探索としては、ここからが本番て感じだしな……。
「はあ……」
「なに? ちょっと、もうへこたれてるの? まさか鎧が重いから休みたいなんて言うんじゃないでしょうね?」
「あ、いや、違いますよ。『堕天石』はどういう物なのかなーって。はい」
「私も見た事はないけど。人が運べる大きさだから大丈夫よ。君がへこたれなければ」
噂では、『堕天石』は、その強力な『堕天の力』を、ダンジョン生成の際に大方使い切ってしまうのだそうだ。『力』のあるうちは、周囲を変化させながらどんどん地中深くに降りていく。『力』の放出が収まったところで、やっと安定する。
つまり『堕天石』には、『堕天の力』の残りかすが入っているに過ぎない。でも、だからこそ僕ら人間が『堕天石』に触れる事が出来るんだ。じゃないと僕らなんてそばに寄っただけでどうなっちゃうか分からない。
とは言え、いくら残りかすだと言っても『堕天の力』だ。人間にはとうてい作り出せないエネルギーを持っている。
不治の病を癒し、肉体を若返らせ、ゴミを金に変え、そして『天』の世界への扉を開く。人の願いを叶える、奇跡の力。
だからこそ、探索者は『堕天石』を追い求める。流星の噂を求め、その地へ向うのだ。自分の命も顧みず。
「しっかり働いてよ。『堕天石』はちゃんと分けてあげるから」
「はい! サーラさんて良い人ですね」
「……『堕天の力』なんて、どれだけ『石』が小さくても一人の人間の手には余るのよ。だから」
そうは言うけど、普通はどんな手を使っても『堕天石』を独り占めしたいと思うのだ。ならず者を雇ってダンジョン探索に向わせる連中も、そのならず者との悶着が耐えないし、探索者同士でも仲間割れするのがほとんど常識なのだ。僕が一人でダンジョンに挑んだのも、探索者など信用出来ないからだ。
まあ、サーラさんの言う事が本当か嘘かは分からないけど、その時はその時だ。