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1-3

●1-3


「準備は出来たの?」


 女の子が待ちくたびれたという顔で聞いてくる。


「はい! ……あ、でも」


 彼女を見る。彼女はマント一枚なのだ。


「いくらなんでも、靴も履かないでダンジョン探索なんて出来ませんよ!」


「私だって嫌だけど、どうしようもないじゃない。このマントのせいで鉄靴は装備出来ないし、君のブーツは溶けちゃっているでしょ」


「ええと、ちょっと待っていて下さい」


 僕はしゃがみ込んで、背嚢を開けた。中から革やロープや修理道具もろもろを取り出す。ダンジョンでは装備品の故障は生死に関わる。それに僕は、鍛冶屋だった父さんの血を引いて、結構器用なのだ。


 慣れた手付きで、革を加工してみる。


「ざっくりと作ってみましたけど、どうですか」


「え、すごい!」


 僕がそれっぽい形に作った革の靴を見て、女の子が目を丸くする。まあ、靴職人ではないから、あくまで靴っぽい形の何かだけどね。


「どうかな……」


 彼女が恐る恐る白い足を靴に納め、紐で縛る。


 ん? 大丈夫か!?


 と、思いきや、靴は独りでにブルブル震えて……。


「ああー!?」


 すぽーん! と足からすっ飛んでしまった。


「せっかく作ってくれたけど、やっぱり駄目ね……」


「……いや、もうちょっと試してみましょう」


 脱げたは脱げたけど、鎧のように即座に脱げたわけではなかった。なんだか、一瞬だけど、呪いのマントが迷っていたような気がした。どこかで妥協点があるのかもしれない。


 僕は、作った革靴に鋏を入れ、革の面積を減らしていく。


「これでどうでしょう」


「うん。あ、大丈夫……じゃなかった!」


 すぽーん!


「じゃあ、これでは?」


「あ、今度は平気みたい……じゃなかった!」


 そんな事を繰り返して、とうとう。


「脱げない! ほらほら! ジャンプしてもなんともない!」


 女の子が嬉しそうにピョンピョン跳ねる。


 彼女が履いているのは、靴底と革紐だけで出来た編み上げ式の革サンダルだ。ようやく呪いのマントのお目こぼしに預かれたというわけだ。


「ふう、良かった……。じゃ、行きましょうか」


「ちょっと待って!」


「え?」


「履物が作れたんだからさ……あの……」


「他の物も作れって事ですね。何ですか」


「下着を……」


 真っ赤な顔をして、目を合わせないようにして、彼女が言う。


「え! ああ、まあ気持ちは分かります。でも、どうやら革紐ぐらいしか見逃してもらえないようですよ」


「とにかく作ってみて!」


 さすがの僕も、女物の下着なんて作ったことないよ。


 何パターンか試してみて、やはり細い革ベルト程度の物しか身に付けられない事が分かった。


「これ、本当にただの革ベルトなんですけど……。いいんですか?」


「何もないよりはいいの!」


「意味ないと思うけどなあ」


 僕に後ろを向かせて、彼女はいそいそとそれを身に着ける。あんなのが果たして下着と呼べるのだろうか。ボンテージファッションというのかな。


「よし、それでは進みましょう」


「あの! 僕はギスタといいます。コドー村のギスタです。あなたは?」


「君、名前、あるんだ」


「当たり前ですよ! 人間だもん!」


「冗談よ」


 彼女が笑った。涼しげな笑み。やはり、高貴さを感じた。


「……私は、サーラ」


 綺麗な人、サーラ。


「サーラ・キルカムナ。よろしくね」


 もう顔は赤くない。マントを纏った凛々しい姿。だけど、そのマントの下には、申し訳程度にしか局部を隠せない紐下着を付けているのだ。僕の作った下着だ。


 サーラさんは、自分の持っていた鞄類を指差した。僕が運べって事か。


「よろこんで!」




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