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「準備は出来たの?」
女の子が待ちくたびれたという顔で聞いてくる。
「はい! ……あ、でも」
彼女を見る。彼女はマント一枚なのだ。
「いくらなんでも、靴も履かないでダンジョン探索なんて出来ませんよ!」
「私だって嫌だけど、どうしようもないじゃない。このマントのせいで鉄靴は装備出来ないし、君のブーツは溶けちゃっているでしょ」
「ええと、ちょっと待っていて下さい」
僕はしゃがみ込んで、背嚢を開けた。中から革やロープや修理道具もろもろを取り出す。ダンジョンでは装備品の故障は生死に関わる。それに僕は、鍛冶屋だった父さんの血を引いて、結構器用なのだ。
慣れた手付きで、革を加工してみる。
「ざっくりと作ってみましたけど、どうですか」
「え、すごい!」
僕がそれっぽい形に作った革の靴を見て、女の子が目を丸くする。まあ、靴職人ではないから、あくまで靴っぽい形の何かだけどね。
「どうかな……」
彼女が恐る恐る白い足を靴に納め、紐で縛る。
ん? 大丈夫か!?
と、思いきや、靴は独りでにブルブル震えて……。
「ああー!?」
すぽーん! と足からすっ飛んでしまった。
「せっかく作ってくれたけど、やっぱり駄目ね……」
「……いや、もうちょっと試してみましょう」
脱げたは脱げたけど、鎧のように即座に脱げたわけではなかった。なんだか、一瞬だけど、呪いのマントが迷っていたような気がした。どこかで妥協点があるのかもしれない。
僕は、作った革靴に鋏を入れ、革の面積を減らしていく。
「これでどうでしょう」
「うん。あ、大丈夫……じゃなかった!」
すぽーん!
「じゃあ、これでは?」
「あ、今度は平気みたい……じゃなかった!」
そんな事を繰り返して、とうとう。
「脱げない! ほらほら! ジャンプしてもなんともない!」
女の子が嬉しそうにピョンピョン跳ねる。
彼女が履いているのは、靴底と革紐だけで出来た編み上げ式の革サンダルだ。ようやく呪いのマントのお目こぼしに預かれたというわけだ。
「ふう、良かった……。じゃ、行きましょうか」
「ちょっと待って!」
「え?」
「履物が作れたんだからさ……あの……」
「他の物も作れって事ですね。何ですか」
「下着を……」
真っ赤な顔をして、目を合わせないようにして、彼女が言う。
「え! ああ、まあ気持ちは分かります。でも、どうやら革紐ぐらいしか見逃してもらえないようですよ」
「とにかく作ってみて!」
さすがの僕も、女物の下着なんて作ったことないよ。
何パターンか試してみて、やはり細い革ベルト程度の物しか身に付けられない事が分かった。
「これ、本当にただの革ベルトなんですけど……。いいんですか?」
「何もないよりはいいの!」
「意味ないと思うけどなあ」
僕に後ろを向かせて、彼女はいそいそとそれを身に着ける。あんなのが果たして下着と呼べるのだろうか。ボンテージファッションというのかな。
「よし、それでは進みましょう」
「あの! 僕はギスタといいます。コドー村のギスタです。あなたは?」
「君、名前、あるんだ」
「当たり前ですよ! 人間だもん!」
「冗談よ」
彼女が笑った。涼しげな笑み。やはり、高貴さを感じた。
「……私は、サーラ」
綺麗な人、サーラ。
「サーラ・キルカムナ。よろしくね」
もう顔は赤くない。マントを纏った凛々しい姿。だけど、そのマントの下には、申し訳程度にしか局部を隠せない紐下着を付けているのだ。僕の作った下着だ。
サーラさんは、自分の持っていた鞄類を指差した。僕が運べって事か。
「よろこんで!」