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べちゃっとした瓦礫とともに下層階へと落ちる。
「う……。サーラさん……? クーリカ?」
頭を振って意識をはっきりさせる。
さっきまでとは違い、硬い床だった。そしてすべすべとして、清潔で、明るかった。
「明るい、だって?」
そこは……。
ここは本当にダンジョンなのか?
僕は、大きな邸の広間に倒れていたのだ。
磨きぬかれた大理石の床。赤い絨毯。高い天井には豪奢なシャンデリアがかかり、壁沿いにも数多くの蝋燭台が立っていた。柱には素晴らしい彫刻が施され、壁には絵画が、そして彫像が置かれている。
僕などには一生入る事のない、いかにも高貴な人の邸宅の中といった感じだ。
どういう事だ? 僕らはさっきまでダンジョンの中にいたはずなのに……。
サーラさんは膝を立てていた。
少し離れた場所に、クーリカがぐったりと倒れていた。
「クーリカ!」
僕の呼びかけに、わずかに呻き声が応える。
掃除の行き届いた広間の中央で、僕らと、一緒に落ちてきた瓦礫だけが汚かった。
「ここは……私の家……?」
サーラさんが呟いた。
「え、サーラさんの家!?」
「間違いないわ……。いったい、これは。幻覚? でも」
「僕にも見えています。……人が来ます!」
柱の陰から、奥の扉から、男達が何人も現れた。二十人近くいる。普通の平民では着れないような値の張る衣装を着た者、胸甲を付けて斧槍を持つ者もいる。
「お久し振りです、サーラ様。旦那様共々お待ちしておりました」
男の一人が言った。
「お前達……」
サーラさんが言葉を詰まらせる。それから、僕へ振り向いて、
「うちで使っていた者達よ」
と言った。
「え、じゃあ、サーラさんの家来って事!?」
サーラさんが頷く。
「そして、荒野の先の街へと向かい、帰ってこなかった者達……」
と言う事は……。
斧槍の石突が床を打った。それを合図に、男達が整列した。向かい合い、二列に並ぶ。その間には、赤い絨毯が伸びていた。
赤い絨毯の上を、向こうから歩いてくる姿があった。
髪や髭に白いものの混じった、背の高い、初老の男だった。艶のある白い生地に金糸で凝った刺繍を施した服。その上に、紫の豪華なガウンを纏っている。
呆然とする僕らの前まで男は歩いてきた。
穏やかな笑みを浮かべる。それは優しい、慈しみを湛えた微笑みだった。
「お父様……」
サーラさんの口から、言葉がこぼれた。
サーラさんのお父さん!? この人が……!
「サーラ。久し振りだな。しばらく家を空けていたが、達者であったか?」
「はい……」
「皆に変わりはないか?」
「はい、お父様……」
「兄達はどうだ?」
「兄様達は相変わらずです」
「いじめられたか? 不憫なやつよ」
初老の貴族が、サーラさんの頬に手を伸ばした。どの指にも、大きな指輪がはまっている。




