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4-3

●4-3


 べちゃっとした瓦礫とともに下層階へと落ちる。


「う……。サーラさん……? クーリカ?」


 頭を振って意識をはっきりさせる。


 さっきまでとは違い、硬い床だった。そしてすべすべとして、清潔で、明るかった。


「明るい、だって?」


 そこは……。


 ここは本当にダンジョンなのか?


 僕は、大きな邸の広間に倒れていたのだ。


 磨きぬかれた大理石の床。赤い絨毯。高い天井には豪奢なシャンデリアがかかり、壁沿いにも数多くの蝋燭台が立っていた。柱には素晴らしい彫刻が施され、壁には絵画が、そして彫像が置かれている。


 僕などには一生入る事のない、いかにも高貴な人の邸宅の中といった感じだ。


 どういう事だ? 僕らはさっきまでダンジョンの中にいたはずなのに……。


 サーラさんは膝を立てていた。


 少し離れた場所に、クーリカがぐったりと倒れていた。


「クーリカ!」


 僕の呼びかけに、わずかに呻き声が応える。


 掃除の行き届いた広間の中央で、僕らと、一緒に落ちてきた瓦礫だけが汚かった。


「ここは……私の家……?」


 サーラさんが呟いた。


「え、サーラさんの家!?」


「間違いないわ……。いったい、これは。幻覚? でも」


「僕にも見えています。……人が来ます!」


 柱の陰から、奥の扉から、男達が何人も現れた。二十人近くいる。普通の平民では着れないような値の張る衣装を着た者、胸甲を付けて斧槍(ハルバート)を持つ者もいる。


「お久し振りです、サーラ様。旦那様共々お待ちしておりました」


 男の一人が言った。


「お前達……」


 サーラさんが言葉を詰まらせる。それから、僕へ振り向いて、


「うちで使っていた者達よ」


 と言った。


「え、じゃあ、サーラさんの家来って事!?」


 サーラさんが頷く。


「そして、荒野の先の街へと向かい、帰ってこなかった者達……」


 と言う事は……。


 斧槍の石突が床を打った。それを合図に、男達が整列した。向かい合い、二列に並ぶ。その間には、赤い絨毯が伸びていた。


 赤い絨毯の上を、向こうから歩いてくる姿があった。


 髪や髭に白いものの混じった、背の高い、初老の男だった。艶のある白い生地に金糸で凝った刺繍を施した服。その上に、紫の豪華なガウンを纏っている。


 呆然とする僕らの前まで男は歩いてきた。


 穏やかな笑みを浮かべる。それは優しい、慈しみを湛えた微笑みだった。


「お父様……」


 サーラさんの口から、言葉がこぼれた。


 サーラさんのお父さん!? この人が……!


「サーラ。久し振りだな。しばらく家を空けていたが、達者であったか?」


「はい……」


「皆に変わりはないか?」


「はい、お父様……」


「兄達はどうだ?」


「兄様達は相変わらずです」


「いじめられたか? 不憫なやつよ」


 初老の貴族が、サーラさんの頬に手を伸ばした。どの指にも、大きな指輪がはまっている。




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