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4-1

●4-1


 僕らは前に進むしかないんだ。


 約束の指輪を手に、急ぎ足で進む。


「約束の指輪。約束の光。僕らを導いてくれ」




 小一時間も進んだ時、突然、指輪の光が激しく点滅した。


「なんだ?」


 焦ったが、すぐに光は戻った。


「壊れたのかと思いました」


「待ってギスタ。ほら、光の差す方向がさっきまでと違う」


「本当だ。これって……強力なモンスターが現れたのかもしれません。あの巨人のように、強い『堕天の力』を受けて生まれたモンスターが」


「そのようね。ここは、新たな光を無視して、さっきまで差していた方へ行きましょう。危険は避けるべきよ」


「そうですね」


 そう言ったまま、しかし僕は、その場に立ったままだった。


「ギスタ?」


「僕らにはこの指輪があるから、『堕天石』まで最短距離で行けます。でも……クーリカはこんな便利なアイテムは持ってません。きっと迷いながら、遠回りしながら進んでいるはずです。そしてクーリカは、出会ったモンスターがどんな相手であっても、決して逃げたりはしない。あの子は戦闘シスターだから……」


 それ以上の言葉は必要なかった。


「分かったわ。新しい方向へ向かいましょう」


 サーラさんは、迷いもなく、進み始めた。既に三角長剣(デルタ・ソード)を抜いている。


「はい!」




 指輪の光は、時に揺らぎ、時に閃光のように煌めく。不安定な光り方だ。嫌な予感がした。


 そして案の定。


「クーリカ!」


 やはり、クーリカがモンスターと交戦するところへ出くわした。


 クーリカは必死に戦っている。しかし、聖鎚(ホーリーハンマー)聖杭(ホーリーパイル)を使ってではない。


「も、燃えてしまえ!」


 腕を激しく振るう。掌から、粘っこい炎が迸る。


「炎の魔法を使っている!?」


 しかし、それを放たれたモンスターの方は、宙を飛び火を躱す。一見人型だが、全身が黒く、大きな一対の翼も黒い。


「……ガーゴイル」


 サーラさんが呟く。


 バサバサと翼を鳴らし、縦横に飛び回るガーゴイル。


 機動性の高いガーゴイルが相手だから、クーリカも聖鎚(ホーリーハンマー)聖杭(ホーリーパイル)では対処出来なかったのだ。だから、まだ不完全な炎の魔法に頼る事になっているんだ。


「逃げるな! モンスター!」


 矢継ぎ早に魔法の火を放つクーリカ。


 しかし当たらない。


 それどころか、狙いを外した炎は地面や壁にぶつかり、まるで有機物のような壁を焼いていく。辺りには腐肉を焼いたような嫌な臭いが立ち込めていた。


「クーリカ! 焦っちゃだめだ!」


 急いで助勢に向かうが、


「ギスタ様……。助けなんていらない! 来るな! モンスターめ!」


 クーリカの瞳には、やはり僕への憎しみがあった。炎に照らされて、表情は鬼気迫るものがあった。


 だが、そんな言葉にいちいち傷ついている余裕はない。


「僕は、体はモンスターでも、心は人間のままだ! 君が心配なんだよ、クーリカ!」


「なぜクーリカがモンスターに心配されなくちゃいけないの! あなたは罪人よ! 罰を受けるべき存在なのよ! モンスターは、全部……」


 口と瞳は威勢が良かったが、クーリカは相当に消耗していた。激しく咳き込み、膝を折ってしまう。


「ギスタ! クーリカを起こしなさい!」


 急降下してきたガーゴイルを、サーラさんの三角長剣(デルタ・ソード)が薙ぎ払う。


 堅い火花が散った。


 ガーゴイルの爪が炎を反射している。


「クーリカ!」


 クーリカに肩を貸そうとしたが、その手に聖鎚(ホーリーハンマー)が振り下ろされた。ガツンという衝撃が、鎧の全身に伝わる。


「クーリカに触らないで……! お願い……」


 そう言ったクーリカの目には、しかし涙が浮かんでいた。


「君が僕を憎むのは仕方ない。でも、僕は今でも君の友達のつもりだ。僕は友達を見捨てない!」


「友達なんかじゃ……う!」


 クーリカが聖鎚(ホーリーハンマー)を落とし、口を押える。


「どうしたんだ」


「ギスタ! そっち!」


 サーラさんの声に振り返る。


 間一髪、ガーゴイルの足の一撃を左腕の盾で防いだ。


 ガーゴイルは即座に急上昇し、天井を蹴って方向を変え、こちらへ駆け寄ろうとしていたサーラさんの頭上を過ぎた。


 サーラさんが壁を蹴って高く跳ぼうとしても、とても捉えられない。


「エル! 蛇腹剣で奴を絡め捕れないか!?」


 だがエルは沈黙したままだ。


 盾裏のクロスボウを射る。


 しかし、ひと時も動きを止める事のないガーゴイルには、当てられない。


「ならば」


 背嚢(バックパック)担砲(ショルダーカノン)を構える。濡れてしまった黒色火薬は、一応焚火で乾かしてある。だが、この湿気っぽい階層だ。撃てる保証はない。


「頼む!」


 撃つ。


 バスン! と鈍い音。やはり完全な状態ではなかったのだ。


 それでも多くの鉄片が見えない速度で打ち出され、ガーゴイルの片方の翼を切り裂いた。ガーゴイルは宙でよろけ、高度を落とす。


「私の方が、高い!」


 サーラさんが壁を駆け上がる。


 三角長剣(デルタ・ソード)が二度煌めき、ガーゴイルの頭と残りの翼が落ちた。




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