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その後はモンスターに遭遇する事もなく、ここらで睡眠を取る事になった。
どうも僕は、皆とは疲れ方が違うようだ。サーラさんやクーリカの疲労には気付かないでいた。
〝仕方ないよ。だって、人間じゃないんだもん、アタシ達〟
「そうだね……」
僕は、と言うか僕とエルは、薪になる物を探しに行った。僕らが寝ずの番をするとは言え、休息中に火を絶やすわけにはいかない。ランタンの油を節約するために、焚き火の方が良いのだ。何でもいい、薪になる物を。
突然、エルが僕と入れ替わった!
〝わ、わ? ちょっとエル、どうしたの?〟
ボディがエルの姿に変わる。そのまま、エルは走り出した。
〝なになに!? 敵!?〟
しかし、向ったのは、通路の端に転がっていた二つの死体だった。
〝探索者だね〟
「ええ」
僕らの他にもこのダンジョンに探索者は潜っている。クーリカだってそうだった。今の僕らよりももっと先へ潜った人達もいるのだろう。そもそもダンジョンは一本道じゃないから、途中で追い抜かれている場合もあり得る。
死体も、彼らの着ている鎧も、激しく損傷していた。既に結構深い階層まで来ている。強力なモンスターが増えているんだ。
僕が、昇天出来たかな、なんて祈りのような気持ちでいると、エルは死体を改めだした。無言で、てきぱきと。
それから、死体の付けていたベルトや鞄を漁って、松明や糧食、ランタンの油や水筒などを手に取った。
「武装は駄目だけど、鞄の中身は無事だったわ。収穫ね」
〝うん、まあ、そうだね。ありがたく使わせてもらおう〟
収穫品を抱えてサーラさんとクーリカの元へと戻る。
〝そろそろ体を返してよ〟
「返してって言い方は間違いよ。だってアタシのボディでもあるんだし。ま、働くのは面倒だから別にいいけど。……ん? ちょっと待って」
サーラさんとクーリカの声が聞こえる。喧嘩しているみたいだ。
「クーリカはギスタ様と一緒に寝ます! あんな重たい鎧をずっと着ていたら体がガチガチになっちゃいますもん! クーリカが癒してあげないと!」
「癒すのになんで一緒に寝るのよ!」
「それは、魔法で……」
「どんな魔法? それに、ギスタは鎧を脱がない方がいいの。ほら、いつモンスターが襲ってくるか分からないし……」
「そうやってギスタ様を召使いみたいに働かせて!」
〝あーあ……。まいったな、これじゃあ戻れないよ。僕が行ったら余計にややこしくなる〟
「へえ、アンタにもそんな事が分かるんだ」
とエル。
〝む。ちょっと引っかかる言い方だなあ〟
「もっとお子様だと思っていたからさ。喧嘩はやめなよ~なんて言って飛び込んでいくかなって」
いやまあ、僕が体の主導権を握っていたらそうしていたと思うんだけどね……。
それはそうと、火が絶えたらモンスターの格好の餌食だ。せっかく松明も手に入れたんだ。早く持って行ってあげないと。
「アタシにまかせといて」
エルはそう言って、鎧の肩のベルトを解いた。胸甲と手足の主要な板金装甲が、まとめて一度に外れた。
これは、エルの要望で僕が新たに取り付けた機能だ。重装状態から軽装状態へと一発で切り替えられる。ただし、軽装状態も一応は全身金属で覆われているとはいえ、それでも徐々に生命力は漏れて行く。なので短い時間しかこの状態ではいられない。
「じゃ、行こう」
エルは脱いだ板金装甲のセットと、その他の収穫品を肩に担いだ。




