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2-6

●2-6


 魔人の、最も炎の勢いの強い手足を、サーラさんが切り裂く。だが、それで手や足を切り落とせるわけではない。ただ向こうの攻撃を封じ、動きを怯ませるだけだ。


 その間に、破邪の鎧を着ている僕は、炎の勢いの弱い魔人の胴部に取り付く。


 魔人の胸に七爪剣(クロウブレード)を突き込み、刃を展開!


 炸裂し、わずかに捲れた燃える皮膚を、手甲で押し広げる! 破邪の鎧の効果だろうか、確かに魔人の皮を破く事が出来る。


 どこだ? 内部のどこかに「正体」となるものがあるはずだ。そいつを露わに出来れば!


「ぐああ!」


 我慢出来ずに叫んでしまった。


 破邪の鎧は、魔人の体を傷つける事が出来る。だが、魔人の火を防げるわけではなかった。魔人の火が手甲を焼き、熱が全身を伝う。


〝死んじゃう! 死んじゃうって!〟


 鎧の中で、ミミック細胞の体が煮えている。


 だけどまだ、僕らの心は消えていない。逃げ出していない。金属の鎧の中に封じられたままだ。だから、まだ……出来る……!


 ガチっと鳴ったきり、七爪剣(クロウブレード)が作動しなくなった。高温による熱膨張か、熱疲労でへたったのか、とにかく機構が上手く働かない。


 僕は七爪剣(クロウブレード)を捨て、両手を魔人の傷口へ突き入れた。このまま、この手で、一気に、裂いてやる!


 その時。


〝助けて下さい……〟


 声が聞こえた。耳からではない。ミミック細胞で出来た体を通して、伝わってきたのだ。


「なんだ今の声!? エル!?」


〝なによ!? 知らないよ! 熱い! 熱い! 死ぬ~!〟


 エルの声じゃない。じゃあ、誰だ? ……まさか、この魔人か!?


「ギスタ、そのまま開いていて! 見えなくても貫いてみせる!」


 サーラさんが叫ぶ。


「やる!」


 だけど。


「こいつは……違う! 違うんです! 殺しちゃ駄目だ!」


 三角長剣(デルタ・ソード)が伸びる方へ、僕は動いた。


 刃を背中で受ける。その衝撃が、背中から、爪先まで。


「ギスタ!? そんな!」


「うっ……。ま、待って下さい!」


 僕は魔人の胸に突っ込んだ両腕に、最大限の力を込めた。両側に引き裂いて……!


 だけど、それをやる僕の両腕を、魔人の燃える手が掴んだ。胸の炎とは全然違う熱が、伝わってくる。


 破邪の鎧の中で、ボコボコと、沸騰する音がした。


 力が……抜ける……。


「エ、エル、力を……!」


〝ギスタ……一気に……!〟


 引き裂く!


 ガバッと開いた魔人の胸に、その奥に、人の顔が現れた。子供だ。目を閉じている。女の子だ。この子が、「正体」なのか!


 魔人の傷口の奥に手を突っ込み、子供の襟元を掴む。


〝ギスター!? もう絶対無理ー!〟


「もうちょい! よいしょお!」


 子供を、魔人から一気に引き抜く! 勢い余って、そのまま尻餅をつく。


「ごああおお!」


 魔人の悲鳴。


 炎の魔人は胸を押さえながら、よろめいた。


「なんだ、こいつ……」


 炎が飛沫のように飛び散り、魔人の形が崩れていく。だが、死ぬわけではない。という事は、この子供が魔人の「正体」というわけではなかったのか?


 燃える体が、人型ではない別の形に変わっていく。


 それは、三つの頭を持った、人よりも大きな鳥だった。やはり全身が炎に包まれている。


〝あれは、ヒザマ! 火の妖怪よ!〟


 とエルが言う。


「え、ヒザマ!?」


 よろけたヒザマが、足を踏み外し、水の流れの中へ片足を落とした。じゅう! と激しい音が鳴り、猛烈な蒸気が上がった。ヒザマは慌てて足を抜いた。


「水が避けない!? あれは魔力を持った炎じゃないのか!」


 サーラさんが言った。


「堕天使じゃ、ない……!?」


 ヒザマは僕の方を向いた。怒りの目だ。六つの目から、細い稲妻がバチバチと漏れている。


 逃げなくちゃ。


 しかし僕の腕は、子供を抱いている腕は、まったく動かなかった。子供の重さも感じていない。鎧の重さもだ。僕の腕は、どうなってしまったのか。


〝ギスタ!? どうしたの!〟


 ヒザマの三つの口が同時に開いた。その咽喉から、炎が競り上がってくるのが、分かる。


「おお!」


 凛とした、叫び。


 三角長剣(デルタ・ソード)を持って、サーラさんが跳んでいた。炎を映し、その剣は真っ赤に光っていた。


 赤の一閃。


 その一撃で、三つの鳥の頭が、宙を舞った。





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