表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/45

2-4

●2-4


 新たに見つけた階段を下ると、さらに湿り気のある階層になった。壁もびちゃびちゃと濡れている。地下水なのか、まるで小川のように、水の流れが横断している場所もあった。


「サーラさん、お手をどうぞ」


「結構です」


 水の流れをひらりと軽やかに飛び越えるサーラさん。うーむ、華麗だ。


 それに引き換え、エルの言動はなかなかに下衆いものだった。


〝ほれ、今の見た? あの股間。革ベルトが肌に馴染んでいるとは思わない? 最初は硬くて擦れていたはずなのに。湿って柔らかくなったのよ、きっと。どういう事か分かるでしょ?〟


「ああー、もう! 変な事言わないでよ!」


「え、どうしたの」


 ビクッとして、サーラさんが振り返る。


「あ、サーラさんに言ったんじゃないんです! すいません……」


〝あの娘、ボンテージの締め付けにも慣れてきたのかもしれないわね。それはいけない。もっと強い刺激が必要になっちゃうわ。分かるでしょ? 若い女の欲望は無限なの。アンタのような坊やが思うよりもずっとね。次の手を考えた方がいいわね。アンタ器用なんだから、あの下着の内側に、もっとこうイボイボのさ……〟


「サーラさんの体をイジメろって言うのか!」


「……ギスタ?」


「あ、え」


〝やれやれ。アンタだってその手のお店で女ぐらい買ってたでしょ? え? カモられてただけ? は~、情けない。だからアタシの魅惑のボディにウヘウヘまいって、死ぬはめになるのよ〟


 このやろー! なんでこんな女と同じ体でいなけりゃいけないんだ!


「もう、僕はそういう事に興味はないんだから、黙っててよ!」


 兜の中で、小さい声で叫ぶ。


〝本当に、興味ないの?〟


 不意に、エルが真面目な声を出した。


〝アタシがなんでこんな事を言っているか分からない? もしアンタが若い人間の体に何も感じなくなったら、それはもうアンタが人間じゃなくなったって事だからね。アタシはそれを確かめたかったの。情欲は人が人としてある為の最も根本的な欲求よ。情欲がなくなったら、子孫を作らなくなって人は滅びるんだから〟


 挑発なのは分かっていた。でも僕は、エルの言葉にドキリとした。怖かったのだ。


「僕は人間だよ……」


〝え? 何だって?〟


「そりゃ確かに僕だって……。男ですから……。思う事はあるよ」


 ごにょごにょと小さい声で呟く僕。


〝なによ。はっきりしない奴。サーラのあの食べ頃ボディを見てどうなのよ。ほら! あれをご覧!〟


 サーラさんが水溜りを飛び越えた。軽やかな、滞空時間の長いジャンプ。マントがふわりと膨らみ、ふくらはぎから膝の裏、太ももまでが露わになって、その上を、もう少し、というところで、隠れた。


〝どうよ! どうなのよ!〟


「お、美味しそうだと思うよ!」


「え、なに?」


 サーラさんが振り向く。しまった。声が大きかった。


「いや、なんでもないんです。独り言で」


 僕は慌てて、無様なジャンプで追い付く。


「なんか今、私の事を美味しそうだとか言ってなかった?」


「えーと、そんな事言ったっけな? 気付かなかった」


「気付かなかった? 無意識で? もしかして君……、やっぱりモンスターの本能が抜けてないんじゃない? 私を殺して食べる気じゃ……。こっちもそれなりに対策しないといけないかしら」


 三角長剣(デルタ・ソード)をいじりながら、ちょっと不穏な目つきで僕を見る。


 あー、もう、エルの奴!


「違うんです! 美味しそうっていうのは、その、人間としての、情欲の感情なんです!」


「ええ!?」


〝ギスタ、アンタはモンスターじゃないでしょ! 人間でしょ! だったらどうなの!〟


「あのその、美味しそうって言うのは、触りたい、くっ付きたいって事で、つまり、ええと、僕だって男ですから! 分かってくれませんか! 僕は、こんなんですけど、中身は健康な男子なんですから!」


 僕の心は人間のものだ! その事をどうにか説明したいけれど、焦ってしまって。


「サーラさんは、あの、凄く素敵な体です。綺麗な体です! サーラさんのような方を目にしてたら、そりゃ、もう、もう……!」


「なな何を言っているのよ……」


「つまりですね! 一つになりたいんです! 食欲じゃないんです! 人間の、男と女の感情です!」


〝そうだそうだ! 言ったれ!〟


「味わいたいんです!」


「あばばばば」


 サーラさんの顔が火のように赤くなっていた。目玉はひっくり返りそうになっているし、頭から湯気が出ているし、なんか爆発しちゃいそう!?


「ばば馬鹿なの!?」


「ひっ」


 ぶたれるかと思ったけど何も飛んでこなかった。


「き、君の体はミミック細胞で出来ているのよ!? 有機物を分解して吸収しちゃうのよ!? そんな体で、くっ付いたりなんか、出来るはずないじゃない!」


「それはそうなんですが……」


「そうね……、エルは……人間として復活したいのよね。君も、それを願うしかないんじゃない……のかな……」


 最後の方はサーラさんらしくない、気弱な声だった。


〝おやおや~〟


 とエル。


「え? えっと、僕の願いは」


「頑張りなさいって事よ!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ