表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/45

2-1

●2-1


 サーラさんの目が、微笑んだ。優しい光だった。


 やろう。僕はこの人と、堕天使を倒そう。


「サーラさん、あなたと」


 そう言った僕に、サーラさんが頷く。


 そして、バッと、素肌を晒した。


 革のベルトだけで出来たブラとショーツ。それは最早ブラとショーツとは呼べない代物。突起と秘部だけをかろうじて隠しているだけの、紐。これはもう裸と言って間違いないのではないか。


 そんな白くてすべすべして柔らかそうな女の子の肉体が、僕の目の前に。


 マントが、そっくり真上にめくれ上がっていたのだ。ダイナミックに。


「え?」


 と僕。


「え?」


 とサーラさん。


 次の瞬間。


「ぎゃー!」


 いつ抜いたのか、三角長剣(デルタ・ソード)の強烈な一撃が僕を打つ!


「ちょっと! 何するのよ!」


「ぼ、ぼ、僕は何も……」


 兜の中で、ミミック細胞で出来た頭がぐわんぐわん震えている。


「貴様、既に心もケダモノじゃない!」


「そんな、僕じゃないです……! あ、マントに糸が!?」


 そうなのだ。透明の糸が、何重にもマントに絡み付いて、それが上方へ引っ張り上げていたのだ。なんだこの糸は。いつしか、随分と天井は高くなっていた。


「って、サーラさんどこ行くんです!?」


「わわわ! 引っ張られる!」


 マントごと、サーラさん自身も空中に吊り上げられてしまった! きっと体を隠す事に精一杯で、足を踏ん張れなかったんだ。


「きゃああ! きゃあああ!」


 しかしこれは、丸見えにもほどがあるぞ!


「サーラさん! 糸を切って!」


 もう僕の剣の届く距離ではないのだ。二階建ての家の屋根ぐらいの高さになっていた。


「だめー!」


 サーラさんは首が締まらないように片手でマントの首元を押さえ、もう一方の手で股間を押さえる。その拍子に、手から三角長剣(デルタ・ソード)が落ちた。


「ああ、もう! サーラさん、そんな事しても隠せるものじゃないんですから!」


「うるさい!」


 ええい、どうにかしなくちゃ。僕は盾のクロスボウを構えた。


「じっとしていて下さい!」


 射る!


 鉄矢は見事にサーラさんを吊り上げている糸に命中した。


 だけど、切れない! それどころか、鉄矢は糸にくっ付いてしまって落ちてこない。


「これはもう、直接行くしかない」


 僕はサーラさんの足元へ行く。


「真下に来ないで! 馬鹿!」


 そんな事言ったって。


 僕は両足の踵を、ガッと強く踏んだ。ストライカー装置が準備状態になる。


「行きますよ!」


「上を見ないでって!」


 そんな声を無視して、一気にストライカー装置を作動させる。バシン! と足裏のキックスパイクが地面を強く叩き、僕の体は宙に跳んでいた。


 両手を開き、


「サーラさん!」


 と叫ぶ。このまま抱き締めて、僕の重さで糸を引き千切る。


 と思ったのだけど。


「下から来るなって!」


 僕を待ち構えていたのは、凄まじい威力のキックだった。


「ぐはっ!」


 サーラさんにカウンターで蹴りを合わされ、僕は猛烈な勢いで地面に叩き落とされた。


「あ、あが、あがが……」


 ごわんごわんする視界の隅に、十本足の巨大な怪物の姿が映る。そいつは横に張られた糸を器用に渡って、吊るされたサーラさんの方へと近づいていく。


 ジャイアントスパイダーだ! でかい! ちょっとした小屋ぐらいの大きさだ。


「サ、サーラさん、そいつ……」


 体がうまく動かない。


「分かってる」


 サーラさんは足を振って勢いをつけ、身を翻し、蜘蛛の横糸の上に乗った。自由になった両手で拳闘の構えを取る。でも、いくらなんでも素手で戦うなんて無茶だ!


 どうにかしないと……。でも、どうすれば。


 武器は? 武器ならある。だがどれを使えばいい? ええと、ええと……。


〝ええい! まどろっこしい! どいてなさい!〟


「うわ! びっくりした!」


 なんだ、誰の声だ!? まるで、体の中から聞こえたような……。


 首を巡らせて周りを見ようとしたけれど、しかし首は動かなかった。首も、手も、体が全く動かない! なんだ? どうしたんだ!?


 いや、動かないんじゃない。


 手甲を嵌めた手が、腰に吊るしてあった鎖分銅を取り、頭上で振り回す。なになに!? 僕そんな事しようとしてないよ!?


 そして、勢いをつけて、鎖分銅をジャイアントスパイダーへ投げた。僕の体が勝手に。


 鎖分銅は、見事に蜘蛛に巻き付き、何本かの足を一まとめにして封じた。


 続いて僕の体(?)は、背中に背負っていた一本の剣を抜いた。


「ああ、なんか重い! この鎧!」


 ん? 今喋ったのは、僕?


「邪魔! これも邪魔!」


 僕の手(?)が勝手に鎧の板金装甲を外していき、随分と軽装の姿となる。


 それから、さっき抜いた剣にランタン用の油をかけ、火を点けた。


〝そうか。炎で糸を〟


「そういう事!」


 僕の気持ちに僕の唇(?)がそう答えた時、僕の足(?)は壁に向かって跳んでいた。その壁を蹴り、反対側の壁をさらに蹴り、今や囚われのサーラさんと同じ高さにいた。


「君は……」


 サーラさんが目を見張る。


 その時には、鞭のようにしなる「蛇腹剣」が、蜘蛛の糸を焼き斬っていた。


 サーラさんが落ちる!


 だけどそこはサーラさん。空中で一回転して、華麗に着地した。


 僕の体(?)もまた、鉄靴を履いているとは思えない軽やかさで、見事に着地。


 その横へ、足を縛られ足場の糸を燃やされたジャイアントスパイダーが、落ちてきた。


 サーラさんは、三角長剣(デルタ・ソード)を拾った。それからジャイアントスパイダーを始末するのに、三秒とかからなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ