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Legend of kiss1 〜雪の王子編〜  作者: 明智 倫礼
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王子様の野望

 そして、昼休みーー

 いつもは、屋上で昼食を取っている亮たちだが。夏の時期は暑さから逃れるため、中庭の大木の下へ場所替え。少し奥まったところで、あまり人も来ず、彼ら以外に人影はない。


 さわやかな夏風が吹くとともに、ふんわりした声が舞った。


「遅くなったさんなの」


 亮、祐、誠矢、美鈴がそちらへ顔を向けると。天使でも舞い降りたのかというほど、にっこり笑顔の男の子が立っていた。彼の名は、ルー スチュワート、十七歳。

国籍はイギリス。ふんわりした金髪が、夏の日差しにきらめいている。


 父親は世界的に有名な菓子会社の社長。母親はそこの専属パティシエール。彼は、いわゆる御曹司。両親の仕事の都合で、去年の春に、煌彩高校へ留学。彼を一言で表すなら、『可愛い』が一番似合う男の子だ。いつも、天使のようなふんわりとした雰囲気をまとっている。日本語はだいたい話せるが、彼独特の話し方をするため、みんながよく混乱する。


 ちなみに、この五人は同じクラス。


 ルーは持ってきた箱を慎重に下ろした。


「ふふふっ、そっとさ〜ん……」


 それを見つけた祐は、珍しく嬉しそうな顔で、


「もしかして、新作か?」


 箱を空け、ルーは中身を取り出しつつ、


「ふふふっ、図太いさん♪」


 意味不明な発言に、他の四人はそれぞれの反応を見せた。美鈴はおかかおにぎりを頬張りながら、ルーをちらっと見て、


 「…………」

(ちょっと、かすったね)


 誠矢はゲラゲラ大声で笑い出し、


「ある意味あってんぞ!」

(祐、滅多なことじゃ、驚かねぇからな。おう、祐。突っ込みポイント、残しておいてやったぞ)


 親友の視線を、祐は迷惑顔で受け止め、


「…………」

(面倒くさい、俺に回すなよ。そっちが先だろう)


 祐は、幼なじみ・亮へ視線を向けた。まるで、申し合わせたかのように、彼女はなぜか大声を上げ、


「えぇっっ!?」


 慌てて、お弁当を片づけ始めた。


(わわわわっ……! た、大変だ!! 早く、お弁当片づけないとーー)


 誠矢がまた、素早く突っ込み。


「いやいや、雨は降ってねぇって!」

(『ずぶ濡れ』に聞き間違えんなって。思いっきり晴れてんじゃねぇか!?)


 五人の頭上には、夏の真っ青な空が広がっていた。

 亮は手を止め、きょとんとする。


「何味?」


 さらにそこへ、ルーの混乱発言が追加。


「木の実さんっ♪」


 ルーが持ってきたケーキーーナッツやドライフルーツをふんだんに使った秋らしさを感じさせるチョコレートケーキ。それを受け取ると、裕の右手には板チョコ、左手にはチョコケーキと、なぜかダブルおやつに。彼はそんなことには構わず、亮とルーの会話にため息をつく。


「…………」

(突っ込むの面倒だから、誠矢に譲る。ありがたく思え)


 めちゃくちゃになってしまった会話に、さすがの天才少女・美鈴も、ため息。


「…………」

(まったく、あんたたちは………)


 親友の意志をしっかり受け継ぎ、誠矢はまず、ボケボケ少女・亮を片づける。


「いやいや、ベタな間違いしてくんなって。飴じゃねぇって」


 そして、金髪天使の最初の間違いを、やっと指摘。


「『図太い』じゃなくて、『鋭い』だろ!」

(よし、全部、突っ込んでやったぜ!)


 役目を終えた誠矢に、ルーはふんわり天使の笑みをプレゼント。


「そうそう、それ。鋭いさんっ♪」


 一段落したところで、珍しく祐の叫び声が。


「うまいっ! やっぱり、これくらい甘くないとな」


 誠矢に休む暇を与えず、なぜか笑いを取りにいった祐。さりげない、親友からの前振りに、誠矢は思わず、


「昼飯食い終らねぇうちに、ケーキ食うなって!」

(いやいや、オレ、昼飯食う時間なくなっちまうだろ)


 板チョコを右手に残したまま、大口を開けて、祐はチョコレートケーキをパクつきながら、視線だけ誠矢へ向けた。


(じゃあ、放置してやる。ありがたく思え)


 誠矢はニヤリとし、焼きそばパンを頬張り始めた。


(おう、サンキュウな。やっと、昼飯食えるーー!!)


 そこで、勘の鋭い彼は、何かに気づいた。


(あぁ! お前、何か考えごとしてんだろ?)


 祐は不機嫌そうに、別の方向へ顔を向けた。


(考えごとしてるってわかったなら、話しかけるなよ。今、対策練ってるところなんだ)


 誠矢はそこで、意味あり気に微笑んだ。


(こないだ、大変だったらしいな。ルーに聞いたぞ)


 赤髪少年は、ちらっと校舎の一角を見上げた。


(あいつに、助けてもらったって)


 何か、チョコレートに関する事件があったらしい。しかも、ここにいない誰かさんを巻き込んで。

 チョコレートケーキを、祐はあっという間に完食。そして、後ろから大きな紙袋を取出し、ガサゴソ始めた。

 誠矢はそれを横目でうかがいつつ、


「今日も大漁だな」


 祐は返事をするどころか、見向きもせず、ガサゴソ。


「…………」

「いっぱいさん」


 ルーにも話しかけられたが、それでも祐は、ガサゴソ。


「…………」


 中身を全て取り出した銀髪少年は、手紙とプレゼントにわけ始めた。


(もっと、合理的な方法……。そうだな……あれがこうで、それが……)


 そうして、何も言わなくなった祐を置いて、他のみんなはそれぞれ食べ始めた。だが、亮はそのままじっと祐をうかがい、


「……?」

(祐、話しかけても、また上の空だ。何か考えてるのかな?)


 ロック界の王子様はなぜか、手紙を数え始めた。


(一、二、三……)


 不思議に思い、亮は、


「祐、数えてどうするの?」


 彼女を無視して、祐は作業を続ける。


「…………」

(数えてるって知ってるなら、話しかけるなよ。間違えるだろう。十、十一、十二……)


 さすがに親友だけあって、何をしているのか理解している誠矢は、ニヤニヤしつつ、


(お前、マジで抜かりねぇな)


 おかかおにぎりを頬張りながら、美鈴は妙に感心。


(まめだよね、そういうことろは。大抵のことは面倒くさがって、やらないのに……)


 全部数え終えた祐は、手紙をじっと見据え、ぼそっと。


「これ……一通、どれくらいだろうな?」


 幼なじみのつぶやきを聞いた亮は、なぜか空を見上げ。夏の眩しい日差しに目を細めた。


「え……?」


 きょとんとした亮の右隣から、祐の独り言が。


「一通、十円?……いや、百円。……ちょっと高いか…?」


 ロック界の王子様は、あらぬことに、ファンから手数料を徴収しようとしていた。

誠矢がゲラゲラ笑いながら、


「だから、そういう言い方すんなって!」

(金の亡者もうじゃだって、誤解されんぞ!)


 親友の突っ込みにはお構いなしに、祐はプレゼントを取り上げ、


「こっちは、現金だったらいいのにな」

(物だと非合理的。 別の方法があるかも知れない……。そうだな……あれがこうで、それがああ……)


 さらに画策し始めた祐に、ルーはふんわり笑顔を送る。


「祐クンは、すごいさん」


 金髪天使の言葉で、亮はやっと祐が何をしているのか気づいた。ぼんやりプレゼントを見つめている、銀髪の幼なじみに焦点を合わせて、


「…………」

(祐は、お金が欲しいから、バンドを始めたのかな?)


 その視線に気づいた美鈴が、


「彼の理由は、そんなに単純じゃないよ」

「え……?」

(複雑な理由があるってこと?)


 ぽかんとした亮の瞳を、誠矢はちらっとうかがい。


(祐には壮大な計画があんだよ)


 そして、親友に視線を送り、心の中だけで軽く突っ込み。


(お前、絶対、高校生じゃねぇだろ。どっかの皇帝みてぇじゃねぇか、その計画)


 首を傾げている亮を、ルーは優しく見つめ、


「ふふふっ……」

(亮ちゃんも、わかるさんなの、いつか)


 ついで、ふんわり天使はみんなを見渡し、


(ボクがいなくても、大丈夫さ〜ん♪ だから、ボクはお仕事さん)


 お弁当を片づけ、ルーは立ち上がる。


「ボク、ひかる先生に届けるって、約束さん」


 ケーキの入った箱を抱え、金髪を夏風になびかせながら、可愛く手を振った。


「五時間さんまで、バイバイさんっ!」


 スキップで中庭を去ってゆくルーの背中を見送りつつ、誠矢は美鈴に、


「八神も食うのか?」

(ルー、毎回、新作持っていくけどよ)

「彼、ルーのお店のファンらしいよ」


 その時だった。『天災は、忘れた頃にやって来る』ーーという言葉があるように、平和なランチタイムに、亮の意味不明な発言が突如襲った。


「ルーもファンレター届けに行くんだね」


 なぜか、話がごちゃまぜになった親友に、美鈴はおでこを押さえ、


「あんた……本当にちゃんと話通じないね」


 焼きそばパンをかじろうとしていた誠矢は、手を止め、ゲラゲラ笑い出した。


「いやいや、勝手にくっつけんなって! 祐の話と」

「え……? 先生が、ルーのファン?」


 フライドポテトを持ったまま、ぽかんとした亮ーー宇宙一の天然ボケを前にして、さっきまで一言も話さなかった祐が、ぼそっと締めくくった。


「お前くらい、何も考えずに生きてみたい……」


 さわやかな風が四人の間を吹き抜け、午後の授業開始の予鈴が鳴り始めた。

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