変わらぬ平穏
目が覚めた、息を吸った、辺りを見回した。ここは何だ、何処だ、何故だ。何も思い出せない、感じられない、目以外動かない、動かせない。暑い熱い厚い、寒い寒い寒い、変化があって、何一つ変わらない。分からない、解りたくない、知りたくない、死にたくない...。
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「待ってよ、ハルキ!」
そう言って後ろから一人の少女が追いかけて来る、記憶が曖昧から鮮明に変わり行く。僕は覚えている、彼女はアヤ、幼馴染の腐れ縁だ、ありふれた関係だ。
そんな事を考えて居ると言葉を発する暇も無くアヤは続けて言う。
「待ってって言ってるでしょ!今日は一緒に帰って来るようにおばさん達に言われたじゃない!」
「んっ、あぁ、そうだったっけか。忘れてた、すまん。」
そう軽く返した、だが何かが違う、足りない、忘れている、果たして...なんだ。思考を巡らせようとした時、ふと答えが飛んで来た。
「最近、この辺りで連続猟奇殺人事件ってのか起きてるらしいから、二人で帰って来いって今朝言われたでしょ?もう、昔からすっぐに物事忘れちゃうんだから!」
「そうだ、そうだったな。なんだっけか、[デスマスク事件]だっけか?今校内で結構噂になってるよな。なんでも顔の皮だけを剥いだ殺しなんだろ?」
デスマスク事件、今、俺が住んでいる矢間市で起きている連続猟奇殺人だ。被害者は報道されているだけで約50人にもなる歴史的大量連続殺人だ。なんでも遺体は必ず顔の皮を剥がれて殺されていて、この事からデスマスクと呼ばれている。
警察の発表によると犯人、凶器、犯行理由全てが不明で、被害者の関連性も薄いものだったり完全に無かったりする。この事件にまったくの規則性は無く、犯行ペースも疎らで、いつ、どこで、だれが、何人死ぬかもわからないと言う。
事件について脳内で振り返っていると、ふと静寂を破る「音」が響いた。
「ルキ...!ハルキ!ねぇちょっと大丈夫?」
「あっ、あぁ大丈夫だ。すまないアヤ、考え事をしててな。」
「もうしっかりしてよね。ほらっ!帰ろっ!」
その後は何事もなく、アヤと他愛も無い会話を交わし、そのまま家に帰宅した。
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「デスマスク...か。この事件が起きるまでは...平和なとこだったんだがな。」
独り、1人、ヒトリ。そうこの部屋にあるのは少しの雑貨と必要最低限の家具、そして静寂とハルキのみ。
その部屋に暖かみは無く、まるで生きる為だけの部屋と言わんばかりの殺風景である。
ハルキの両親はすでに他界しており、残されたのは多額の遺産と土地とこのただただ広い家だけである。家など食べて寝るだけの場所と考えるハルキには到底要らぬ大きさであった。
そして今日もまた静かに一つの命が一度目を瞑る、その静寂さとは裏腹に、今日もまたこの町のどこかで顔を失い途方に暮れ死にゆくものが居る。
続く...