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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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九十七話 湯煙の誘惑

「すっげえ……! たった一週間で、こんなの造っちゃったのか」


 脱衣所を出ると、そこには立派な露天風呂がこしらえられていた。

 魔法で造ったのか、はたまたどこかの岩場から持ち込んだのか。

 大岩に囲まれた湯殿は広く、間を詰めれば大人が十人は入れそうなほどである。

 

「さすが、公爵令嬢って感じだなぁ」


 この辺のスケールの大きさは、やはり貴族ならではだろう。

 俺も最近は人のことを言えないぐらいには金持ちだが、育ちが小市民である。

 屋敷にこんなものを作ろうなんて、さすがに思わない。


「あちッ! でも、いいかも……!」


 ほのかに白濁したお湯は、手で触るとかなり熱かった。

 しかし――なんだかとても気持ちがいい。

 手を沈めているだけで、そこから疲労が溶け出していくかのようである。

 これは、効能にもなかなか期待が持てそうだ。


「ふう、ふう……」


 熱さを我慢しながら、身体を湯に沈めていく。

 こうして肩までお湯につかってしまうと、びっくりするほど心地がよい。

 全身の筋肉が緩んで、ふーっと声が漏れた。

 お湯によって、全身の凝りをほぐされていくかのようだ。

 冒険者の中にも、好んで湯治に出かけるものは多かったが……気持ちがわかった気がする。

 これは、確かにいいものだ。


「ふはー、毎日入りたくなるなぁ。ほんと、この屋敷にしてよかった……ん?」


 風呂を満喫していると、水音に混じって声が聞こえた。

 これは……隣の女湯からか?

 俺は思わず、動きを止めて耳を澄ませる。


「へえ……テスラ、ずいぶん大人っぽいの着けてるのね」

「これぐらい普通」

「ツバキは……ほほう、赤とはなかなかのチョイスだわ」

「こら、人の着替えをジロジロと見るんじゃない。やりにくいだろう」


 うお、これは……!

 男にはなかなか刺激が強い話題だな!

 着替えをするテスラさんたちの姿が思い浮かんで、顔が真っ赤になる。

 ほんとは、こういうのあんまり聞かない方がいいんだろうな……。

 でも、ちょっと気になってしまう。


「システィーナは、おお……!」

「……何ですの、その顔は。中年の殿方みたいですわよ?」

「凄い大胆だなーって。そもそも、身体自体がとんでもないわね」

「日頃の節制の賜物ですわ。私、こうみえても夜更かしとか一切しませんもの」

「節制ねえ。むしろ、わがままいっぱいって感じだけど」

「そんなことありませんわ。身体つきを見ていろいろ言われる方は多いですけども、健康にはあれこれ――」


 システィーナさんによる健康講座が始まった。

 節制していると公言するだけあって、そのこだわりはなかなか大したものである。

 根菜類をしっかり食べること、夜九時以降はものを食べないことだの、豆知識が出るわ出るわ。

 しかし、聞きたいのはもう少し色気のある話題である。

 俺は自然と耳を澄ませると、ゆっくり塀の方に近づいていく。


「――とまあ、大事なのですわ」

「なるほどねえ……」

「シェイル様も、これらを守ればもう少し発育すると思いましてよ?」

「余計なお世話よ!」

「そうでしょうか? ラース様は、おっきいのがお好きですわよ」

「ぶッ!?」


 システィーナさんの言葉に、シェイルさんが噴き出した。

 それにつられて、俺まで咳き込みそうになる。

 いきなりこれは、さすがに爆弾発言すぎる。


「ラースが何で出てくるのよ!」

「あら、お好きじゃありませんの?」

「ありませんのって……えっと、そりゃちょっとは意識するけど……」

「ラースは大切な仲間だが、うーん……」

「……言いづらい」


 なぜか、ツバキさんとテスラさんまで話題に加わった。

 三人は揃って、何やら答えづらそうに言葉を濁す。

 にわかに漂う沈黙。

 するとシスティーナさんが、笑いながら言う。


「皆さま、もう少しはっきりなさってはいかがですの? 素直になるのは大事でしてよ」

「そういうアンタはどうなのよ」

「……私も知りたい」

「そうだな、言い出しっぺなのだからはっきりと言ってくれ」

「では言わせてもらいます。私は、ラース様のことが好きですわ」


 な、なんと!?

 きっぱりと言い切ったシスティーナさんに、心臓がトクンと跳ねた。

 彼女からは、幾度となく好意を伝えられてはいる。

 だが、ここまではっきりと言われたのは初めてだ。

 しかも、声のトーンからして相当に真剣なようである。

 俺はますます塀へと近づくと、思いっきり耳を押し付ける。

 もはや、彼女たちの言葉を一言たりとも聞き逃すことなどできなかった。


「助けられたその日から、好意は持っていましたの。それが日増しに強くなっていって……」

「そんなような感じはしてたけど、そこまで決意が固くなってたとはねぇ」

「一直線」

「まだ、本人には内緒ですわよ? それに女としては、男らしく告白されたいじゃありませんの」


 そわそわと、ささやくような声で言うシスティーナさん。

 ううーん、これは……聞かなかったことにした方がいいよなぁ。

 どのように対処したらいいものか、頭の中が真っ白になってしまって浮かんでこない。

 システィーナさんのことは、俺としても嫌いではなかった。

 でもなあ、事が大きすぎるからもっとゆっくり考えるべきだよな。

 こんなとき、誰かに相談できたら――わッ!?


「やばッ!!」


 物思いにふけっていた俺は、うっかりとバランスを崩してしまった。

 そのまま塀へと突っ込み、そして――


「ちょっと!? どういうことよこれ!!」

「ラース様ァ!?」

「こ、こら!! 覗きとは何事だ!!」

「……変態?」

「違う、そうじゃない!!」


 厳めしい顔つきをする少女たち。

 女湯に飛び込んでしまった俺は、慌てて彼女たちに弁解するのであった――!

お読みいただき、ありがとうございました!

次回からはまた、新たなストーリーへと突入していきます!


ここで改めてお知らせですが、底辺戦士の書籍二巻が9月14日に発売となります。

こちら、WEB版のバラド公爵家編を大幅に加筆修正したものがメインです。

ラースたち四人はもちろんのこと、新ヒロインのシスティーナも大活躍します。

WEB読者の方にもお楽しみいただけると思いますので、ぜひぜひお買い求めください。

TSUTAYA様および三洋堂書店様にてお買い求めいただきますと、ついでに特典SSもつきます!


それでは、これからも底辺戦士をよろしくお願いいたします。

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