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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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九十六話 つかの間の休息

「帰ってきましたね、王都の我が家!」


 賢者様を救出して、はや数日。

 賢者様を家へと送り届けた俺たちは、その足で屋敷へと帰ってきた。

 久しぶりに見る家に、懐かしさすら覚える。


「どうにか戻ってこれたな……」

「ほんと、今回は大変だったわ。最後に気になること言われちゃったし」

「それより、まずは休息。疲労困憊」


 肩をポンポンと叩きながら、テスラさんが言う。

 確かに、戦いが続いたうえに旧都へ向かってからは野宿だったからな。

 それほど余裕のある状況ではないが、休みは必要だろう。

 俺も、身体のあちこちが筋肉痛だ。


「そうですね。少しぐらいは、のんびりしますか」

「それがいい。休むの大事」

「じゃあ、今晩はご馳走でも食べない? 任務達成祝いってことで!」

「いいじゃないか、賛成だ!」


 すっかり乗り気のツバキさんが、ポンと手をついて言う。

 酒飲みの性か、黙っていられなくなったようだ。

 ここはひとつ、システィーナさんに頼んで何か用意してもらおうかな。

 そんなことを考えながら、屋敷の呼び鈴を鳴らす。

 するとたちまち――


「あら、皆様!」


 扉を開けて出てきたシスティーナさんが、俺たちを見て驚いた顔をした。

 彼女はそのまま勢いよく庭を横切ると、門を開けて飛び出してくる。

 

「ホントに心配いたしましたわ! お怪我はなくて?」

「ええ、大丈夫です。みんな元気ですよ」

「よかったですわ! 帰りが遅かったので、何かあったのではないかと気が気ではありませんでしたの!」

「心配性ねえ。この私たちが、そうそう変なことにはならないわよ」


 やれやれと肩をすくめるシェイルさん。

 これでも、魔法ギルド所属のSランクパーティーだからなぁ。

 ま、最近は黒魔導師を相手にしてるせいか敵の強さを感じることが多いけども。


「もちろん、皆様の実力は知っておりますわ。でも、だからといって心配なものは心配ですもの」


 そう言うと、何故かシスティーナさんは俺の手を握った。

 柔らかな肢体が、そっと寄せられて腕が胸に埋まる。

 甘い香りに、たちまち頭がとろけそうになった。

 顔が赤くなり、心臓が跳ねる。


「シ、システィーナさん!? 近いですって!」

「これぐらい良いじゃありませんの。しばらく、一緒にいられなかったのですし」

「や、そういう問題ではなくて……」


 周囲を見渡すと、みんなの視線が少し冷たかった。

 特にシェイルさんは、俺の手を挟み込んだ膨らみを忌々しげに見ている。

 どうやら、システィーナさんの豊かな胸がよほど妬ましいらしい。


「あんた、ラースと会うといつもそうよね」

「寂しいんですもの。仕方ありませんわ」

「だからってねえ、仮にも公爵令嬢がそれはどうなのよ」

「問題ありませんわ。ラース様でしたら、お父様もお認めになります」


 ニカッと白い歯を見せるシスティーナさん。

 お父様もお認めになるって、いったい何を!?

 もしかして、交際とかそういう流れなのか……?

 俺がびっくりして目をぱちくりさせていると、ツバキさんが言う。


「まあまあ、それはひとまず置いておこう。それより、食事の準備を頼めるか?」

「……ええ、もちろんですわ。そろそろ戻られる頃だと思って、良い食材を取り揃えておりましたの」

「気が利く、さすが」

「いえいえ。家を預かる者の務めですわ」


 嬉しそうに答えるシスティーナさん。

 彼女に手招きされ、俺たち四人は屋敷に入ったのだった――。


――〇●〇――


「ふー! 最高!」

「美味しい! レッドドラゴンの尾なんて、よく手に入ったわね!」


 テーブルの上に鎮座する巨大な尾。

 赤い鱗に包まれたそれは、レッドドラゴンと呼ばれる竜種のものらしい。

 何でも、Sランク魔導師であるテスラさんたちでもあまり食べられないほどの貴重品だとか。

 鱗を剥がし、ナイフで肉を切り出して食べると確かに素晴らしい美味である。

 口の中で弾けるような肉質と上質な脂身が、たまらなさすぎる。


「私が少しコネを使えば、これぐらい簡単ですわ」

「さすが、見直したわ!」

「感謝する。家でこれだけの馳走が食べられるとは、夢にも思わなかったぞ!」

「どういたしまして。でも、本日のメインはこれではありませんのよ」

「ん?」


 思わせぶりなことを言うシスティーナさんに、俺たちは揃って顔を見合わせた。

 ドラゴンの尾がメインでないとは、いったいどういうことだろう?

 まさか、もっとすごいものを用意しているのか?

 ワクワクしながら言葉を交わしていると、システィーナさんが笑顔で言う。


「皆様がいない間に、この屋敷にある施設を用意しておきましたの。お食事が終わったら、ご案内しますわ」

「ある施設?」

「ええ。きっと気に入られますわ。特にツバキさんは、懐かしいと思いますわよ」

「ほう……それは期待したいところだな」


 ほうほうと興味深そうな顔をするツバキさん。

 彼女はドラゴン肉をフォークで刺すと、パクパクと口に運んでいく。

 それに続いて、テスラさんとシェイルさんもまた食事の手を速めた。

 三人とも、その細い身体のどこに食べ物が収まっていくのか不思議なくらいである。

 山ほど用意されていた料理が、あっという間に空になっていく。

 そして――


「ふう! お腹いっぱいだわ!」

「満足」

「さて、施設とやらへ案内してもらおうか」

「かしこまりましたわ。さ、こちらへどうぞ」


 サッと席を立つシスティーナさん。

 彼女の後に続いて、俺たちは部屋を出て廊下を進んでいく。

 やがて階段を降りると、一階の突き当りへと到着した。

 するとそこには、何やらひらひらとした布が掲げられている。

 それを見たツバキさんが、たちまち目を輝かせる。


「これは……まさか!」

「大浴場でございますわ。元はただのお風呂だったのですが……温泉が湧きまして」

「湧いたって、いったいなにしたんですか!?」


 普通にしていたら、そんなもの湧いてくるはずがない。

 俺たちが留守にしていた間に、システィーナさんは家で何をしていたのだろう?

 なんかヤバいことでもやっていたのか?

 すると彼女は、サッと俺から視線を逸らす。


「……ちょっとした魔法の練習ですわ。それよりほら、行きますわよ! 中に男湯もございますから」

「ちょっと、ちょっと!?」


 背中を押され、そのまま前へと進みだす俺。

 こうして、いつの間にか我が家にできていた浴場へと足を踏み入れるのだった――。

底辺戦士の二巻の表紙が、amazon様にて公開されました!

今回も、素晴らしいイラストとなっております!

ぜひぜひ、確認してみてください!

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