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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第九十五話 賢者様との再会

「やられたな……!」


 耳を抑え、苦しげな表情を見せるダークエルフ。

 姿を隠していた魔法も消え去り、褐色の肌が露わとなっていた。

 肩に流れる銀髪に、アメジストを思わせる瞳。

 エルフの系譜を引く種族だけあって、その容貌は驚くほどに整っている。


「さて、いろいろと話してもらおうか。変な気は起こすなよ、無駄な人斬りはしたくない」


 刀を首筋に突きつけ、ツバキさんが言う。

 するとダークエルフは、懐からナイフを取り出して捨てた。

 そして彼女は、観念したように言う。


「いいだろう、何もかも話す」

「ずいぶんと聞き分けがいいな」

「敗者は勝者に従う。古よりの習わしだ」


 暗殺者というよりは、戦士に近いような話し方である。

 卑劣な印象が強かった他の連中とは、少し毛色が違うな。


「では聞こう。まず、そなたの名前は?」

「ルカだ」

「そうか。ではルカ、賢者様はどこにいる?」


 ツバキさんが、やや声色を低くして尋ねる。

 するとルカは、両手を上げたままゆっくりと立ち上がった。

 そして行き先を示すように顎をしゃくる。


「こちらだ。ついてこい」


 ゆっくりと歩き出したルカの後を、それぞれに武器を構えたままついていく。

 やがて彼女は、観客席の下を抜けて闘技場の外へと出た。

 そのまま草むらへと分け入った彼女は、弓を手にすると地面を叩き始める。


「ここだ」

「入り口からは、だいぶ離れてますね」

「攻められたとき、こちらからすぐに逃げられるようにしてあった。お前たちの攻撃方法は予想外過ぎて、連絡路が絶たれてしまったがな」

「なるほど。安全なように、深く造ったのがあだになったんですね」


 恐らく、ここへつながる逃亡用の通路を地下のもっとも奥深いところに造っていたのだろう。

 敵が入り口から攻めてくることを考えれば、とても合理的な構造である。

 しかしながら、水は深いところから溜まっていく。

 結果として、避難用の通路が真っ先に水没して使い物にならなくなったようだ。


「出ていいぞ。我々の負けだ」


 分厚い鉄の扉を開くと、ルカはすぐに中にいるであろう賢者様へと呼びかけた。

 すると、驚いたことに複数人の叫び声が返ってくる。

 どうやら、賢者様以外にも捕えていた者は大勢いたらしい。


「さあ、こっちですよ!」

「さ、早く早く!」


 俺とシェイルさんが、先頭に立って手招きをする。

 すると地下から現れたのは、あろうことかアスフォートであった。

 賢者様の行方を捜すとは言っていたが、まさかこいつらまで捕まっていたとは。

 彼らは俺たちの顔を見ると、途端に渋い表情をする。

 

「……まさか、助けられることになるとはな!」

「こっちこそ、あっさり捕まってるとは思わなかったよ」

「ふん……! 一応、礼は言っておこう」


 相変わらず、気障な奴だなあ……。

 俺が少し呆れていると、テスラさんが言う。


「ちょうどいい。あっちの闘技場に、放置してきた敵がいるから捕縛お願い」

「はぁ? いま解放されたばかりの俺たちにかい?」

「絡む元気があるならいける」

「……わかった、やっておこう」


 有無を言わさぬ様子のテスラさんに、アスフォートたちは渋々従った。

 これで、あと処理についてもまあ問題ないな。

 いくら敵だったとはいえ、さすがに放置して死なれたりしても寝覚めが悪い。


「あとは賢者様だけだな。おーーい! いるのならば、返事をしてくださーーい!!」


 ツバキさんが思い切り声を張り上げる。

 すると地下の奥底から、聞き取れないほどに微かであるが返事があった。

 良かった、賢者様は無事だ!

 やがてカツカツと足音が聞こえてきて、賢者様が顔を出した。


「賢者様!! よくぞご無事で!」

「うむ、何とか生きておる。おぬしたち、よくやってくれたの!」


 笑顔で語りかけてくる賢者様。

 ふう、これで一安心だな。

 全身の力が抜けた俺は、やれやれと大きなため息をついた。


「これで一安心ですね」

「ええ。王都に戻って、お姫様に報告しなきゃね」

「しかし、最後はえらく簡単だったな。それだけ、ルカを信用していたということか……?」


 怪訝な顔をすると、ルカの方を見やるツバキさん。

 言われてみれば、最後の最後で何もなかったのは不思議だ。

 黒魔導師どもなら、あれこれ仕掛けていても不思議ではなかったのに。


「私は知らない。魔導師どもは一方的に命令してきただけだからな」

「ふむ……」


 髭をさすりながら、何やら考え込む賢者様。

 やがて彼は、俺たち四人を見渡して尋ねる。


「そう言えばそなたたち、わしが頼んだ依頼は達成できたかの?」

「もちろん。あれこれ大変でしたけど!」

「ほう? 何があったのじゃ?」

「魔物が空帝獣様にとりついてて、結局戦うことになりました。ね、ラース?」

「そうですね。あれだけ強力な魔物は初めてだったかもしれないです」


 魔に侵され、獄鳥と化した空帝獣。

 その恐ろしいまでの火力は、思い出しただけで冷や汗が流れた。

 何とか勝つことは出来たが、二度目があればわからない。

 それほどに強大な敵だった。


「ふむ、かの国まで黒魔導師どもの手が伸びていたか。奴らの動きもいよいよ本格化してきているな」

「空帝獣様も言っていましたね。災厄を復活させるつもりだと」

「なるほど。となるとわしの幽閉は……賢者会議に古代兵器を使わせぬためのものかもしれん」

「古代兵器……?」


 何とも物騒な単語に、声が震えた。

 テスラさんたちも初耳だったのか、ひどく驚いた顔をしている。


「そんなものが、あったのですか!?」

「うむ。一般には知られておらぬのじゃが……賢者会議は強大な古代兵器を保有しておる。いざというときの抑止力としてな。しかし、その発動には過半数の賢者の承認が必要なのじゃ。わしがいなくなれば、残る賢者は六人。三人を抑えておけば、古代兵器の発動を食い止められるというわけじゃの」

「敵はすでに、動き出しているということか……!」

「魔導師殺したちを使ったのも、自分たちは別の仕事に集中するためと考えれば……つじつまが合うわね」


 冷や汗をかきながら、シェイルさんが言う。

 もしそうだとすれば、水面下で何らかの計画が進んでいるということになる。

 いよいよ、東の地に急いで旅立たねばならなさそうだ。


「とにかく、王都へ戻る。すべてはそれから」

「そうじゃの。わしも、こうなったからには賢者会議を招集して対策に当たろう」

「おお、それは心強い!」

「任せておけい。おいぼれにはおいぼれのやり方があることを、見せてくれるわ!」


 そう言うと、賢者様はカッカッカと高笑いをした。

 暗い雰囲気を吹き飛ばすような、何ともすがすがしい笑い方である。

 それにつられて、俺たちもまた笑みを浮かべる。


「こうなったら、負けてられないわ!」

「私たちも、頑張らなくてはな」

「よし! 王都に戻ったら、すぐに東へ出発しましょう! 黒魔導師どもの野望を、打ち砕いてやらなきゃ!!」


 こうして俺たちは、無事に事件を解決して王都への帰路に就くのであった――。


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