第九十四話 VSダークエルフ
あとがきにて、重要なお知らせがあります!
「なるほど、試してみる価値はありそうだな。しかし、よくそんなことを知っていたな?」
俺がダークエルフにだけ有効そうな攻撃方法を教えると、ツバキさんは少し呆れたような顔をした。
まあ、普通はそんなこと検証しようとはしないからな。
だいたい、エルフに会う機会自体がごく限られているし。
「やってみる価値はある」
「そうね、このままいてもらちが明かないし……」
土で作られたドームの中には、水も食料もない。
加えて、狭い中に四人でいるのでなかなかに蒸し暑かった。
あと小一時間もすれば、地獄のような状態になってしまいそうだ。
「だが、この方法で敵を倒すには距離が近くないと苦しいな。そこはどうする?」
「それにも、いい案があります。テスラさん、たしか土魔法で鎧って造れましたよね?」
「ええ。でも、敵の矢の威力は高い。鎧だと、関節部分を狙われておしまい」
ドームの代わりとして、鎧を使うと思ったのだろう。
テスラさんは、鎧の構造上の問題点を指摘した。
確かに、そのまま運用するのは少々心もとない。
それに鎧を着ただけでは、近づいてくる必要もないしな。
「動く鎧をいっぱい作ったら、どうです?」
「どういうこと?」
「まず、俺たち全員が同じ鎧を着ます。で、そのほかにも動く鎧をいっぱい作るんです。こうすれば、どれに中身が入っているのか見極めるために、近づいてきません?」
俺がそう言うと、ツバキさんたちは感心したようにふんふんとうなずいた。
後は、近づいてきたところを先ほど言った方法で攻撃すればいい。
「なるほどな。あとは、近づいてくるタイミングだけか」
「そこばっかりは。ですが、敵も焦ってると思いますよ。たぶん、すぐじゃないかと」
「そうね……そこの判断はツバキ、あんたに任せるわ」
「私が?」
怪訝な表情をするツバキさん。
するとシェイルさんは、軽く笑いながら言う。
「こういう時、勘が冴えるのはツバキだと思うわ。本当はラースがいいけど、魔法を使わなきゃいけないし」
「ツバキの野生の勘は、頼りになる」
「それはほめているのか? それとも、けなしているのか?」
「ほめてる」
あっけらかんと答えるテスラさんに、ツバキさんは疑いをあらわにした。
こんなところで喧嘩されてもな。
すぐさま俺が、二人の間に割って入る。
「まあまあ、揉めないで。ツバキさんは、魔導師であると同時に武芸者でもありますからね。他と比べて勘が鋭いのは、当然だと思いますよ!」
「ふん、それはそうだな。武芸者たるもの、いざというときは己の直感に頼るほかないからな」
腰に手を当てて、誇らしげな顔をするツバキさん。
それを見ていたシェイルさんとテスラさんは、やれやれと両手を上げた。
あとはテスラさんの造形技術と、ツバキさんの直感を信じるのみだ。
「では、みんな両手を広げて立つ」
「ああ」
「足も肩幅に。鎧がくっついちゃう」
テスラさんに言われるがまま、手足を広げて大の字を作る。
たちまち地面がせり上がり、俺たち三人の身体を包み込んだ。
三者三様の形をした全身甲冑が、瞬く間に出来上がる。
「あえて、形はすべて違うものにした。動ける?」
「ばっちりです! 意外と軽いですね!」
「作戦失敗時は、これを着たまま戦うことになる。クオリティは妥協してない」
「さすがね、大したもんだわ」
「私の分とダミーを作る、少し待つ」
魔力の光が走り、再び地面が隆起した。
そこかしこで土の柱が立ち上がり、全身甲冑へと整形されていく。
全てデザインが異なるそれは、いずれも見事な出来栄えだった。
これなら、どれに人が入っているのかすぐには分からないだろう。
「よし、これで準備は出来ましたね!」
「じゃあドームを壊す。みんな、動かないように注意」
緊張をはらんだ言葉に、俺たちは一斉にうなずいた。
さあ、いよいよ勝負だ!
テスラさんが手をサッと振り下ろすと、たちまちドームが割れていく。
いったい、どこから攻めてくるか。
全身甲冑で守られているとはいえ、緊迫感が漂う。
するとここで――
「これは……目の前だ、敵はもう既に目の前にいる!!」
ツバキさんの言葉と同時に、ダミーの一体が倒された。
続けざまに、隣にいたダミーまで吹っ飛ばされる。
正確無比な一撃。
二体とも、首の付け根のわずかな隙間を狙われていた。
「くッ!」
ツバキさんが刀を抜き放ち、敵の攻撃を受けた。
舞い散る火花、響き渡る剣戟の音。
そして――
「今だ、今しかない!」
「はいッ!!」
懸命に叫ぶツバキさんに合わせて、すぐさま俺は音の魔法を行使した。
闘技場全体に、爆音が轟き渡る。
と言ってもそれは、人間には聞こえない高い音。
よって、俺たち四人には何の影響もない。
だが敵に対しては、予想以上の効果があった。
「ぬわッ!? なんだこれは! うおおッ、痛い、耳が痛いッ!!」
どこからか聞こえる絶叫。
やはり、ダークエルフもエルフと同じ特徴を持っていたらしい。
耳が人間よりも発達しているため、俺たちが聞き取れない音まで聞こえてしまうのだ。
――耳が長いエルフは、やっぱり人間よりも耳がいいんだろうか?
そんな他愛もない疑問から行ったくだらない実験が、今頃になって成果を生むとは。
いやはや何が起こるか分からんもんである。
「おのれ、小賢しいことを……!」
やがて、ツバキさんの目の前にぼんやりと人影が浮かび上がってきた。
姿を消していた魔法か何かの効果が、集中が途切れたことで消えかけているようだ。
すかさず全員で取り囲み、杖と刀を突き付ける。
「終わりだ。おとなしくしろ」
「……もはやこれまでか」
武器を捨て、膝をつくダークエルフ。
こうして戦いは、俺たちの勝利に終わったのだった――!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
この『底辺戦士、チート魔導師に転職する!』ですが、めでたく第二巻の発売が決定いたしました!
既にamazon様などでは予約も始まっておりますので、ぜひぜひよろしくお願いします。