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第九十三話 見えざる敵

「どこにいる……?」


 周囲に視線を走らせる。

 しかし、目に映るのは広々とした地面と白い霧だけ。

 かなり近くに敵がいるはずなのに、まったく気配を感じ取ることが出来ない。

 

「キュウ、キュキュウ!」

「え? 脱出するときにも、見られてたかも?」

「なるほど。こっそり見ていたから、あれこれと準備が良かったわけか」


 歯噛みするツバキさん。

 どうりで、俺たちの行動が事前に読まれていたわけである。

 姿を消した何者かが、俺たちの元へと飛び立つクルルの姿を見ていたのだろう。


「危ない!!」


 いきなり、テスラさんが声を上げた。

 彼女の指した先を見れば、矢が頭上から迫っていた。

 嘘だろ、そんな馬鹿な!

 予想外の場所からの攻撃に、皆の反応が遅れる。

 こうなったら、仕方がないな!

 俺は大きく手を広げ、三人の身体を無理やりに押し倒した。


「ふう……!」

「大胆」


 どうにか矢をかわしたところで、吐息が漏れる。

 するとテスラさんが、真顔でつぶやいた。

 思わぬ一言に、心臓がトンっと跳ね上がる。


「え? いや、そういうわけじゃ!?」

「からかっただけ」

「やめてくださいよ……」

「それより、走るぞ! またあれが来てはたまらん!」

「待って。それなら――」


 杖で地面を叩くテスラさん。

 たちまち光がほとばしり、土が隆起した。

 それらはたちまち、俺たちを取り囲む半球状のドームとなる。


「これで安心」

「そうだけど、これじゃ私たちも攻撃できないわよ?」


 壁をコンコンと叩きながら、シェイルさんが言う。

 これだけ壁が厚ければ、矢で貫かれるなどということはないだろう。

 しかし、こちらから敵に攻撃することもできないはずだ。

 するとテスラさんは、冷静な口調で言う。


「やみくもに反撃するより、今は考える時間が必要。焦っては、敵の思うつぼ」

「……ええ、そうね」

「そうだな。長期戦を覚悟した方がいいか」


 うなずくツバキさん。

 ここでシェイルさんが、懐から折れた矢を取り出した。

 先ほど俺が叩き落としたものを、拾っていたらしい。


「これ、参考になると思うわ」

「さすがシェイルさん! 拾っておくなんて、抜け目ないですね!」

「ま、当然よ!」


 腰に手を当て、大きく胸を張るシェイルさん。

 俺たちはさっそく、彼女から矢を受け取ると子細に見分を始めた。


「この光り方、恐らくテクタカイト」

「何ですか、それ?」

「大陸東部で産出される鉱石。すごく重くて、硬い。矢じりには最適」

「へえ、初めて聞きました」

「とても貴重。私も初めて見る」


 興味深そうに目を細めるテスラさん。

 続いて、矢を持ったツバキさんが気づく。


「む、この矢……バランスが悪いな」

「そりゃ、折れてるからじゃないですか」

「そうじゃない。矢じりの比重が、わずかに傾いてるんだ。これは、恐らく意図的なものだろうな」

「そんなの、何のために? 飛びにくいじゃない」

「曲射をするためだろう。聞いたことがある」


 そう言うと、ツバキさんはひょいッとダーツのように矢を投げた。

 するとまっすぐに投げられたかのように見えた矢は、面白いほどに曲がった軌道を描く。

 これが、あのへんな軌道の秘密か!

 どうりで、矢を真上から落とすとかできたはずである。


「大した細工だわ。見た目じゃほとんどわからなかった」

「だが、これを使いこなすには相当の熟練が必要なはずだ。というよりも、一代でこれを使いこなす技法を編み出すのは不可能だろう。恐らくは何代かに渡って継承されてきた技法だろうな」


 ツバキさんがそう言うと、シェイルさんが何やら考え込み始めた。

 どうやら、敵の正体について思い当たる節があるようである。

 俺たち全員の注目が、彼女に集まる。


「テスラ。テクタカイトの産出される場所って、大陸東部なのよね?」

「ええ」

「それって、ダドール谷のあるあたり?」

「そうよ」

「やっぱり。もしかしたらだけど、敵は……ダークエルフかもしれないわ」


 予想していなかった言葉に、俺たちは動揺した。

 ――ダークエルフ。

 優れた弓の使い手で、どんな獲物でも決して逃さないとされる暗殺種族である。

 しかし、その存在は半ば伝説。

 本の中でしか見たことも聞いたこともないような存在だ。

 

「うーん、さすがにどうなんだろうか?」

「でも、あり得るかもしれませんよ。普通のエルフはいたんですし」

「仮に敵がダークエルフだとすると、かなり厄介だぞ。奴らの弓は、三里先から蟻を射抜くと言われているからな」

「まあ、それぐらいじゃないとあんな打ち方は出来ないかもね」


 先ほどのことを思い出しながら、シェイルさんがつぶやく。

 確かにあの異常な軌跡は、通常の使い手ではまず無理だろう。

 伝説の暗殺種族とか言われた方が、納得できるぐらいかもしれない。


「こうなったら、根競べでもするか? このドームの中にこもっていれば、奴らは手出しできない。かといって、我々を放置するわけにもいくまい」

「……しばらくすれば、接近してくる可能性は高い。でも、どうやって反撃する?」

「というか、近づいてきてもわかんないかもしれないわよ。姿が見えないんだし」

「そうだな。せめて、どうして姿が見えないのか分かればいいのだが……」


 姿が見えないことには、こちらから攻撃のしようがない。

 かといって、あれだけの曲射の使い手だ。

 矢が飛んできた方向から居場所を特定する――なんてことも不可能だ。

 無差別に破壊すればそれでも何とかなるかもしれないが、賢者様のことがある。

 もし相手が賢者様を連れていた場合、巻き添えにしてしまう恐れがあった。


「なにか、ダークエルフだけのダメージを与える範囲攻撃でもあればいいんだけどねえ」

「そのような都合のいい方法、あるわけなかろう」

「……いや、ちょっと待ってください! あるかもしれませんよ!」


 そう言うと俺は、ポンと手を叩くのだった――。


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[気になる点] 主人公って基本的に魔力が多いだけですよね?それなのに1度も負けないし負けそうになっても運でどうにかなるばかりでつまらないです。 結局は似通った事が繰り返されてるだけなのでこれといって特…
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