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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第八十七話 楽しい楽しい……

「力任せの魔導師が、ちょこざいな……」


 忌々しげにつぶやく黒装束の男。

 その手には、これまた闇に溶け込むような黒塗りのナイフが握られていた。

 一瞬でも目を離せば、男はたちまちこれで俺たちの喉を掻き切ることだろう。

 

「動くなよ」


 ツバキさんが、腰の刀を抜いた。

 彼女はそれを低く構えると、ゆっくり男との距離を詰める。

 張り詰める空気、漂う緊迫感。

 草を踏みしめるツバキさんの足音だけが、粛々と響く。


「ナイフを捨てろ」

「……できんな」

「私は甘くないぞ。必要とあれば、首を斬る」


 刀の切っ先が、男の首へと迫った。

 冴え冴えと光る刃は、軽く触れただけでも血肉を裂き、紅い雨を降らせることだろう。

 さらにツバキさんの顔つきは険しく、その目には一点の迷いもなかった。

 

「仕方あるまい」


 舌打ちをすると、男はナイフを手放した。

 ――これで一安心だな。

 安堵感から、その場の空気がほんのわずかにだが緩んだ。

 しかし次の瞬間、男のつま先がナイフを跳ね上げる。

 曲芸のような早業。

 再びナイフを掴んだ男は、そのままツバキさんへと斬りかかった。


「ふんッ!」

「甘いッ!」


 しかし、ツバキさんはそれで倒せるほど甘い相手ではなかった。

 彼女は刃を切り上げると、一撃でナイフを弾き飛ばしてしまう。

 男はなおも諦めず腰に携帯した武器を取り出したが、返す刀でそれすらも叩き落としてしまった。

 圧倒的な力量の差。

 後ずさった男は、たまらず歯ぎしりをする。


「暗殺者など、正面切って戦えば敵ではない」

「ちっ、戦闘力では叶わぬか……」

「私たちもいるわよ。無駄な抵抗はやめなさい!」

「潔くする」


 ツバキさんに続けて、シェイルさんたちが畳みかける。

 いよいよ追い詰められた男は、仕方ないとばかりに両手を上げた。

 すかさずテスラさんが、その身体を岩で固定してしまう。

 さらに念のため、シェイルさんが岩の表面に魔法文字を刻んで強化した。

 これで、ちょっとやそっとのことでは破壊できないはずだ。


「今度こそ大丈夫ね」

「鼠一匹に、御大層なことだ」

「鼠なんてかわいいもんじゃないだろう。狼だな」

「……好きに言え」

「じゃあ聞かせてもらうわ。あんた、どこの組織の人間?」


 いきなり、核心を突いた質問をするシェイルさん。

 すると男は、吐き捨てるように嘲笑う。


「ハッ! 言うわけなかろう」

「ま、そりゃそうよね。仲間の情報を売れるわけないか」

「当たり前だ」


 男がそう言うと、シェイルさんはしてやったりという顔をした。

 彼女は男の額に人差し指を押し当てると、迫力のある笑みを浮かべて言う。


「ありがと。今ので、あんたは仲間がいるってことがはっきりしたわ。つまり、単独犯ではないってことね」

「むっ!?」

「あっけない。大したことなさそう」

 

 続けて、テスラさんが煽る。

 彼女の何の感慨もなさそうな無表情ぶりは、逆に男のプライドを傷つけたようであった。

 呼吸音が、わずかながらに大きくなる。

 精神を落ち着かせようと、無意識のうちに深呼吸をしているらしい。


「まあまあ。こうしたからには、いくらでも時間はありますし。じっくりやればいいですよ」

「そう。たっぷりできる」

「相変わらず、怖いこと言うわねー」

「武士としては、あまりそういうのは好きではないのだがな……」


 そう言うと、ツバキさんはやれやれと肩をすくめた。

 彼女は見ていられないとばかりに、俺たちから少し距離を取る。

 たちまち、男の顔に緊張が走った。

 細い顎を伝って、汗が次々と滴り落ちる。


「さーて、どうする?」

「爪を剥がすのは基本」

「死なない程度に斬っていくってのもありですね」

「悪くない」

 

 懐からナイフを取り出すテスラさん。

 彼女はそれを、ひょいひょいッと手で弄んだ。

 魔法のぼんやりとした灯りのもとで、青光りする刃が踊る。

 慣れていないのか、少しばかり動作がぎこちないのが逆に恐ろしく見えた。

 

「斬りすぎには気をつけなさいよ、あんた不器用なんだから」

「平気、殺しはしない」


 ためらいなく差し出されたナイフ。

 その切っ先が、男の装束を切り裂いた。

 たちまち、耐えかねた男が吠えるように叫ぶ。


「……仲間はあと四人いる。だが、他の連中についてはほとんど知らない。お前たちを倒すために、金で集められただけだからな」

「よかった」

 

 テスラさんは一言つぶやくと、ナイフを下ろした。

 彼女は大きく息を吐くと、幾分か疲れた顔をする。

 それに合わせて、俺やシェイルさんもまたほっとした表情をした。

 もし男が口を割らなかったら、ホントに拷問しないといけなかったからな……。

 いくら相手が俺たちを暗殺しに来た相手とは言え、あまりやりたくはなかった。


「なるほどね。それで、あんたたちを雇ったのは誰?」

「さあな、素性を詮索しないのが業界のルールだ。ただ、金持ちだったのは間違いない。お前らそれぞれの首に、五億ルーツの懸賞金をかけていたからな」

「五億……四人で二十億か!」


 予想していたよりも、ずっと大きな金額だった。

 敵がいよいよ本気を出して、俺たちを亡き者にしようとしていたのがわかる。

 

「私たちも、なかなか高く評価されてるみたいね」

「これほど次につながらない評価もないだろうがな」

「言えてるわね。全くうれしくない」

「それより、賢者様のこと。知ってる?」


 テスラさんが尋ねると、男は黙って首を横に振った。

 どうやら本当に何も知らないようで、男は意外そうな目でこちらをのぞき込んでくる。

 俺たちと賢者様の関係性を、彼の方こそ知りたいぐらいのようだ。

 

「黒魔導師のやつら、重要なことは何一つ知らせてないみたいだわ」

「当然と言えば当然だな。金で雇った暗殺者を、それほど信用できんだろう」

「だけど、私たちとしては困る」


 渋い顔をするテスラさん。

 結局、何の情報も得られなかったってことだからなぁ……。

 敵を一人倒すことが出来たとはいえ、あくまで使い捨ての駒。

 いざとなれば、いくらでも補充が効くはずの存在である。

 

「さあ、俺は話せることは話したぞ。どうする?」

「……そう言われても、どうします?」

「このまま返すわけにもいかないし、かといって町まで連れて行くのもね」

「放置?」

「それはまずかろう。さすがにな」


 腕組みをすると、やれやれとため息をつくツバキさん。

 両手と両足をがっちりと岩で固定された男は、このままでは食事をとることすらできない。

 このまま放置すれば、餓死は確定的だ。


「……そうだ、こんなのはどうです?」

「なに、聞かせて?」

「興味深い」


 額を寄せてくる三人。

 俺は彼女たちに、すぐさま自分の考えたアイデアを伝えるのだった――。


作業に伴って、すっかり更新が遅くなりました!

今後はペースを上げていくので、よろしくお願いします!

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