表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/142

第八十三話 予感の姫

「ほうほう……。この目で見るとよーくわかる。君、すっごいね」


 俺の顔を覗き込んだ姫様は、感心したように何度もうなずいた。

 そのまなざしが身体を撫でるたびに、背筋がゾワリとする。

 彼女の紅い瞳は、何もかも見透かしてしまうようだった。

 

「魔眼?」

「そうだよ、なかなか珍しいでしょ」

「なかなかどころじゃない。私も、本物を見るのは初めて」


 テスラさんの声が、わずかながら大きくなった。

 トーンの上がった声色からは、彼女の驚きのほどがうかがえる。

 ――魔眼。

 それは先天的に強力な魔法を宿した瞳のことで、神の恩寵とも悪魔の呪いとも呼ばれる代物である。

 数は非常に少なく、俺は本で見るまで存在すら知らなかった。


「僕の目はその中でも変わっててね。魔力の質が見えたり、人の雰囲気が分かったりいろいろな能力があるんだけど……」


 姫様は、何やらもったいぶるように言葉を区切った。

 彼女はニヤッといたずらっぽい笑みを浮かべると、核心めいた口調で言う。


「未来が見えるんだよね」

「何だと……!」


 ツバキさんが、思わず呻く。

 俺もびっくりして、姫様の顔をのぞき込んでしったう。

 ――未来が見える。

 もし本当だとするならば、まったく恐ろしい能力だ。

 額に嫌な汗が浮く。


「ああ、そんなに恐れなくていいよ。たぶん、君たちが想像しているよりずっと弱い能力だから。断片的な情報を、たまーに感じるだけだよ。ちょっと精度の高い『予感』ってところ」

「そうだとしても、すごい能力ね……」

「僕からしてみれば、面倒でしかない力だよ。こんなところに住んでるのも、周りがうっとおしいからだし」


 そう言うと、姫様は両手を上げてやれやれとため息をついた。

 なるほど、確かにそんな力があれば周りが黙っちゃいないだろう。

 未来を知ることによってもたらされる利益は、計り知れないのだから。


「それで、どうして私たちを呼ばれたのですか? わざわざ魔眼について話したということは、恐らくそれに関係することだと思いますが」

「うむ、さすがに鋭いね。端的に言うと、今後起きる大きな『災い』に君たちが関係している。それを予感したからさ」

「……災いですか」


 物騒な言葉に、思わず唾を飲んだ。

 恐らくは、空帝獣様の言っていたことだろう。

 やはり俺たちは、災いと関係することを避けられない運命にあるらしい。

 

「つまり、災いを防ごうとする私たちにあの宝物庫の中身を与える……ってことなのね?」

「ところがどっこい、そうではないんだ」

「え?」

「僕の能力はあやふやなもんでね。関わると言っても、君たちがどういう形で関わるのか分からないんだ」


 そう言うと、姫様はにわかに目つきを鋭くした。

 彼女はそのまま、俺たちの身体を上から下まで値踏みするように見渡す。

 ……なるほど。

 俺たちが『災いを起こす側』ではないかと心配しているというわけか。


「ははは、安心してくださいよ。俺たちがそんなとんでもない奴らに見えます?」

「まあ、人は見かけによらないからね。それに君、力だけなら何でもできるぐらいだろう?」

「私たちを疑っている?」

「まさか。ただ、可能性があるというだけの話だよ」


 手を振って違うとアピールする姫様だったが、その目は全く笑っていなかった。

 悪と決めつけているわけではないが、信用しているわけでもないらしい。


「宝物庫の中身を授けるというのは嘘じゃあない。ただしその前に、君たちが善であることを証明してほしいんだ」

「どうすればいいんですか?」

「簡単なことだよ。賢者様が嘘を判定する便利な魔法を発明されてね。これからおいでいただいて、君たちにそれをかける手はずになってる」


 姫様の言葉に、俺たちは顔を見合わせた。

 賢者様と言えば、現在行方不明のはずである。


「どうしたんだい、青い顔して。自信がないのかい?」

「そうじゃなくて。賢者様は今、行方知れずなのよ」

「……何だって?」


 姫様の顔が、にわかに引きつった。

 彼女はメイドさんの方へと目をやると、焦ったように早口で言う。


「おい、お前は確かに賢者様と約束したのだよな?」

「はい。今日おいでいただくということで、お願いいたしました。間違いございません」

「ううむ……」


 姫様は顎に手を押し当てると、深刻な顔をして唸り始めた。

 その様子を見ていたメイドさんも、額に汗を浮かべる。

 彼女たちにとっても、賢者様がいなくなってしまったのは完全に想定外だったらしい。


「こりゃ参ったね、僕の予感にもなかったことだ」

「いかがいたしましょう? なかったことにして、お返ししますか?」

「そういうわけにもね。ここを見せちゃった以上、何もしないわけにもいかないよ」

「では、どうするのです?」


 メイドさんが聞き返すと、姫様はパチンッと指をはじいた。

 何かを思いついたらしい彼女は、俺たちの方を見て得意げな顔で言う。


「ちょうどいい、君たちで賢者様を捜してくれないか? 連れてこられたら、その時点で合格として宝物庫の中身を授けよう」

「なるほど、一石二鳥」

「しかし、捜すと言っても。この広い王国で、いなくなった一人の人間を見つけるのは容易ではないですぞ」

「安心したまえ、良いものがある」


 姫様は懐に手を伸ばすと、銀色の小さなロケットのようなものを取り出した。

 彼女は円筒形の形をしたそれを、ひょいっと俺たちの方に投げてよこす。

 ふたを開けてみれば、中には青色をした小さな魔石が入っていた。


「その魔石には、魔力を感じやすくする働きがあってね。それをもって魔力探知を使えば、賢者様ならきっと見つけられるだろう」

「ありがとうございます! ではさっそくやってみます!」

「あ、ちょっと待ちたまえ。この場所は封印がなされていて効果は不十分――」


 姫様が止めるよりも先に、俺は魔力探知を発動した。

 その瞬間、手にしていた魔石がにわかに強い輝きを発して――


「おわッ!?」


 おびただしい数の魔力反応が、視界を埋め尽くすのだった。


いつもお世話になっております、キミマロです。

『底辺戦士、チート魔導師に転職する!』ですが、いよいよ明日が発売日です!

書籍版には綺麗な挿絵はもちろんのこと、WEB版とは異なる書下ろし部分もたくさんあります!

書店などで見かけましたら、ぜひよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] よくここに来れたとか言っておきながら、この場で会う前提だったみたいに話が進んでるのはなぜ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ