表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/142

第八十一話 古代のからくり

「やっぱり、近くで見ると半端じゃないですね!」


 城門の前までやってきた俺は、その大きさに圧倒された。

 巨人がこしらえたかのようなそれは、ドラゴンの突進ですら軽く受け止めそうである。

 その奥に聳える城もまた大きく、白亜の外壁が蒼穹を優美に切り取っていた。

 公爵家の城よりもその姿は幾分か女性的で、華やかな印象がある。


「ラースは、城に来るのは初めてなの?」

「ええ。いつも見てましたけど、こんなに近くに来るのは初めてで。普通は用なんてありませんからね」

「私も、ここまで来たのは初めてだな」


 物珍しそうな様子で、あちこち見渡すツバキさん。

 そう言えば、公爵様の城に入った時もそれとなく周囲を見渡していたような気がする。

 てっきり、辺りを警戒していたのだと思っていたが……。

 単に、珍しかったのかもしれないな。


「そこの者たち、とまれ!」


 俺たちがキョロキョロとしていると、すぐに衛兵が声をかけてきた。

 えっと、システィーナ様から受け取った招待状はっと……。

 懐を漁ると、王家の印が押された書状を取り出す。


「おお! これは失礼した!」

「姫様の場所まで、案内してほしい」

「少し待ってくれ。すぐに、担当のメイドを呼ぼう」


 衛兵の一人が、通用口から城の中へと入っていった。

 彼を待つ間に、他の衛兵たちが何やら長い棒のようなものを手に近づいてくる。

 先端が丸くなったそれは、見たところ武器ではないようだが用途が不明だ。

 とっさに身構えてしまう。


「ああ、大丈夫だ。怪しいものを持ち込んでいないか、こいつで検査をするだけだよ」

「何なんですか、それ?」

「簡単な検知器さ。鉄に反応するんだ」


 衛兵の言葉に、シェイルさんが怪訝な顔をした。

 彼女は衛兵たちが手にした検知器、正確にはその先端の球体部分を睨む。

 細かな魔法文字の刻まれたそれは、なるほど、付与魔法の使い手である彼女の気を引くかもしれない。

 しかし、険しい顔つきはそれだけには見えなかった。


「よし、大丈夫だ!」

「ありがとうございます」

「お、ちょうど戻ってきたな! こっちだ!」


 衛兵の手招きに従って、門の中から一人の少女が歩み出てくる。

 メイド服に身を包んだ彼女は、束ねた銀髪を揺らしながら優雅に礼をした。

 深い青をたたえた双眸が、たちまち俺たちを射抜く。

 冷たさを感じさせるそれは、どこか厳しいものをはらんでいた。

 言葉には出さないが、俺たちを明らかに警戒している。


「私に続いてきてください。ご案内いたします」


 サッと手を上げる少女。

 彼女に続いて、俺たちは城の中へと足を踏み入れた。

 さすがは、大国と言われる国の王城だ。

 外とはまるで別世界のような、贅を凝らした空間が広がっている。

 天井から吊り下げられた巨大なシャンデリアなど、あれだけで家が一軒建つぐらいするに違いない。


「ちょっといい?」


 おっかなびっくり城の中を歩いていると、シェイルさんが近づいてきた。

 彼女は俺たち三人を集めると、少女に聞き取られないように小声で言う。


「さっきの検知器、あれは鉄を探知するものじゃないわ」

「え?」

「あれはおそらく、瘴気を検知するものよ。球体の表面に書いてあった術式、見たことあるわ」


 瘴気を検知する装置なんて、かなり特殊なもののはずだ。

 わざわざそんなものを使うなんて、ずいぶんな厳戒態勢である。

 思えば、衛兵の数も結構多かった。

 単に正門だから手厚く守っているだけかと思っていたが、これは何かありそうである。


「なんでそんなものが。それに、俺たちにどうして嘘をついたんでしょう?」

「わからないわ。外部に知られたくない理由でもあるのかも」

「いずれにしても、あまりいい話ではないな」


 鼻を鳴らすツバキさん。

 信用していないとはっきり言われたようなものである、気分も悪かろう。


「こちらです。姫様の部屋は、あちらの塔にございますので」

「あの塔か?」

「はい」

「……ずいぶんと高いのだな」


 少女が手で示したのは、城にいくつかある塔の中でもひときわ高い尖塔であった。

 その高さときたら、頂上が雲に引っかかりそうなほどである。

 てっきり、物見か何かに使うんだと思っていたが……あそこに姫がいるのか。

 高いところが好きなのか、はたまたもの好きなのか。

 いずれにしろ、一癖ありそうな雰囲気である。


「塔への入り口はこの廊下と直結しております。ご安心ください、中には浮遊床がございますので」

「浮遊床?」

「空飛ぶ床でございます。魔法ギルド本部をイメージしていただければ、わかりやすいかと」

「なるほど」


 あの建物も、空に浮いていたからな。

 あんな感じで、床がふわーッと浮いて移動できるんだろう。

 何とも便利そうな代物だ。


「この城はもともと、古代魔法文明時代に建てられたものを増築しています。あの塔は、その時代の名残なのです」

「それで、そんなものがあるわけね」

「見た目は窮屈そうに見えますが、内部はあれで快適なのです。さあ、参りましょうか」


 少女の案内に従って、城の廊下を抜けて塔の内部へと差し掛かる。

 すると驚いたことに階段がなく、上から下までほぼ完全な吹き抜けとなっていた。

 床には三つの巨大な魔法陣が刻まれていて、それぞれに怪しげな光を放っている。

 魔法陣の中央には綺麗にくりぬいたような跡があり、どうやらこの部分が飛ぶようだ。

 

「これに乗ってください」

「これが浮くの?」

「はい、上まで行くにはこれしかありません」

「不安定」


 そう言うと、テスラさんが渋い顔をした。

 確かに、この床で上まで移動するのは少し怖いかもな……。

 手すりみたいなものもないし、地震でも来たら落っこちてしまいそうだ。

 すると少女は、かすかに笑みを浮かべて言う。


「大丈夫です。目には見えませんが、壁がありますので。落ちたりはしません」

「ならいい」

「じゃあ、お願いします」


 少女に続いて、魔法陣の中へと足を踏み入れる俺たち。

 すると、かすかにだが抵抗があった。

 電気の壁……とでも言えばいいのだろうか?

 身体の表面を、ピリピリとした感触が駆け抜けていく。


「……どうかなされましたか?」

「なんかちょっと、変な感触があって」

「おかしいですね。そのようなこと、訴えられる方は初めてなのですが」

「まあ、ちょっと俺の調子が悪いだけかもしれません」

「では、改めて参りましょう」


 そう言うと、少女は床をタンタンと足で叩いた。

 すると――


「へッ!?」


 まっすぐ上へと向かうはずの床が、何故か下へと潜り始めたのだった――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ