表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/142

第七十七話 命名と救世主

「真宝樹でそのようなことが……」


 真宝樹からの帰還後、王城の玉座の間にて。

 オルドスさんから報告を受けた女王様は、言葉を失って石化した。

 知ってしまった事態の重大さに、すぐさま考えが浮かんでこないようである。

 しかし、さすがは一国の女王というべきか。

 ものの十秒ほどで、どうにか平静を取り繕う。


「空帝獣様のおっしゃられたことに、嘘はないでしょう。しかし、我々にはこの国を守る使命があります。離れるわけには参りません。歯がゆいですが、あなた方を見守ることしかできないでしょう」


 そう言うと、女王様は真剣な眼差しでこちらを見た。

 位置の都合で見下ろす格好となっているが、その目はこちらにすがってくるかのようである。

 瞳の奥に、熱い心情が見え隠れした。

 女王としてしっかりと仮面をかぶってはいるが、内心、相当に不安なようである。


「代わりと言っては何ですが、わが国の財貨の一部を授けましょう。宝物庫より、魔琥珀をここへ」

「はっ!」


 広間の端に控えていた近衛たちが、すかさず敬礼をした。

 彼らは通用口から外へ出ると、すぐに大きな宝箱を担いでくる。

 端を金具で補強されたそれは、相当に年季が入っていた。

 あちこち錆が浮いていて、数百年単位で歳月を経ていそうである。

 だが決しておんぼろというわけではなく、どっしりとした高級感があった。


「さあ、蓋を開いてごらんなさい」

「ありがとうございます。では……」


 ずっしりと重い蓋を開くと、中身のほとんどはクッションで占められていた。

 その柔らかなビロードの中心に、綺麗な円形をした琥珀が置かれている。

 拳大ほどもあるそれは、炎を閉じ込めたかのように淡く輝いている。


「おお……! これはすごいな……!」

「何か、巨大な力の塊」

「これは真宝樹の内部でつくられた琥珀です。お分かりかと思いますが、莫大な生命力と魔力を内包しています。きっと、何かのお役に立つことでしょう」

「こんなの、頂いて良いんですか? 相当貴重なものですよね」

「我が国の国宝です」

「いッ!?」


 女王様の言葉に、思わずたじろいでしまう。

 国宝って、そんなの貰っちゃって大丈夫なのか?

 後で返してくれとか、言われないよなあ……。


「これぐらい渡さねば、我が国としても示しがつきません。あなた方は、文字通りこの国を救った恩人なのですから」

「は、はあ……」

「本来ならば、我が国も人手を割くべきところを物で賄おうというのです。むしろ、これでは足りないぐらいでしょう」


 女王様がそう言うと、彼女の脇に控えていたオルドスさんが申し訳なさそうな顔をした。

 王家に忠誠を捧げた身としては、この国を離れるわけにもいかないのだろう。


「すまない。手を貸したいところではあるが、私も国を離れられん身なのだ。空帝獣様が戻られたとはいえ、まだまだ魔物も多いからな」

「オルドスさんは、王女様を守るのが一番だものね」


 シェイルさんが、少しからかうように言った。

 たちまち、オルドスさんとオティーリエ様はそろって顔を赤らめる。

 もしかして、オルドスさんの忠誠の理由って……。

 オティーリエ様のことが好きだったからだろうか?


「わ、私の役目は王家を守護すること! 姫様をお守りすることも使命だが、それだけではない!」

「いずれにしても、ついては来られないということだな」

「私たちでやるしかない」

「そうね。頑張らなくっちゃ!」


 少々余計なことを言ってしまったものの、改めて気合いを入れなおす俺たち。

 それを見たオルドスさんは、すかさず深々と頭を下げた。

 彼に合わせて、他の騎士たちも膝を折る。

 一連の動きは、あらかじめ訓練でもしていたかのようにスムーズだ。


「……ここまで仰々しくされると、ちょっと照れくさくなりますね」

「それだけ、期待が大きいということ」

「それを裏切らぬよう、精進せねばな」


 神妙な面持ちをするツバキさん。

 ここで、女王様が何か思い出したように言う。


「ところで、そちらの眷属様への名づけは終えられたのですか?」

「ああ、いえ。まだです」

「では、この場でなさると良いでしょう。空帝獣様の眷属といえば、我らにとって神も同然。その御名を、国民たちにも広く知らせねばなりませんので」

「は、はあ……」


 俺は改めて、自分の隣で座っているひよこを見やった。

 絨毯の真ん中で堂々と腰を下ろすその姿は、なるほど、神獣の眷属なだけのことはある。

 態度の大きさが、並ではなかった。

 まさか、こいつへの名づけがこんな大ごとになるとは……。

 広間に集まっている者たち全員の視線を感じながら、頭をひねる。


「そうだな……。クルルってのはどうだろう? よく、喉を鳴らしてそんな声出してるから」

「それ、ちょっと適当じゃない?」

「鳥の名前って、そんなもんじゃないか?」


 口をとがらせるシェイルさんに、少し反発して言う。

 名前というのは、親しみやすいのが一番じゃなかろうか。

 あんまり小難しい由来とか考えても、わかりにくくっていけないと思う。

 

「ま、ラースらしいじゃないか。クルル、私は結構好きだぞ」

「そうね。いい響き」

「……語感はそこまで悪くないかしら」


 何だかんだと言って、シェイルさんも認めてくれた。

 それを聞いていた女王様が、すぐに柔らかな笑みを浮かべる。


「決まりですね。クルル様とそのお仲間に大いなる祝福を。我らエルフは永遠にこの恩を忘れず、あなた方の友であることを約束しましょう!」


 女王様の言葉に、たちまち割れんばかりの拍手が巻き起こった。

 さらに玉座の間に控えていた騎士たちが、次々と俺たちの名を叫ぶ。


「ラース様万歳! テスラ様万歳! シェイル様万歳! ツバキ様万歳! クルル様万歳!」


 次第に大きくなる声。

 いつまでも鳴りやまないそれに、さすがのテスラさんたちも少しばかり照れた顔をする。

 こうして俺たちは、エルディア王国の救世主として讃えられるのだった――。


次回から、新章の開幕です!

どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ