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第七十四話 そんなこと、させない!

 ――熱い。

 身体から噴き出した汗が、その場で蒸発していくようである。

 視界が白く煙る。

 真宝樹の幹から水分が蒸発し、湯気となって周囲を漂っていた。

 その熱気の中心に立つのは、炎に包まれた大怪鳥。

 赤々とたぎるそれは、地獄から這い上がってきた炎の化身か何かのようだ。


「先ほどまでよりも、数段火力が上がってるな……」

「ええ。こりゃ、ちょっとヤバいかも」


 俺がそう言うと、ツバキさんはハハハッと軽快に笑った。

 彼女はこちらを見ると、猛禽のような迫力のある笑みを浮かべる。


「ラース、知っているか?」

「なんです?」

「ろうそくというのはな、燃え尽きる寸前が一番よく燃えるんだ」

「……なるほど、それもそうですね」


 そう言うと、口から自然と笑みがこぼれた。

 あと少しだと考えれば、気が楽というものである。

 

「さあ、やりましょう!」

「ああ!」


 先んじて、ツバキさんが攻めた。

 切っ先から水の刃が放たれ、エルゴラゴへと迫る。

 すると、その翼の遥か手前で爆発が起きた。

 エルゴラゴの体温が上がりすぎて、身体に達する前に爆発が起きるようだ。

 さながら、熱の領域である。


「同じ手は通用しないか!」

「あっつい!!」


 吹き寄せる熱風。

 とっさに、マントを広げて顔を隠す。

 肌を露出していたら、たちまち焼け焦げてしまいそうなほどだった。

 熱を帯びた髪が、軋むように固い感触をさせる。


「ぐっ!!」

「ツバキさん!」


 俺より踏み込んだ位置にいたツバキさんが、大きなうめきを上げた。

 まずいな、このままじゃ立ってるだけで焼き殺されてしまう!

 

「私が前に出て、熱を防ごう!!」


 いつの間にか俺の横まで来ていたオルドスさんが、力強く申し出てくれた。

 彼は背負った大剣を引き抜くと、呪文を紡ぎ始める。


「蒼穹を統べる大いなる風よ。災いよりわが身を守護したまえ! ウィンドウォール!!」


 大剣を中心として、風の渦が形成された。

 周囲の湯気を取り込んだそれは、巨大な白い盾のようである。

 これなら、エルゴラゴまでどうにか近づけるぞ!

 俺とツバキさんは、すぐさま彼の後ろへと移動した。


「来たな。この盾もあまり長くは持たない。一気に近づいて、喉元を掻っ切るぞ! 温度の上げすぎで、今は奴自身も自由には動けないはずだ」

「はい!」

「ただし、ブレスには気をつけろ。奴の吐き出す炎は、並のドラゴンをはるかにしのぐ」

「……オルドス殿、やけに詳しいですな」


 急に語りだしたオルドスさんに、ツバキさんは眉をひそめた。

 すると彼は、やや神妙な面持ちをして言う。


「……決心が固まってな」

「何の決心かは、今は聞かないでおこう」

「よし、行くぞ!」


 熱風に押されながらも、歩き始めるオルドスさん。

 その足取りは重々しく、悲壮感すらあった。

 ――この人、何か俺たちに隠しているな。

 あまり察しの良くない俺ですら、態度に違和感を覚えた。

 

「オルドスさん。あなたもしかして、犠牲になろうとしてませんか?」

「……何の話かな?」

「とぼけないでください。さっきから、明らかにどこかおかしいですよ! 何かこう、自分の身を犠牲にしてあいつを倒すような手段を使うつもりなんじゃないですか!?」


 俺の呼びかけに、オルドスさんの足が止まった。

 彼は前を向いたまま、おもむろに語りだす。


「私は人の身でありながら、永い時を生きてきた。どうしてそんなことが可能だったのか、わかるかね?」

「魔法の力、ですか」

「王家への忠誠と引き換えに、空帝獣様と契約を結んだのだ。よって、空帝獣様がお亡くなりになれば私も死ぬことになるだろう」

「…………まさか!」


 以心伝心、とでもいうのだろうか。

 オルドスさんの言おうとしていることが、言葉を発する前に伝わってきた。

 俺は慌ててエルゴラゴの方へと振り向くと、その姿をまじまじと眺める。

 まさかこいつが、空帝獣のなれの果てだったとは……。

 意識してみれば、炎を操る力と言い神々しい存在かもしれない。


「つまり、奴を倒すとオルドス殿も死ぬということか」

「……そう言うことにはなるな」

「どうして、それを早く言わなかったんだ!」

「言ってもどうにもならないからだ。むしろ、奴を殺す決心を鈍らせることにしかならない」


 そう言うと、オルドスさんは乾いた笑みを浮かべた。

 こんなの……間違ってるんじゃないのか?

 誰か一人を犠牲にするなんて、そんなことは……!


「私は、人の身にしては十分に長生きした。だから、十分だ」

「そんなことありません! こんな自殺みたいなこと、何年生きてたってよくありませんよ!」

「ではどうすればいいというのだ! 瘴気に蝕まれ、獄鳥となり果てた空帝獣様を放っておくことは出来ない! 倒すしかないのだ!」

「それは……」


 どうすればいいんだ?

 あの怪物を封印するのは、恐らく不可能だ。

 あんな太陽みたいなものを封じ込めておける媒体なんて、とても用意できない。

 となれば道は一つ――


「浄化しましょう!」

「なに?」

「あいつを浄化して、元の空帝獣に戻すんです! そうすれば、みんな助かります!!」

「馬鹿な! 奴に巣食った瘴気は半端なものではない! 浄化など不可能だ、逆に穢されてしまうぞ!」

「そんなこと、やってみなきゃわかりませんよ!」


 そう言うと、俺はツバキさんの方へと振り向いた。

 俺のやろうとしていることを察した彼女は、すかさず口を開く。


「浄化の方法は単純だ。清浄な魔力を打ち込んで、瘴気を追い出してやればいい。元が聖獣ならば、全力でやっても持つだろう!」

「よし! ありがとうございます!」


 ツバキさんに軽くお辞儀をすると、すぐさま俺は構えを取った。

 そして、全身全霊でもって魔力を放つ。


「はああァ!!」


 爆発的な魔力の奔流。

 それがたちまち、エルゴラゴの身体を包むのだった――!


皆様に嬉しいお知らせです。

書籍版の発売日が、5月15日に決定いたしました。

レーベルはGAノベルとなります。

これからイラストの公開などもしていく予定ですので、ぜひ書籍の方も応援よろしくお願いいたします。

なお、今回の書籍化に伴うダイジェスト化などはございません。

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