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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第七十三話 獄炎の力

「ヤバッ!!」


 そう叫んだ瞬間、紅い光が降ってきた。

 炎だ。

 赤々とたぎる地獄の炎が、俺たちを焼き尽くさんと迫ってくる。

 その威容ときたら、さながら太陽が落っこちてきたかのようだ。


「こっちだ!」


 ツバキさんが声を張り上げる。

 振り向けば、彼女の足元に丸い穴が開いていた。

 この短い間に避難場所を確保するとは、流石だ!

 俺とオルドスさんは互いにアイコンタクトをすると、すぐさま穴へと飛び込む。

 

「うおッ!?」


 やがて襲い来る熱気。

 たちまち肌が焼けて、息もできないほどになる。

 これはマズイ、もっと下に行かないと死ぬッ!!

 

「はァッ!!」


 死を直感すると同時に、身体が動いた。

 魔力で拳を極限まで強化し、あらん限りの力で床を殴る。

 たちまち、周囲一帯が崩落した。

 俺たち三人は、木材の波に飲まれながら真っ逆さまに落ちていく。

 一階層、二階層、三階層……。

 火事場の馬鹿力というべきか、俺の拳は最終的に階層を四つもぶち抜いてしまった。


「ふう……何とか持ったか?」

「ぎりぎりでしたね……!」


 見上げれば、焦げ跡が俺たちの居る階層のすぐ上まで迫ってきていた。

 おいおい、いったいどれだけの範囲を焼き尽くしたんだよ……!

 そのあまりの威力に、思わず口が半開きになる。

 逃げずに受けていたら、骨も残らなかったに違いない。


「自分の巣ごと焼き尽くすとは……!」

「さすがは獄鳥、手段を選びませんね」

「……ああ」


 そう言うオルドスさんの声は、やけに低かった。

 攻撃のあまりの威力に、恐れをなしたのだろうか?

 それとは少し、雰囲気が違うような気もするが……。


「む、あいつ降りてきたぞ!」


 俺たちが死んだと思ったのだろう。

 はるか上空で待機していた獄鳥が、ゆっくりと降りてきた。

 ――デカイ!

 まだ相当距離があるというのに、その翼は視界を覆いつくすかのようであった。

 しかも赤々と燃える炎に包まれていて、尋常でない熱を発している。


「こいつが……!」

「これは、とんでもない大物だぞ!」


 伝わってくる力の大きさに、俺とツバキさんはそろって息をのんだ。

 しかし、呆けてばかりもいられない。

 すぐさま床を蹴り、獄鳥の巨体に向かって距離を詰めていく。

 崩れ落ちた壁や床を足場にして、上へ上へ。

 するとあっという間に、獄鳥の待ち構える最上階へとたどり着く。


「ラース、ここはコンビネーションだ! 交互に攻撃して、奴の意識を散らすぞ!」

「はいッ!」

「では、私から――奥義・氷天華!!」


 刹那、刃が閃く。

 たちまち数十もの氷柱が、ツバキさんの周囲に出現した。

 吹き荒れる冷気の嵐が、それらを乗せて一気に獄鳥へと殺到する。

 

「グアアアッ!」


 気迫の咆哮。

 翼の熱量が跳ね上がり、氷柱のほとんどが刺さる前に溶けてしまった。

 クソ、全然効いてないぞ!


「……厄介だな!」

「ええ、何とかしないと」


 燃え上がる獄鳥を見ながら、眼を細める。

 およそ生物とは思えない、炎の化身のような姿だ。

 侵入者に対する怒りで、温度も相当に上がっているのだろう。

 ただその場に立っているだけで、足元からもうもうと湯気が立ち上っている。

 周囲の水分が、すべて蒸発してしまっているようだ。

 ……待てよ、蒸発?


「もしかして……! ウォーターボール!」


 あえて、慣れない初級の水魔法をぶっ放す。

 人がすっぽり入れそうなほどの大きさの水球が、勢いよく獄鳥へと向かった。

 すると、それが翼に当たる直前に大爆発が巻き起こる。


「グギャアアッ!!」

「よしッ!」

「そうか、水蒸気か!」


 パチンッと指をはじくツバキさん。

 獄鳥の身体はあまりに熱すぎるがゆえに、水をぶつけると水蒸気爆発が起こるのだ。

 

「よく気付いたな、ラース!」

「いえいえ、それほどでも!」

「こういうことなら、私に任せろ!」


 そう言うと同時に、ツバキさんは刀を振るった。

 無数の水の刃が、一斉に獄鳥へと襲い掛かる。

 連続する爆発。

 一つ一つは小規模ながらも、延々と繰り返されるそれにたまらず獄鳥が雄たけびを上げる。


「グオオオオオッ!!」

「今だラース、デカイのを打ち込め!」

「ええ! ウォーターボールッ!!」


 ありったけの魔力を掌に集め、変化させる。

 ブオンッと耳慣れない音。

 それと同時に、巨大な水の塊が出現した。

 風呂桶百杯分ぐらいあるんじゃないか、これ……!

 我ながら間抜けな感想を抱いてしまうほどのそれを、力いっぱい放つ!


「いっけええッ!!」


 轟音を響かせながら、驀進する水塊。

 獄鳥の巨体が、瞬く間に水に呑まれた。

 直後、それは一気に膨れ上がり――


「伏せてッ!!」

「グラアアアアッ!!!!」


 爆発、衝撃。

 俺たちはとっさに姿勢を低くすると、吹き飛ばされまいと懸命に床にしがみつく。

 吹き抜ける爆風、揺れる床。

 そこらの山よりもよほど巨大な真宝樹が、あまりの威力に鳴動する。


「……ふう」


 しばらくして。

 俺はふらつく体を起こすと、周囲を見渡した。

 残っていた壁などが綺麗に吹き飛ばされ、また少し真宝樹が低くなってしまったようである。

 予想していたとはいえ、まさか水蒸気がこれほどの爆発を起こすとは。

 危うく俺自身まで、吹き飛ばされて死ぬところだったな……。


「ツバキさん、オルドスさん! 無事ですか!!」

「……なんとかな」

「私もどうにか。……ん?」


 物陰で立ち上がったオルドスさんが、不意に怪訝な表情をした。

 彼は自らの身体を見渡すと、眉間に深いしわを寄せる。

 

「まずいぞ、私が生きている!!」

「……え?」


 いったい、何を言っているんだ?

 あまりに不可解な言動に、俺は思考が追い付かずに首を傾げた。

 すかさず、ツバキさんが尋ねる。


「それはいったい……なんだ!?」

「まさか!」


 消えかけていた獄鳥の魔力。

 それが再び、勢いよく溢れ出した。

 高まる力の波動、ほとばしる熱気。

 やがてそれらが頂点に達したところで――


「ウオオオオオッ!!!!」


 大気を揺さぶる咆哮。

 炎の翼が、再び天へと舞い上がった――!


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