表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/142

第六十九話 鳥

「こっちだ!」


 曲がりくねった細い通路を、オルドスさんが先陣を切って進む。

 二手に分かれてから、かれこれ数時間。

 俺たちのグループは、階層をいくつか超えて真宝樹の上層を目指していた。

 テスラさんたちも、同じく順調に進んでいるだろうか?

 実力を疑うわけではないが、流石に少し心配だ。


「こら、止まるんじゃない!」

「ああっ! すいません」

「また、テスラたちのことを考えていたのか?」


 ツバキさんが、軽く笑いながら言う。

 彼女は俺の肩をポンポンと叩くと、さあ行こうとばかりに元気よく歩き出した。

 苔生した床の上を、タンタンタンとテンポよく進んでいく。


「ツバキさんは、あんまり心配じゃないんですか?」

「テスラとシェイルなら、何も問題ないさ」

「それもそうなんですけど……」

「むしろ、どうしてそこまで心配する? 二人に気でもあるのか?」


 そう言われて、思わずドキッとしてしまった。

 けど別に、そういうわけではない……はずだ。

 二人のことは好ましいとは思っているが、恋愛関係とかではない。

 あくまで仲間としての友情だ。

 二人とも美人だし、まったくそういう気がないといえば嘘にはなるけれども。


「そ、そんなんじゃないですって! ちょっと、心配性なだけです」

「ならいいが。パーティー内であまりそういうことはない方がいいからな」

「わかってますよ。トラブルの類は腐るほど見てきましたし」


 長い時間を過ごす分、パーティーの人間関係は濃くなりやすい。

 なので恋愛関係のトラブルなんて、しょっちゅうである。

 男女でパーティーを組むときは、まず色恋に気を付けないといけないなんてよく言われる。


「まあ、ラースが本気ならみんな応援するがな」

「ですから、そういうのではないですって!」

「ちなみに、私も候補に入れてくれて構わないぞ?」


 冗談だか本気だか、よくわからないテンションで言うツバキさん。

 ほんとに、そういうつもりはないんだけどな。

 俺はただ、みんなで冒険が出来ればそれでいいのだ。

 それ以上のことなんて、少なくとも今は望んではいない。


「おい、早く来てくれ! 外に出たぞ!」


 先頭を歩いていたオルドスさんが、声を張り上げる。

 歩みが遅くなっていた俺たちは、慌てて速度を上げた。

 やがて薄暗い通路が途切れて、光が差し込んでくる。

 視界が開けた。

 同時に、湿った風が吹き抜けていく。

 どうやら幹の内部を抜けて、外周へとたどり着いたようだ。

 

「ずいぶんとまあ、高いところまできたものだな!」


 大樹の幹を巡る、細い通路。

 崖際の山道のようなそこから、眼下を見渡してツバキさんが言う。

 俺も彼女に倣って下を見れば、たちまち霧に煙るエルディア王国の街並みが目に飛び込んできた。

 ――ひえ!

 こりゃ、確かに凄い高さだ。

 巨大なはずの城が、掌にすっぽり収まるほどの大きさに見える。


「足がすくみそうですね……」

「そうだな。だが、まだまだ上があるようだぞ」

「いッ!?」


 そう言われて上を見ると、真宝樹の頂上は未だにかすんで見えなかった。

 おいおい……。

 全身の力が少し抜けたような気がする。

 分かってはいたことだが、改めてみると半端じゃないな。

 登り切るのに、二日や三日はかかりそうだ。


「ここからしばらくは、幹の外周を歩く。落ちないように注意してくれ!」

「はい!」

「よし。各自、安全のため手をつなごう。できるだけ距離も詰めるんだ!」


 そう言うと、オルドスさんは自らの身体を樹の幹に沿わせた。

 続いて二番手の騎士が、彼に折り重なるようにして続く。

 

「私の番だな」


 ツバキさんが、騎士の鎧に身体を重ねた。

 今度は俺だな。

 こうして手を伸ばしたところで、はたと気づく。

 考えてみれば、ツバキさんと体を重ねていいのか?

 いや、ダメってことはないんだろうけど……。


「どうした? 早くしてくれ」

「は、はい!」


 ええい、ここはひとつ思い切るんだ!

 自分で自分に言い聞かせると、俺はそのままツバキさんと体を重ねた。

 そして、彼女の手を固く握りしめる。

 するとどうしたことだろう、ツバキさんの頬がサッと赤みを帯びた。

 

「ラ、ラース! ちょっと近くないか?」

「そうですか? す、すいません!」

「いや、離れすぎると危険だ! ほどほどの距離を保ってくれ」

「ああ、はい!」

 

 付かず離れず。

 どうにかうまい距離感を維持しながら、ゆっくりと横歩きをする。

 ツバキさんの息遣いが、かすかにだが聞こえた。

 ううーん、女の子とこれは変に緊張するな……。

 まして、俺の場合は鎧とか着てないし。

 鼓動が自然と早くなり、体温が上がってくる。


「……なあ、ラース」

「なんです?」

「お前の身体、意外と暖かいのだな」

「え? こんな時に一体何を?」

「いや、何でもない!」


 頭を横に振るツバキさん。

 そう言えば、彼女と体温を感じられるほど接近したことってなかったかもな。

 テスラさんやシェイルさんと比べると、同じパーティーメンバーでも少し距離があったし。

 せっかくだし、仲を深めるにはいい機会かもしれない。

 

「あのツバキさん。俺、前々から気になってたんですけど。ツバキさんが国を出た理由って――」

「危ないッ!」


 俺の言葉を遮り、ツバキさんが動いた。

 神速。

 腰に刷かれていた刀が抜かれ、刃が閃く。

 この間、一秒にも満たないほど。

 とっさに身体強化をかけなければ、何が起きたのか理解することすらできないほどだ。


「な、なんですか?」

「鳥だ。いきなり、鳥がこちらに飛び込んできた!」


 血払いをすると、ツバキさんは足元を見やった。

 視線を下げてみれば、小さな鳥の死骸が転がっている。

 身体に比して異様にくちばしが長く、しかも先端が針のように尖っていた。

 こんなものが飛び込んできたら、人間なんてたちまち串刺しだ。


「こいつは、魔物……?」

「次がくるぞ! まずい、数が多い!!」


 目を見開き、声を張り上げるツバキさん。

 彼女の視線の先には、こちらに狙いを定めた鳥の大群がいた――!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ