第六話 行方不明の冒険者
「へえ、なかなか良いところですね」
日がすっかり傾き、風が涼しくなってきた頃。
馬車はようやく、依頼のあったターチャ村へとたどり着いた。
森のほとりに位置していて、素朴な石積みの家々が並んでいる。
ざっと見た感じ、人口は五百にも満たないぐらいだろう。
しかし街並みは整っていて、それなりに豊かさを感じられる村だった。
「森で採れる薬草を加工して、生計を立ててる村らしい。だから、フォレストドラゴン出現は死活問題」
「あ、聞いたことあります! ターチャポーションでしたっけ」
冒険者ギルドで売っていた、ちょっとお高いポーションである。
値段の分だけ効き目も強かったので、高ランクの冒険者は好んで愛用していた。
あまり使わないので忘れていたが、そう言えばこの村の名前を冠している。
「ええ。ターチャのポーションは、魔法ギルドでもよく使う」
「それなら、なおさら失敗は出来ませんね」
「大丈夫、失敗しない」
「ははは……こりゃ頑張らないと」
そう言っているうちに、馬車が止まる。
俺たちはすぐに車から降りると、そのまま通りを歩いて村の奥へと向かった。
依頼主である村長に、到着したらすぐに挨拶することになっていたのだ。
「ここ」
「おお……! なかなか立派ですね」
たどり着いた村長の家は、ずいぶんと立派で小奇麗だった。
ブランドになっているだけあって、ポーションでそれなりに稼いでいるのだろう。
街の金持ちの家と比較しても、ほとんど遜色ない。
その大きな扉を、テスラさんがトントンっと叩く。
「こんにちは、魔法ギルドの者です」
「ああ、少しお待ちを!」
中から声がして、すぐに身なりのいい男が出て来た。
見たところ、五十前半と言ったところだろうか。
生え際がやや後退し、腹がぽっちゃりと出てしまっている。
顔立ちは柔和で、良く言えば人が良さそう。
悪く言えば、どことなく優柔不断に見えた。
「あなたが村長?」
「はい、村長のモリスでございます。いやはや、遠いところから良くお越しくださいました!」
にこやかな笑顔を浮かべ、握手を求めてくるモリスさん。
テスラさんは慣れた様子で対応するが、俺は少しびっくりしてしまった。
冒険者としてそれなりに仕事してきたが、こんなにフレンドリーな依頼人は珍しい。
まあ、これについては俺のランクが低かったと言うのもあるだろうけど。
「おや、どうかされましたか?」
「こういう対応に、あまり慣れてなくて」
「珍しいですな、魔導師様なのに」
「彼、新人だから」
すかさずフォローしてくれるテスラさん。
モリスさんはほうほうとうなずくと、すぐに「頑張ってくださいね!」と俺の肩を叩く。
……凄いな、対応が完全にお客様に対するそれだ。
魔導師の社会的地位は、冒険者のそれよりもかなり高いのかも知れない。
「それより、依頼の状況について教えて」
「ああ、そうでしたな。実は、少しばかり厄介なことになっておりまして……。立ち話もなんですから、中へお入りください。食事でもしながら、ゆっくり話しましょう」
そう言うと、モリスさんは扉を開けて手招きをした。
それに従い、俺とテスラさんは屋敷の中へと入るのだった――。
――○●○――
「うーん、美味しい!」
鳥の香草焼きを頬張りながら、ふーっと息を吐く。
これだけ美味い料理を食べたのは、ずいぶんと久しぶりだ。
最近は金が無くて、オートミールばっかりだったからなぁ……。
「ははは、鳥は薬草に次ぐ我が村の名物でしてな。どんどん食べてください」
「はい!」
「……ラース、食事よりも依頼の話」
コホンッと咳払いをするテスラさん。
おっといけない、ついつい夢中になってしまった!
俺は口の中の物を喉へと流し込むと、すぐに姿勢を正す。
「では、まずはドラゴンの状況について。いつ頃、森のどこで発見されたの?」
「一昨日のことです。発見した冒険者たちが言うには、この村から北東に向かった森の奥だそうで。近くに、小さな岩山があったと言っていましたね」
「分かった。けど、ドラゴンは行動範囲が広い。それだけの情報だと、すぐには見つからない」
「ええ。私どももそう思って、ドラゴンを発見した冒険者たちにそのまま偵察を依頼したのですが……」
モリスさんの眉間に、深いしわが寄った。
彼はそのまま額に手を当てると、深いため息をつく。
「その冒険者たちが、まだ戻って来ていないのです。今朝には戻ると言っていたのですが」
「なるほど……ドラゴンにやられた可能性がありますね」
「もしくは、巣に捕まっている。ドラゴンは、よく食料や財宝を貯めこむ」
「出来れば、彼らの安否を確認してもらえると助かります。実は、偵察依頼は冒険者ギルドを通さずに頼んだものなので……」
そう言うと、モリスさんは深く頭を下げた。
……なるほど、そういうことか。
冒険者ギルドは、依頼人が冒険者に対して直接仕事を頼むことを非常に嫌う。
今回は緊急のためやむを得ないケースであろうが、あまりいい顔はしないだろう。
まして、それで冒険者が行方不明になったとなれば村の責任問題だ。
ポーションを販売しているターチャ村としては、大口の顧客である冒険者ギルドとの揉め事は絶対に避けたいに違いない。
「分かった。ただし、その分はキッチリ請求」
「……助かります」
「それで、その冒険者たちの名前や特徴、ランクは?」
「男二人と女二人の四人パーティーでしたな。女性二人は、結構美人だったので覚えています。ランクはCで、名前はええっと……『ソルトウィング』とか何とか」
「げッ!?」
俺は思わず、変な声を出して椅子からズッコケてしまった。
男が一人増えたみたいだけど……間違いない。
あいつらだ。
三年間、俺を便利に使い倒して来たあいつらだ……!!
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