第六十五話 仲間たちの力
「放て、元素の光槍!!」
四つの光が重なり合い、巨大な槍を形成した。
やがて打ち出された槍は、風を巻き起こしながらこちらに迫ってくる。
光で出来ているはずなのに、膨大な質量を誇るかのようなゆっくりとした動き。
内部にいったいどれほどのエネルギーが詰まっているのか、想像しただけで身震いする。
しかし――
「私が防ぐ」
「出来ますか?」
「こっそり修行した。その成果を見せる」
テスラさんは、何やらずいぶんと自信ありげに笑った。
そう言えば、最近は俺に黙ってこっそり出かけることが増えてたな……。
何をしているのかと思えば、修行なんてしてたのか。
「わかりました、お願いします!」
「任せる」
テスラさんは杖を軽やかに回すと、ダンッとその先端を地面に叩きつけた。
途端に赤い光が綾を成し、地面に魔法陣が描かれる。
それだけではなく、さらにもう一つの魔法陣が空中に展開された。
――二重魔法陣。
確か、かなりの高等技術だったはずだ。
使える人間は国に一人か二人と本に書いてあったが、まさかテスラさんがそれをマスターしていたとは。
「おおお!!」
「まだまだ」
やがて地面からせり出してきたのは、巨大な銀色の壁だった。
この深く沈んだ色合いは、まさか……!
俺がその正体を直感した途端に、槍が壁に直撃した。
轟く振動、揺さぶられる地面。
それに遅れて、前方から砂嵐よろしく濛々たる砂ぼこりが襲い掛かってきた。
そして、それが晴れると――
「バ、馬鹿な!?」
「傷一つついていない……!」
現れたのは、まったく無傷の鋼の壁であった。
いや、正確には『オリハルコンの壁』というべきか。
まさか伝説の金属で壁を作ってしまうとは、テスラさんおそるべしである。
元から強かったのに、どうやら俺が彼女の対抗意識に火をつけてしまったらしい。
「おのれ、人間がこのような魔法を使うとは!」
「ラハーム様、ここは接近戦かと!」
「ああ、突撃ィッ!!」
遠距離魔法では、壁を破れないと判断したラハームたち。
彼らは剣を構えると、こちらに向かって一気に踏み込んできた。
身体強化を全力でかけているのだろう。
その動きは、鎧を着ていることを忘れさせるほどに速い。
「私が相手しよう」
「もしかして、ツバキさんも修行を?」
「ツバキだけじゃないわ。私もよ」
そう言うと、誇らしげに胸を張るシェイルさん。
彼女は懐から分厚い本のようなものを取り出すと、それに向かってさらさらッと指先を走らせる。
ここからだとよくは見えないが、魔法文字を刻んでいるらしい。
やがて紙吹雪よろしく本からページが飛び出し、騎士たちへと殺到する。
「ファイアーブラスト!」
刹那、騎士たちに張り付いたページが爆発した。
雷を思わせる爆音とともに、鎧がぶっ飛んでいく。
すっげー!
付与魔法って、こういう使い方もできるのか……!
「東洋の符って呼ばれてる技を元に改良したの。これで、補助だけじゃなくて直接攻撃もできるようになったわ!」
「すごい! さすがはシェイルさん!」
「どういたしまして。……ありゃ?」
派手に吹き飛ばされたはずの騎士が、再び立ち上がった。
あの鎧、どうやら相当に頑丈な材質で出来ているらしい。
軽く数メートルは吹き飛ばされたというのに、凹み一つない。
「我らがエルフの魔法鎧は、そう簡単には壊れぬぞ!」
「道具に頼りおって……。ラース、シェイル! 今度こそ私がやる!」
「わかりました」
「任せたわ!」
「いざ――勝負!」
ツバキさんが右足を踏み込む。
瞬間、大地が爆ぜた。
ツバキさんの身体が、あまりの加速に視界から消える。
それにやや遅れて、強烈な冷気が周囲にあふれた。
「奥義・氷天華!」
吹き荒れる冷気の嵐。
刃が振るわれるたびに、数十もの氷柱が舞う。
研ぎ澄まされたそれらは、たちまちのうちにエルフたちの魔法鎧へと突き刺さった。
分厚い金属の塊を、さながら紙っぺらのように貫いていく。
「ぐおッ!?」
「うばァッ!!」
「安心しろ、急所には刺さらないようにしている」
「人間ごときに、情けをかけられるとは……!!」
その場に尻もちをつきながらも、憤怒の形相でこちらを睨みつけるラハーム。
すでに勝負はついたというのに、その目は全く闘争心を失ってはいなかった。
それどころか、俺たちに対する敵対心をよしいっそうたぎらせているようにすら見える。
これから一緒に討伐隊を組むんだし、仲良くしてほしいんだけどなあ……。
「さあ、これで決着はつきました。終わりにしましょう」
「うるさい、まだだ! まだ終わらん!」
「往生際が悪いぞ。部下も倒れたんだ、諦めたらどうだ」
「ふん、私にはまだ奥の手がある!」
そう言うと、ラハームは籠手を外して懐へと手を差し入れた。
そして鎧の奥から、六角柱の美しい結晶体を取り出す。
深海のように青く輝くそれは、その見た目とは裏腹に燃えるような魔力を宿していた。
その力の大きさときたら、ただ事ではない。
「ラハーム! お前、精霊結晶を使うつもりか!」
「ええ! 道具の使用は無制限、ルール違反ではないですからねえ!」
「貴様、それが何を意味するか分かっているのか!」
「わかってますとも! 私たちの、勝利だあああァ!!」
ラハームの雄たけびとともに、水晶がにわかに強烈な光を放った。
瞬く間に膨れ上がった白光が、たちまち中庭全体を覆いつくす。
視界が失われた。
莫大な魔力に当てられて、皮膚の感覚もおぼろになる。
やがてそれらが再び回復すると、そこには――
「これは……精霊!?」
宙に浮かび上がった、半透明の人型。
翼の生えたその神々しい姿に、俺たちはたまらず息をのむのだった――。




