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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第六十四話 国の内情

「うおぉ……! すごい部屋!」


 オルドスさんに案内された部屋は、日当たり抜群の何とも豪奢な部屋だった。

 絨毯が敷き詰められ、壁際にはセンスの良い木目調の調度品。

 ベッドには天蓋までついている。

 公爵家の城にも負けないほどの設備だ、むしろそれ以上かもしれない。


「何かあったら、こちらの者に言うといい」


 オルドスさんの脇から、サッと侍女服を着たメイドさんが姿を現す。

 深々と頭を下げる彼女に、俺は軽く会釈をした。

 なんともはや、ずいぶんなお客様待遇である。

 勇者というのも、まんざら嘘ではなさそうだな。


「今日のところは、こちらでくつろいでほしい。明日には、騎士団の方に顔を出してもらう」

「何から何まで、ありがとうございます」

「いえいえ! 我々の方こそ、ラハームが失礼なことを言って申し訳ない」


 軽く手を振りながら、苦笑するオルドスさん。

 彼はそのまま肩をすくめると、ふうっと大きなため息をつく。

 眉間に刻まれたしわの深さが、その苦悩を物語っていた。

 

「……事情がありそうだな」

「ええ、まあいろいろと」

「少し、話してもらえませんか? これから討伐に行く以上、俺たちだってまるっきり部外者ってわけでもないんですし」

「同意。知っておきたい」


 俺の言葉にテスラさんたちが次々と同意する。

 オルドスさんは今一度ため息をつくと、仕方ないとばかりに顔を上げて言う。


「今の王家には、人間の血が一部だが流れているんだ。そのせいで純血至上主義の貴族たちからは良く思われていなくてね。内乱が起きないのは、国が狭いのと貴族たちが互いに牽制しあっているからだよ」

「微妙なバランスの上で成り立っている、ということだな」

「その通り」

「厄介な時期に来てしまったものだ」

「それを言うと、かれこれ百年は同じだよ」


 うんざりしたような口調で言うオルドスさん。

 その言葉には、何かしら強い実感が込められていた。

 ――まるで実際に、百年前からこの状況を見守っているかのようだ。

 俺は見たところ人間であるはずの彼に、何とも言えない奇妙なものを感じ取る。


「大変ですね。オルドスさんも人間だから、苦労は多いでしょう?」

「まあそうですな。しかし、陛下や姫にはよくしてもらっているから何とかなっている」

「陛下は、そういうことをあまり気にされない性質で?」

「そうだ。ご自身が人間の血を引いているということもあるが、そもそもが寛大なお方でな。あの方こそ、森の長としてこの国を率いるのにふさわしい!」


 オルドスさんは軽く拳を振りながら、熱弁をふるった。

 その目の熱さから、王家への忠誠心などがひしひしと伝わってくる。

 何か、よほどの思い入れがあるのだろう。

 立場からくるものより、個人としての感情を強く感じた。


「女王陛下のことを、慕っているんですね」

「ああ。あのお方と姫様のためならば、この命惜しくはない」

「それだけの忠誠心、何かあったのか?」


 なかなか物騒な発言に、たまらず聞き返すツバキさん。

 するとオルドスさんは、軽く目を細めながら言う。


「私はもともと、森に捨てられていた子どもだったんだよ。それを陛下が拾ってくださったんだ」

「なるほど、そういう理由か」

「本来なら、エルフの領域に踏み込んだ人間は子どもであろうと追い出される。そこを助けてくださったのだ、まさに命の恩人だよ。この身をささげても、返しきれないほどの恩義がある!」


 オルドスさんの言葉は、熱がこもりすぎていて少し怖いぐらいだった。

 彼はそのまま、まっすぐな目でこちらを見て言う。


「明日の決闘、負けても構わないが無様な姿だけは晒さないでくれ。そなたたちは、陛下が認めた勇者なのだからな」

「……わかりました。大丈夫です、勝ちますから」

「そう言ってくれると心強い。では、ゆっくりと休んでくれ」


 そう言って立ち去るオルドスさん。

 こうして俺たちは、決闘に備えてしばしの休息をとるのだった――。


 ――〇●〇――


「逃げずに来たか。人間にしては勇敢だな!」


 翌日、城の中庭に整備された練兵場にて。

 俺たちを待ち構えていたラハームが、軽く鼻を鳴らしながら言う。

 彼の後ろには、全身甲冑に身を包んだ騎士が三人。

 銀色の鎧を光らせた彼らは、いずれも腕が立ちそうである。

 今日に備えて、昨日のうちに精鋭を選んでおいたのだろう。


「この練兵場は、魔道の実験のために特別な結界が張られている。思う存分魔法を使っても、周囲に被害が出ることはないだろう。もっとも、人間にそれだけの魔法が使えるとは思えんがね」

「説明、感謝しておこう」

「ふん! まあいい、決闘のルールを説明する」


 ラハームは大仰な仕草で手を上げると、高らかに宣言した。

 それに応じて、中庭に集まっていた騎士たちがパラパラと拍手をする。

 ラハームのやつ、わざわざ観客まで連れてきていたらしい。

 まったく、演出の好きな奴だ。


「今回の決闘は、四対四で行う! 武器魔法の使用は無制限、どちらかが全員倒れるまでは試合続行! ただし、相手を殺してしまった場合は負けだ! ……私たちエルフは、殺しは好まないのでね」

「これは、ご丁寧にどうも」


 いちいち気障ったらしい言い回しをするラハームに、少々うんざりしながらも頭を下げる。

 するとその態度が気に食わなかったのか、ラハームの顔が赤みを帯びる。


「いちいち腹が立つ……! だがそれもここまで、始めさせてもらおう!」

「ええ!」

「了解」

「かかってくるといいわ!」


 互いに武器を構えるラハームたちと俺たち。

 そして――


「手始めに見せてやろう! 我々エルフの魔法を!」


 高らかに宣言するラハーム。

 それに応じて、甲冑を着た騎士たちがそれぞれに剣を掲げた。

 赤、青、緑。

 三つの光が集結し、巨大な槍を形成していく。

 最後に、ラハーム自らがそこに黄色を加えて――。


「放て! 元素の光槍エレメンタルランスッ!!」


 ぶっ放される大魔法。

 四つの力が束ねられた槍は、まっすぐ俺たちに向かって飛ぶのだった。


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