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第六十一話 大森林の戦士たち

「だいぶ来ましたね」


 王都を旅立って、はや五日。

 俺たち四人は、真宝樹を目指して馬車を駆っていた。

 鬱蒼と茂る森を貫く、細く曲がりくねった道。

 さながら獣道のようなそれを、ゆっくりと通り抜けていく。

 周囲におよそ人気はなく、さながら水底のように静まり返っていた。


「地図だと、ここをまっすぐ行けばいいらしいが……」


 ツバキさんの顔が曇る。

 トリメギストス様に渡された地図が正しければ、もう少しでエルフたちの国へとたどり着くはずであった。

 しかし、そのような気配は全くない。

 雲を貫くほどの巨木だと言われる真宝樹も、まったく見えてはいなかった。


「ホントにここであってる?」

「間違いない。一本道だ、迷いようがないだろう」

「そりゃそうだけど……」


 不安げな様子で、シェイルさんは周囲を見渡した。

 まあ無理もない、国にたどり着くどころか次第に緑が濃くなっているからな。


「様子を見てくる」

「え? どうするんですか」

「任せる」


 テスラさんはひらりと馬車から飛び降りると、パンっと地面に手を叩きつけた。

 たちまち魔法陣が展開され、大地がせり出してくる。

 岩が長く伸び、瞬く間に塔と化した。

 その頂上に坐したテスラさんは、そのまま空の高みへと押し上げられる。


「おお……! 土魔法にはあんな使い方もあったんですね!」

「応用性が売りだからね。便利なもんよ」

「おーい! 様子はどうだー!!」


 空に向かって、声を張り上げるツバキさん。

 それを聞いたテスラさんが、遥か塔の上でわずかに身じろぎする。


「少し離れたところに、魔力の塊がある。恐らく、森の木々を利用した結界」

「それで国を隠していたのか……!」

「おそらくは……」


 言葉を途切れさせるテスラさん。

 それにやや遅れて、俺の背中から「キュイッ!!」と甲高い叫びが上がった。

 リュックに押し込めていたヒヨコが、いきなり暴れ始めたのだ。


「キュイキュイ! ピーー!!」

「どうしたどうした? げッ!?」

「ヤバっ!!」


 響き渡る風切音。

 それにやや遅れて、矢の雨が降り注ぐ。

 俺たちはとっさに身体強化をかけると、全速力で近くの木陰へと避難した。

 塔の上にいたテスラさんも、ひょいっと飛び降りてくる。

 彼女は器用に矢をかわしながら、俺たちが逃げ込んだ大木の陰へと滑り込んできた。


「ふう……」

「な、何ですかこれ!?」

「さあ!」

「まさか、エルフの仕業か?」

「いくら人嫌いでも、いきなり矢を撃ってきますかね!?」


 突然のことに、動揺を隠せない俺たち四人。

 招かれざる客であることは重々承知していたが、いきなり武力行使に出られるのは予想外だった。

 こういうことなら、最初から戦いに備えておくべきだったか……?

 串刺しになってしまった荷物を見やりながら、ため息をつく。


「来るぞ!」

「結構、数がいるみたいね」

「この規模……軍か?」


 近づいてくる足音。

 落ち葉を踏みしだくそれは、一人や二人ではなかった。

 最低でも十人以上、下手をすれば百にも届くほどの数の整然とした足音である。

 やがて木々の陰から、軽装の戦士たちが姿を見せる。


「囲まれたか……」

「どうする? 無理にでも突破する?」

「手荒なことはしたくないが――」

「そこの者たち、動くな!」


 俺たちが顔を見合わせていると、いきなりとある戦士が声をかけてきた。

 彼はほかの戦士たちを下がらせると、たった一人で前に出てくる。

 ――こいつ、相当にできるな。

 近づいてきた男の風貌を見ただけで、俺は彼が相当の強者であることを察した。

 筋骨隆々とした肉体、刈り込まれた金髪、十字に走る頬の傷。

 何もかもが、他の戦士とは明らかに違っている。


「私はエルディア王国が大戦士オルドス! 貴様たち、いかなる用があってこの森に来た?」

「俺たち、怪しいものじゃありません! 魔法ギルドの依頼で、真宝樹の調査に来た魔導師です!」

「魔導師?」


 俺がそう名乗ると、オルドスは怪訝な表情をした。

 彼はこちらに対する不信を隠そうともせずに言う。


「人間の魔導師が、いったいなぜ真宝樹の調査などをする!」

「黒魔導師が暴れだして、それに対抗するのに真宝樹の樹液が必要なのよ!」

「ふん、下らん! そのようなこと、我らに関係はない!」

「そんな! 黒魔導師が危険なことぐらい、あなたたちだってわかるでしょ!?」


 シェイルさんが、思い切り声を張り上げる。

 するとオルドスは、やれやれと肩をすくめる。


「いま我が国は、それどころではない! 人間どもの事情に、関わっている余裕などないのだ!」

「黒魔導師を放っておいたら、この国だって危ないのよ!?」

「いいから、さっさと帰れ――む?」


 剣を手にしたオルドスが、不意に動きを止めた。

 ――いったい何事だ?

 周囲に視線を走らせると、いつの間にかひよこが外へと飛び出していた。

 そして、なぜだか知らないがオルドスたちの視線はひよこへと一心に注がれれている。


「おい、危ないぞ!」

「キュイ、キューイ!!」


 慌てて、ひよこを抱きかかえる俺。

 するとオルドスが、唖然とした表情でこちらを見る。

 

「お前、その鳥はもしや空帝獣様……?」

「はい? 空帝獣?」

「いま手に抱いているお方だ! その方とどのようなつながりがある!」

「このひよこのことなら……飼い主ですけど」


 よくわからない状況に、戸惑いつつもはっきりと言う。

 するとたちまち――


「失礼いたしました!!」


 オルドスと戦士たちが、揃って深々と頭を下げたのだった――。



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