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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第五十九話 賢者トリメギストス

「しかし、賢者様の依頼ですか」


 通りを歩きながら、改めてつぶやく。

 ――賢者トリメギストス。

 この国の魔導師の頂点に君臨する人物だ。

 そのような人物が、わざわざギルドに依頼するとはいったい何事か。

 詳細は直接会って説明するとのことだったが、どうにも気になって仕方がない。


「そもそも、本当に賢者様の依頼なのだろうか? 怪しいとは思わんか?」

「そこは確実じゃない? ギルドの方でも、依頼人の身元は調べるし」

「それもそうなのだがな……」


 どうにも納得がいかないのか、ツバキさんは腕組みをして唸った。

 眉をひそめたその表情は、青汁でも一気飲みしたかのように渋い。


「賢者様って、その……やっぱり気難しい人だったりするんですか?」

「ええ。そもそも、姿をほとんど見たことがない」

「噂だと、かなりの人嫌いみたいね。住んでる場所も、街の端の方みたいだし」


 そう言うと、シェイルさんは受付で渡された王都の地図を手にした。

 紙の一番端っこ、市街地を示す円の隅にチェックが打たれている。

 貴族や富裕層の住む中心部からはずいぶんと離れていた。


「何だか、相当に厄介そうですね」

「だが、良いチャンスだぞ。無事に成功させれば、これ以上ないアピールができる」

「アスフォートにも、デカイ顔されない」

「……まあ、それより問題は真宝樹ね」

「ヤバい場所なんですか?」


 軽く唾を飲みながら、シェイルさんに聞き返す。

 すると彼女は、ううんっと首を横に振った。

 そして、お手上げとばかりに肩をすくめる。


「さっぱり聞いたことないのよ。情報ゼロ」

「はあ。それなら、別に心配することないんじゃないですか?」

「仮にもSランクの私が知らないのよ? 相当マイナーで、やばいもんだと思うわ」

「私も、まったく聞いたことがないな」


 あごに手を当てながら、考え込むツバキさん。

 それに続いて、シェイルさんも同意するようにうなずいた。

 三人とも知らないとなると、確かに知られていない存在なんだろうな……。

 

「このあたりね……」


 そうこうしているうちに、賢者様の家のすぐそばまでやってきた。

 けど、ここって完全なスラム街じゃないか……?

 建物はどこもかしこも年季が入っていて、入り組んだ路地裏には酒瓶が転がっている。

 さらに道行く人々はぼろきれのような服をまとっていて、時折、こちらを物欲しそうな目で見てきた。

 

「地図、あってるのか?」

「ええ、間違いないわ。ここから三軒隣にチェックがしてある」

「おいおい、それってあの家か?」


 ツバキさんが、頭を抑えながら指さす。

 そこには、今にも崩れてしまいそうなほどのあばら家が建っていた。

 とてもとても、賢者が住んでいるようには見えない。

 というか、人間が住める家なのか……?

 

「……流石に違うんじゃないですか? あれ、家というよりウサギ小屋ですよ」

「ウサギ小屋で悪かったのう!」

「わッ!?」


 背後からいきなり、声をかけられた。

 びっくりして振り返ると、黒っぽいマントをまとった老人が立っている。

 失礼ながら、どことなく小汚い感じのする人だ。

 長く伸びたひげも、手入れがされていないようでぼさぼさになっている。

 フードをかぶっているので頭は見えないが、きっと髪も似たようなものだろう。


「えっと、あなたは?」

「わしか? わしはトリメギストス。魔導師をしておる」

「……は、はい?」


 思わず、間抜けな返事をしてしまう。

 今この人、トリメギストスって言ったよな?

 でも、いくらなんでもこれは……。

 聞き間違いだろうか。


「あの、もう一度言ってもらえますか?」

「なんじゃい、若いのに耳が悪いのう! トリメギストスじゃ!」

「……ほんとに?」


 俺に代わって、真顔で聞き返すシェイルさん。

 すると老人は、憤慨したように鼻を鳴らして言う。


「もちろん! 嘘をついてどうする」

「しかし、あまりにもその……」

「能ある魔導師は杖を隠すと、昔から言うじゃろう。わしほどになるとな、こうやって目立たぬようにしておらんと周りがうっとおしいのじゃよ」


 もっともらしく語る老人。

 そう言われると、そんなような気がしないでもない。

 俺程度ですら、あれこれと騒がれていた時期があったからなあ……。

 賢者ともなれば、面倒ごとは多そうだ。


「そなたたち、魔導師じゃな? 依頼の件で来たのか?」

「ああ、はい。その通りです」

「よし、ではついてこい」


 そう言うと、トリメギストス様は扉を開けて家の中へと入っていった。

 俺たちも慌ててそのあとを追いかける。

 すると、外側からはあばら家にしか見えなかった家の中は――


「なんだこれ!?」

「空間魔法……!」


 広々とした清潔感のある玄関。

 その先にはこれまた広い部屋が続いていて、立派な応接セットがおかれていた。

 壁紙は白く清潔感があり、窓には自然あふれる美しい山河が映し出されている。

 明らかに、外観と内装が釣り合っていなかった。

 というか、窓の外の風景はいったいどこだよ!?


「驚いたか? 空間魔法での、中をちょいと広げてある」

「すごい……! ちなみにあの窓は、どんな仕組み何ですか?」

「あれか? 魔法で少し離れた場所の景色を映しておるだけじゃよ」

「通信水晶の応用ね」

「うむ。さ、ここに腰かけるがええ」

 

 そう言って、ソファにどっしりと腰を下ろすトリメギストス様。

 彼に言われるがまま、俺たちもソファに座る。

 

「では早速、依頼の話をさせてもらおうかの」

「はい。まず、真宝樹とは何ですか?」

「おお、そこから話さねばいかんか。まあ、最近の若い魔導師は知らんかのう……」


 トリメギストス様は、そう言うとどこか遠い目をした。

 どうやら、昔のことを思い起こしているようである。

 沈黙。

 何とも言えない間が発生した。

 そして――


「……ぐが……はっ!? いかんいかん、つい寝てしもうた! えっと、どこまで話したかの?」

「真宝樹について、です」

「ああ、そうじゃった。何も話さぬうちに寝てしまったな」


 気を取り直すように、ごほんッと咳払いをするトリメギストス様。

 うーん、やっぱりどこか胡散臭い人だなあ……。

 さすがに、こんな家に連れてこられたら信用するしかないんだけどさ。

 俺の中で、賢者のイメージがどんどん崩れていく。


「真宝樹というのはの、大森林の奥地に聳える世界一の巨木のことじゃ。その樹液には魔力を回復させる絶大な効果があっての、古くは魔導師の間で珍重されたものじゃった」

「おおお! それはすごい!」


 興奮を隠しきれない様子のツバキさんたち。

 傷や体力を回復させる道具は多々あるが、魔力を回復させるものはことのほか少なかった。

 せいぜい、馬鹿みたいに値の張る魔石を使いつぶすくらいである。


「今回の依頼は、その真宝樹が今どうなっているのかを調査し、可能ならば樹液を持ち帰ってくることじゃ。最近はいろいろと物騒になってきたからのう、緊急用に備蓄が欲しいのじゃよ」

「なるほど、わかりました」

「そうか、引き受けてくれるか! だが、一つ厄介なことがあっての」


 そう言うと、トリメギストス様はこちらに向かってグイッと身を乗り出してきた。

 そして目を大きく見開くと、何やら脅すような口調で言う。


「そなたたち、エルフと呼ばれる旧い種族を知っておるか――?」



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