第五十七話 魔法ギルド本部
「さて。そろそろ出かけるとするか」
荷物をそれぞれの部屋にしまい込んだところで、ツバキさんが言う。
さて、いよいよ魔法ギルド本部へ出発だ。
いったいどのような場所なのだろうか、緊張で身が引き締まる。
「皆様、お出かけになりますの?」
「ええ。ギルド本部に」
「お夕飯の準備はいります?」
「そうね、今日ぐらいは向こうの酒場で食べるわ」
シェイルさんが、軽く手を振りながら言う。
たちまち、システィーナさんが笑顔でうなずく。
「かしこまりましたわ。では、本日の夕食は私一人で取っておきますわね」
「あなたも魔導師なんだし、着いてきても構わないわよ?」
「それはちょっと……遠慮しておきますわ」
システィーナさんの顔色が、わずかながらに悪くなる。
……いったいなんだ?
ギルド本部へ行きたくない理由でもあるのか?
ちょっとばかり嫌な予感がした俺は、すかさず尋ねる。
「……魔法ギルド本部って、なんかあるんですか?」
「特に何がというわけではありませんが、いろいろと濃い場所なので」
「まあそうね。あんまり、通い詰めたい場所ではないかも」
「はあ……」
「とにかく、行ってみないことには始まらないぞ。急ぐとしよう」
窓の外を見ながら、ツバキさんが言う。
すでに、日が傾きかけていた。
早めにいかないと、ギルドの営業が終わってしまう。
「分かりました。出ますか」
「ええ」
屋敷を後にしようとする俺たち。
するとすかさず、どこからともなくメイドたちが姿を現した。
彼女たちは入り口のわきに整列すると、こちらの動きに合わせてお辞儀をする。
うお……!
なんだか、ものすごく偉い人になったような気分だ。
「どうしましたの?」
「いや、こんなの初めてなので」
「これから、基本的には毎日こうですわよ」
「うーん、落ち着かないかも……」
腕組みをしながら、やや微妙な顔をする俺。
システィーナさんはふうっとため息をつくと、ややあきれたように言う。
「ラース様も、超一流の魔導師なんですからこれぐらい慣れてほしいですわ」
「そう言われても、ここ最近のことですからね。魔導師になったのって」
「ま、あと数か月もすればなれるわよ。こういうのって、意外と早いから」
落ち着いた声で言うシェイルさん。
意外にもこういう経験があるのか、彼女は慣れた様子で屋敷を出ていった。
そのあとを、テスラさんたちが続いていく。
慣れる……か。
俺もいつか、彼女たちみたいな余裕を身に着けてみたいものだ。
「では改めて、魔法ギルド本部へ向かいますか」
門を出たところで、改めて宣言する。
たちまち、テスラさんがサッと手を挙げた。
「あっち。歩いてすぐ」
「あそこですか? 特に何も見えませんけど……」
「近づけばわかる」
テスラさんに言われるがまま、通りを進んでいく。
やがて俺たちは、大きな広場へと差し掛かった。
綺麗な円形をしたそこには、巨大な石柱が経っている。
ちょっとした塔のような大きさだ。
「あそこ」
「え? あれがギルド本部ですか!?」
「違うわ、上をよく見て」
「はあ……?」
言われるがままに視線を上げる。
すると何やら、小さな剣のようなものが浮いていた。
……いや、違う!
よくよく見れば、地面に大きな影が落ちていた。
小さな剣どころか、城ぐらいの大きさがあるぞ!
「あ、あれが!?」
「ああ。あれこそが魔法ギルド本部だ」
「浮いてますよ!?」
「古代技術の結晶。結界で覆われてて、完ぺきな防御態勢」
「すっげえ……!!」
感嘆の声が漏れる。
こりゃ、驚くっていうわけだ。
一瞬、目を疑ってしまった。
「あ、でもどうやって入るんですか? あそこまで、わざわざ飛ぶんですか?」
「あそこに石柱があるだろう? あれにギルドカードをかざすと、転送されるようになっている」
「すごい技術ですね」
「転送機能がついてるのは、Bランク以上だけだがな」
そう言うと、胸元からカードを取り出すツバキさん。
彼女は石柱に近づくと、その中央に描かれた円にカードを押し付けた。
たちまち、ツバキさんの身体が光に包み込まれ、建物に向けて浮上する。
その速度は極めて速く、目で追いきれないほどだった。
「さ、私たちもいくわよ!」
「ああ、はい!」
シェイルさんに続いて、俺たちも石柱をカードでタッチする。
身体を光が包み込み、浮遊感が襲い掛かってきた。
次の瞬間、強烈な加速度がかかる。
そして――
「おおっ!?」
「着いた」
「いつ来ても、この感覚は慣れないわねえ」
肩をポンポンと叩きながら、つぶやくシェイルさん。
ふと視線を下げれば、王都の街並みが遥か眼下にあった。
ガラスのような材質で出来た床から、はっきりと景色が見える。
こえぇ……!
これがあるから、システィーナさんは来なかったんだな!
身をすくめながらも、どうにかこうにか部屋の端の階段へと移動する。
「ここを上がればカウンターよ」
「はーい」
シェイルさんに続いて階段を上がると、そこは広々としたエントランスになっていた。
白を基調とした空間で、天井から降り注ぐ光がまぶしい。
実に開放感にあふれた造りだ。
そこを色とりどりのマントに身を包んだ魔導師たちが、颯爽と闊歩している。
「さすが、雰囲気ありますね!」
「あんまりキョロキョロしない。舐められる」
「そうですか? ……あッ!!」
周囲に目を走らせていると、黒マントの魔導師を見つけた。
それも一名ではない、五人もいる。
さっすがは王都のギルド本部!
Sランク魔導士がこんなにいるのか!?
俺が驚いていると、テスラさんがちょいちょいとマントを引っ張る。
「どうしたんですか?」
「見ないで。奴らとあんまり絡みたくない」
「え? 知り合いなんですか?」
「違う、一方的に――」
「おッ!? 見慣れない顔がいると思ったら、アクレ支部の連中じゃねえか!」
テスラさんの話を打ち切って、なれなれしく声をかけてきた男。
その強引さに、俺は思わず目を見張るのだった――。




