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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第五十六話 新居

「ど、どうしてここに?」


 システィーナさんの登場に、思わず言葉に詰まる。

 まったく、予想はしていなかった。

 事件が解決した後も、事態の収拾のために彼女は公爵家の城に残ったはずなのだ。


「皆様が早く討伐してださったおかげで、思った以上に被害が少なかったのですわ。それで、早々に仕事を終えてこちらに参りましたの」

「参ったって、わざわざ私たちの様子を見に?」


 シェイルさんが眉をひそめる。

 仮にも公爵令嬢ともあろう人物が、ホイホイ動いていいものだろうか?

 公爵家の城から王都までは、距離もかなりあるはずだ。


「いえいえ、それは少し違いますわ。一応、私は軍に籍を置いておりますので、普段は王都におりますのよ。もっとも、有事の時以外は自宅待機みたいなものなのですけどね」

「それで、暇を持て余してわざわざ様子を見に来たってわけ」

「まあそんなところですわ。ただ――」


 何やら、言葉を含むシスティーナさん。

 思わせぶりなその態度に、俺は唾を飲んだ。

 いったい何を言うつもりなのか。

 かすかにだが、嫌な予感がする。


「見に来たというのは、あまり正確ではありませんわ。私、この家に住んでおりますから」

「む? どういうことだ、それは?」

「この家の権利って、俺たちがもらったはずですけど……」

「ええ、建物については皆様のものですわ。ですが、土地については我が公爵家が九九九年契約で貸しだすことになっていましたわよね?」


 そう言われて、交わした契約の内容を思い出す。

 確かに、執事さんから渡された契約書には「九九九年間、無償で貸与」とあったはずだ。

 でも、それはあくまで書類上の話。

 実際には無償提供されたと思ってくれてかまわない、と説明されていた。


「ええ」

「そう言えばそうだったけど、まさか……家賃でも取るつもり?」

「失礼ですわね、仮にも公爵家がせこいことは致しませんわ! ただし、一応は貸与という体裁をとっておりますので、管理人として私が来たんですの」

「く、話がうますぎるとは思ったが……!」


 額に手を押し当てるツバキさん。

 それに続いて、テスラさんがふうっとため息をつく。

 二人とも、完全に「やられた」というような顔をした。

 シェイルさんに至っては、怒りでやや頬が赤い。


「あんた……! そんなにまでして、あたしたちとつながりを持ちたいの?」

「正確には、ラース様とですわね。適性Sランクと聞いた時から興味はありましたが、陸帝獣の一件を経てますますそれが強まりましたの。それで、ちょっとした細工をさせていただきましたわ」


 チラッと舌を出しながら、こちらを見てくるシスティーナさん。

 いやいや、俺とつながりを持ちたいからってそんな……!

 言われて悪い気はしないが、逆にちょっとびっくりしてしまう。

 だって、いくらSランク適正とはいえ公爵令嬢直々になんてなぁ。


「……システィーナさん、本気ですか?」

「もちろん。ああ、でもご安心くださいな。皆様の生活を邪魔するつもりは一切ございませんから。屋敷の庭に離れがございますので、私はそちらで暮らします」

「いや、そういうことじゃなくて! どうしてそこまで俺に? そりゃ、強い魔導師ってのは重要なんでしょうけど……」

「そこを言わせるのは、少し野暮ではなくて?」


 そう言ってはにかむシスティーナさん。

 彼女はそのまま俺に近づいてくると、サッと手を握る。

 伝わる柔らかな感触に、俺は一瞬、ドキッとしてしまった。

 公爵令嬢という身分を抜きにしても、システィーナさんは目の覚めるような美人である。

 何も感じないわけがない。


「ちょ、ちょっと!?」

「屋敷の中を案内いたしますわ! 皆様もどうぞ!」


 優雅に礼をすると、システィーナさんが歩き出す。

 その手に引っ張られて、俺は屋敷の敷地内へと足を踏み入れるのだった――。


 ――〇●〇――


「すごい」

「これは……大したものだな」


 エントランスに入ると、たちまち俺たちはその豪華さに圧倒された。

 一点の曇りもなく磨き上げられた大理石の床。

 壁や柱には金の装飾がなされ、まばゆいほどである。

 さらに吹き抜けの天井からは巨大なシャンデリアが吊り下げられ、煌びやかな雰囲気をいっそう盛り立てている。

 質実剛健とした城とは打って変わって、ずいぶんと豪華絢爛なつくりだ。


「驚かれたでしょう? この屋敷はもともと別の貴族が所有していたのですが、その貴族というのがとても派手好きでして。……まあ、それが原因で屋敷を手放す羽目になったのでほめられた話ではありませんけどね」

「へえ、なるほど……。でもこれは、落ち着かないかもなあ」


 雰囲気に圧倒され、ついつい庶民的な感想をこぼしてしまう。

 それを聞いたシスティーナさんが、くすっと上品に笑う。


「すぐになれますわ。私も初めて来たときは落ち着きませんでしたけど、今はもう平気ですもの」

「そういうもんなんですかね……」

「さあ、どんどん行きましょう。次はどの部屋に参ります?」

「そうですね……。みんなはどこへ行きたいですか?」

 

 テスラさんたちの方を見ながら言う。

 すると彼女たちは、少し考えて――


「私はお風呂がいいわ! 一番大事よ!」

「図書室。ある?」

「私は厨房が見たい。使い勝手を確認させてくれ」

「あら、見事に三人で別れましたわね……。では!」


 パンパンと手を叩くシスティーナさん。

 たちまち奥の扉が開かれ、侍女服を着たメイドさんたちが姿を現した。

 彼女たちは一列に並ぶと、一糸乱れぬお辞儀を見せる。


「おお!」

「これだけの屋敷となりますと、皆様だけで維持管理していくことは難しいと思いまして。あらかじめ、手をまわしておきましたわ」

「それはどうも、ありがとうございます!」

「いえいえ。ではあなたたち、皆さまをご案内して差し上げて」

「はい!」


 これまた、メイドさんたちはそろって返事をした。

 さすが、公爵令嬢のシスティーナさんが引っ張ってきただけのことはある。

 実に訓練が行き届いているようだった。


「では、私たちはそうですね……。寝室にでも行きましょうか」

「寝室!?」


 声が跳ね上がる。

 し、寝室って!

 いくらなんでもそれはどうなんだ!?

 

「そ、それは! さすがにどうなんですか!?」

「え?」

「あっ! ……別に、何でもないです」


 真顔で返してきたシスティーナさんに、すぐさま声が小さくなる。

 うん……さすがに、俺の考えすぎだったな。

 俺が笑ってごまかそうとすると、スウっとテスラさんが近づいてきて言う。


「妄想し過ぎ」

「ははは……お恥ずかしい」

「……したいのなら、いずれ考えなくもない」

「はえ?」


 どういう意味だ?

 俺はすぐさま聞き返そうとしたが、テスラさんは既に立ち去っていたのだった――。


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