第五十四話 リーダー
「はい、こちらが今回の報酬です!」
数日後、魔法ギルドにて。
ホリーさんが差し出してきた金貨の山に、軽く目を見張る。
さすが公爵様だけあって、報酬の額は半端ではなかった。
システィーナさんの治療と陸帝獣の討伐、合わせて五億ルーツ。
陸帝獣の素材の売却益が含まれているとはいえ、凄い金額である。
「ラースさんは、次に大きな依頼を成功させればAランク昇格です! 頑張ってください!」
「はい!」
「ま、この調子ならすぐだろう」
そう言ってほほ笑むツバキさん。
確かに、この調子ならすぐにでもランクアップできそうだ。
ま、そうやって調子に乗ると危ないんだけども。
「お金はパーティーの口座に入れておいて」
「かしこまりました」
「それから、本拠地の移動申請を出したい」
「えッ?」
ホリーさんの目が、大きく見開かれた。
彼女はまぶたをこすると、戸惑った様子でこちらに前のめりになる。
「移動申請って、この町を出られるんですか!?」
「あれ、聞いてないの? 今回の報酬で、公爵様から屋敷をいただけることになったのよ」
「そうだったんですか。場所はどこに?」
「王都八番街区」
「おお!!」
ホリーさんのテンションが上がる。
やはり、王都八番街区のネームバリューは凄いらしい。
彼女は目を輝かせると、かなり食い気味に尋ねてくる。
「凄いじゃないですか! 皆さんはいつか王都へ行かれると思ってましたけど、こんなに早いなんて!」
「まあ、偶然がいろいろと重なった結果ですよ」
「八番街区の土地と言ったら、買い占められててほとんど手に入らないんですよ! そこをいただけるなんて、公爵様にさぞ気に入られたんですね!」
「ええ、主にラースが」
そう言うと、テスラさんは俺の方へと視線を向けた。
確かにそうなんだろうけど、そういう言い方をされると……ちょっと照れてしまうな。
「俺が騎士になることを断った代わりに、屋敷をもらうことになったんです」
「そういうことだったんですか! さすがはラースさん、公爵様にまで認められるとは!」
「いやいや、買いかぶりすぎですよ」
「まあ、そういうわけで拠点を移すことになった。処理を頼む」
「分かりました。ただそうなると、パーティー名の登録が必要ですね。あとリーダー登録も」
「そう言えばそうだった」
ぽんと手を叩くテスラさん。
言われてみれば……俺たちのパーティーって、名前がまだなかったな。
割と流れで結成が決まったので、そういうところがまだしっかりしていなかった。
「名前ねえ。どうしようかしら?」
「かっこよくしたい」
「私はそうだな……覚えやすいのがいいな」
ああだこうだと、みんなで意見をぶつけ合う。
しかし、メンバーの個性が強いせいかなかなか決まらない。
テスラさんがかっこよいのがいいと言えば、シェイルさんが可愛いのがいいと反発し。
ツバキさんが渋くいきたいと提案すれば、俺が華はあったほうがいいだろうと抵抗し。
こうして揉めることしばらく。
意見を出し尽くした俺たちは――
「朝焼けの杖で、お願いします」
「かしこまりました。ちなみに、由来は?」
「魔導師のパーティーなので杖、朝焼けは朝日のように上っていけたらなと」
「了解です。では早速登録しますね」
「さて、問題は……リーダーか」
「それはもう決まってる」
きっぱりと言い切ったテスラさんは、そのまま俺の方を見た。
えッ……!?
俺が、俺がリーダー?
戸惑った俺は、すぐさまツバキさんやシェイルさんの方を見やる。
すると彼女たちもまた、俺を見返して笑う。
「もう実質、リーダーみたいなもんじゃない。戦いのときはラースがいつも決めてるし」
「そうだ。ラースが一番適任だろう」
「でも俺、この中じゃ一番ランクが低いですよ! いいんですか?」
「ランクはあまり関係ない。それに、どうせすぐにラースも同じになる」
「まあ、そうかもしれないですけど……」
そうだとしても、今はまだ俺の方がランクが低い。
魔導士としての経験も浅い。
ここは、歴戦の強者であるテスラさんかツバキさんがなるべきではないだろうか?
二人とも経験豊富そうだし。
「俺としては、テスラさんを推すんですけど」
「私、あんまり向いてない」
「じゃあ、ツバキさんは?」
「私もどちらかというと、一匹狼な気質なのでな」
「うーん……」
「ちょっと、私は!?」
スルーされたシェイルさんが「あれあれ!?」と声を上げる。
シェイルさんの場合、二人に比べると経験とか浅そうだからなあ。
それにそもそも、リーダーという感じがあんまりしないし。
こういうところで候補としてあげるのは……うん、ない。
シェイルさんはそういうキャラクターだ。
「……ま、私もラースが向いてるとは思うわ。というか、私たち三人の誰かにすると揉めそうだし」
「え? そうなんですか?」
「今でこそ仲良くやってるけど、昔はライバル同士だったからね」
シェイルさんの言葉に、ほかの二人もうなずく。
言われてみれば、何となくそんな気配はあるな。
そういうことなら、三人の中でリーダーを出してもらうのは、あまり良くないかもしれない。
「分かりました。では……俺がリーダーをやります!」
「よろしく」
「頼んだぞ」
「頑張りましょ!」
口々に声をかけてくれる三人。
こうして俺は、朝焼けの杖のリーダーとなったのであった――。




