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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第五十話 千剣乱舞

「さあ、来いッ!!」


 岩陰から飛び出すと、陸帝獣の前に立ちふさがる。

 獲物を見つけた巨体が、たちまち迫ってきた。

 大きく裂けた口が、俺を丸呑みにしようとこれでもかと開かれる。

 

「今だッ!!」


 やるしかない!

 地面を蹴り、思い切り宙へと飛び出す。

 そのまま赤黒い口の中へと、一気に入りこんだ。

 ドワンッと肉をたわませ、舌の上に着地。

 そしてすぐさま牙の裏側へと避難すると、魔力の塊がないかを探る。

 どこだ……どこだ……?

 

「……変だな」


 システィーナさんの言っていた魔力の塊が、まるで見当たらない。

 いったいなぜだ?

 考えを巡らせるが、そうしている間にも口が閉じ始めた。

 やばい、脱出しないと飲み込まれる!

 大慌てで逃げようとするが、時すでに遅し。

 口の中がいきなり傾き、足が滑る。


「げッ!」


 体が宙に浮き、変な声が漏れ出た。

 無重力。

 下を向けば、喉の奥に黒々とした闇が広がっている。

 飲み込まれる!

 とっさにファイアーボールをぶっ放そうとした。

 だが、魔力の集中が間に合わない。

 そうしている間にも闇は迫ってきて、一気に生暖かい感触が体を包む。


「ぐはッ!!」


 やがて肉の間を通り抜け、少し広い場所へとたどり着いた。

 どうやら、喉を抜けて食道へと到達したようだ。

 身体が、唾液でぬれて気持ちが悪い。

 死んではいないが、気分は最悪だ。


「まずいな、完全に食われちまった……」


 本来ならば、口に入った段階であごの裏にあったという魔力の塊を叩くはずだった。

 それに合わせて外からも攻撃してもらい、内外からの同時攻撃という寸法である。

 だったのだが、完全に腹の中へと入ってしまった。

 どうしたものか……。

 

「仕方ない、とにかく吐かせるしかないな!」


 魔力を掌に集めると、全力でファイアーボールをぶっ放す。

 金色の炎が、たちまち一直線の軌道を描いた。

 たちまち肉壁にぶつかったそれは、風穴を開けようと進む。

 しかし――


「おわッ!?」


 伸びた壁によって、ファイアーボールが跳ね返された。

 慌ててそれをよけると、今度は奥の壁にはじかれる。

 こいつの腹、いったいどういう構造してんだよ!?

 縦横無尽に往復するファイアーボールに、たちまち翻弄されてしまう。

 クッソ、内側からは破れないってか!

 

「ウォーターボールッ!!」


 ファイアーボールめがけて、水の塊をぶっ放す。

 炎と水がぶつかり、相殺される。

 衝撃波。

 白い水蒸気が、溢れた。

 その熱気から逃れるようにして、俺はさらに奥へと足を進める。

 やがて通路は広くなり、視界が一気に開けた。

 胃袋に到達したようだ。


「これは……!」


 眼前に広がる酸の海。

 その大きさは、もはやちょっとした湖のようだった。

 端が良く見えないぐらいである。

 こいつ……腹の中に異空間でも持ってるのか?

 外観と内部の大きさが、明らかに釣り合っていない。

 

「厄介だな。どうやって脱出すればいいんだ……」


 このまま腹の中を進んで、肛門から脱出するしかないか?

 でも、なんだか汚いよな……。

 そもそも、酸の海を泳いでいけるはずがない。

 思い切って深みへ進めば、たちまち熱に身がすくむ。

 

「あちゃっ……! まずいな!」


 靴から煙が上がり始めた。

 靴底が少しずつ溶かされているようだ。

 このままだと、陸帝獣の栄養にされちまう!


「落ち着け、こういう時こそ考えないと……!」


 足に不快な熱を感じながらも、意識を集中させる。

 ここから脱出するには、いったいどうすればいい?

 考えろ、思考を止めるな。

 瞳を閉じて、思念を深く深く沈めていく。

 

「やはり……胃袋を破るしかないな」


 そうつぶやくと、視線を上げる。

 やはり、どうにかこうに過去の胃袋を破らなければ未来はないようだ。

 だが、普通にやったのではさっきと同じことの繰り返しだ。

 何とかしなければいけない。


「ライトニングに切り替えるか? いや、こんな水気のあるところだといけないな。じゃあ、ファイアーボールを連発して……」


 ドーム型をしている肉壁の一番高いところを見上げる。

 恐らく、あそこが一番薄くて破れやすい部分だろう。

 あの場所をめがけて、ひたすらファイアーボールを連打すればそのうち破れるだろうか?

 その可能性はありそうだが、跳ね返されたファイアーボールで大変なことになりそうだな。


「炎の大剣なら、何とか切り裂けるか? でも、あれが跳ね返されたらとんでもないことになるぞ……」


 フォルミードに向かってぶっ放した炎の大剣。

 あれならば、胃袋を貫くことができるかもしれない。

 だが、もし跳ね返されたら。

 あんなのが縦横無尽に飛び交ったら、流石に回避しきれない。

 自分の放った技で自滅してしまう。


「いや、待てよ。威力を絞ってもっとコントロール重視にすれば……ついでに数も増やして……」


 大剣を自由自在に操るのは、今の俺には不可能だ。

 だが、もっと小さな剣ならばできる。

 一つ一つの剣を小さくして、その代わりに数を増やしたらどうだろうか。

 一つや二つではなく、十や二十といった単位で。


「できる! できるぞ、理論的には!」


 小さなナイフほどの大きさの刃。

 それを無数に展開し、螺旋を描くようにしてぶつけ続ける。

 こうすれば、跳ね返される危険もほとんどなく安全だ。

 胃袋をぶち抜ける可能性も高い。

 しいて言うなら問題は――


「俺の集中力か」


 この腹を小さな刃でぶち抜くには、おそらくそれなりの時間がかかることだろう。

 その途中で、もし俺の集中が途切れれば……剣の群れが雨あられとなって襲い掛かる。

 そうなってしまえば、防ぐすべはない。

 

「賭けだな。でも、やるしかないか」


 靴がかなり溶けかけている。

 恐らく、あと数分もすれば胃酸が足にしみてくることだろう。

 そうなってしまえば、精神を落ち着けることすらままならない。

 その前に決断するしかなかった。


「やるか……! 千剣乱舞ッ!!!!」


 宙に浮かぶ魔法陣。

 そこから無数の剣が放たれ、金色の軌跡を描き出す。

 すると――


「む……なんだ?」


 剣に押し上げられ、大きく伸びた肉壁。

 その内側で、何かがうごめいたのだった――。


総合評価五万ポイントを超えることが出来ました!

これも読者の皆様の応援のおかげです、これからもよろしくお願いします!

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