第四話 初依頼!
「テスラ。今日からあなたの担当」
恐ろしくサッパリとした自己紹介に、俺は面食らってしまった。
魔法ギルドに登録を済ませてから三日。
俺を指導する教導官が決まったと言うので、さっそく会わせてもらったらこのざまである。
しかもこの人……黒マントだ。
見た目、十代後半ぐらいにしか見えないのにSランクらしい。
「お、俺はラースです! よろしくお願いします」
「そう」
これまた、ひどくそっけない返事が返ってくる。
ヤバい、会話がさっぱり続かねえ……!
俺は助けを求めて、カウンターに立っているホリーさんを見やった。
すると彼女は、苦笑しながらテスラさんに言う。
「テスラさん、もう少し会話を続けてあげないと。ラースさん、ちょっと戸惑ってますよ」
「わかった、努力はしてみる」
「ははは……。テスラさんは、もともと口数の少ない方なんです。ラースさんに対して悪意があるとかではないはずなので、安心してくださいね」
本当だろうか?
流石にここまでそっけない対応をされると、何か思うところがあるのではないかと考えてしまう。
するとテスラさんは、俺の内心を見透かしたように言う。
「私は誰に対してもこの対応。平常運転だから気にしない」
「は、はあ」
「むしろ、機嫌は良い。あなたに対して、少し興味あったから」
「興味ですか? どうしてまた」
テスラさんは仮にもSランクのはずである。
それがどうして、何の肩書もない新人なんかに興味を持つんだろう?
というか、そもそもなんで俺のことを知っているんだ?
「あなたがファイアーボールを暴発させたとき、たまたまギルドに居た。それで話を聞いたら、新人が来たってことで教導官を志願した。あんなの、普通じゃないから」
「なるほど、あれを見てたんですか……」
俺としては、結構恥ずかしい記憶である。
あともうちょっとで、ギルドをブッ飛ばすところだったからな……。
見ていたと言われると、ちょっと顔が赤くなる。
「ラースさん、別に恥ずかしがることないですよ。新人さんにはよくある失敗なんですから」
「……そうなんですか?」
「ええ。普通はもうちょっと……スケールは小さいですけどね」
「やっぱり!」
「ははは……。まあ、何はともあれです! Sランクの方が教導官になってくれるなんて、本当に凄いことですよ! 特に、テスラさんは七賢者にも手が届くと言われるほどの方ですし!」
ホリーさんがそう言うと、テスラさんは黙ってピースをした。
七賢者と言うのは、これまたよく分からないワードだけど……。
とりあえず、テスラさんが凄いのは間違いないらしい。
言われてみれば、マントだけではなく持っている杖も実に豪華だ。
美しい黄金色に輝き、先端に大きな紅い宝玉があしらってある。
売れば、金貨百枚は下るまい。
「さあ、教導官の方も決まったところでマントの授与です! どうぞ!」
「お、ありがとうございます!」
差し出された白いマントを受け取ると、しっとり柔らかな質感であった。
これ……ひょっとしなくても、かなり高いものなんじゃないか?
そのまま羽織ってみると、着心地は抜群に良い。
身分やランクを示す装飾品としてだけではなく、防具としての実用性もかなりありそうだ。
「やっぱりラースさんは、魔導師向きですね! 革の鎧よりも似合ってますよ!」
「ありがとうございます!」
「ん、じゃあそろそろ依頼に行く。ついて来て」
「はい!」
スタスタっと歩くテスラさん。
彼女の後に続いてカウンターを出ると、そのまま廊下をゆっくりと進む。
やがて、通路の突き当りにある大きな扉へと差し掛かった。
それを開くと、たちまち喧騒が耳に飛び込んでくる。
「うわ……結構居るなぁ!」
扉の奥に広がっていたのは、開放感のあるホールのようなスペースだった。
そこの壁際に、ざっと見ただけで十人ほどの魔導師たちが集っている。
壁が丸ごと掲示板になっているようで、皆、張り出された依頼用紙を食い入るように見ていた。
「こちら側にも出入口がある。特別な用がない限り、普段はこっちから」
「へえ、そうだったんですか。道理で、あっちは人がほとんどいなかったわけだ」
「もともと、人が少ないのは確か。聞いた話だと、冒険者ギルドの百分の一以下。少数精鋭」
「なるほど、それで新人育成とかやってるんですね」
ようやく、魔法ギルドの対応に納得できた。
そりゃ百分の一しか人が居なければ、一人を大切にするわけだ。
俺がうんうんと頷いていると、テスラさんがマントの袖を引っ張る。
「初依頼、どうする?」
「そうですね、俺は魔法ギルドには詳しくないので……テスラさんにお任せします」
「分かった」
小さくうなずくと、テスラさんはそのまま掲示板の前へと向かった。
そしてピョンッと驚異的な跳躍を見せると、上の方に貼られていた依頼用紙をはがす。
「これが良い」
「どれどれ……のわッ!?」
依頼用紙に大きく書かれた文字に、俺はたちまち叩きのめされた。
いくらなんでも、初めてでこれは無いだろ!
俺を殺す気かッ!!
「いやいやいや! 何ですか、『フォレストドラゴン討伐』って! 初心者用じゃないですよ!」
「あなたの実力を見るには、これぐらいでちょうど良い」
「ダメですって! 俺、ゴブリンにも負けるぐらいですから!」
ブンブンと首を横に振り、必死で拒否しようとする俺。
しかし、テスラさんは全く動じなかった。
「大丈夫。いざという時は私が何とかする」
「そうは言われても! 俺、魔法だってまだほとんど使えないんですよ!」
「実地で覚える。ドラゴンと戦う前に、森の魔物で試せばいい」
「そんなんで、ドラゴンに通用しませんって! ドラゴンですよ、ドラゴン!!」
俺が声を大にして言うと、テスラさんは何故か怪訝な表情をした。
そして――
「魔導師なら、ドラゴンぐらい倒せて当たり前。初心者用より、ちょっと上程度」
そうやって、はっきり言ってのけたのだった――。