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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第四十八話 陸帝獣

「よし! あともう少し!」


 出入り口を封鎖したところで、グッとガッツポーズをする。

 陸帝獣を追い詰めるべく、活動を始めてからはや二日。

 四十七か所ある入り口のうち、三十九か所を塞ぐことができた。

 残るはわずかに八か所。

 だが、いずれもダルム山脈の山頂付近にある。

 向かうには骨が折れそうだった


「どうします? 次の場所、かなり遠いですわ」


 そう言うと、システィーナさんは視線を上げて遥か彼方にある峰々を見た。

 白く雪化粧したそれらは険しく、なかなか登れそうにない。

 切り立った崖が、すべてを拒むかのようだった。


「流石に飛んでいきましょう。あんなのまともに登れやしないわ」

「そうですね。さすがに体力が持たないですよ」

「ちょっと待って。上はかなり、風が強い」


 テスラさんが、空の雲を指さして言う。

 細長く伸びたそれは、下から見ていてわかるほどの速度で動いていた。

 西から東へ、明らかに風に流されている。


「なるほど。それなら、テスラのゴーレムの方がよさそうね。頼んだわ」

「任せて」


 テスラさんの手がたちまち地面にたたきつけられ、魔法陣が展開される。

 大地が盛り上がり、あっという間に巨大な土くれの狼が姿を現した。

 

「この子なら山越えも楽々。さ、背中に乗って」

「はい!」


 テスラさんの後に続いて、次々と乗り込む俺たち。

 最後に、システィーナさんがひょいっと背中にまたがる。

 彼女は最後尾にいた俺の背中に、サッと手をまわしてきた。


「ちょ、ちょっと!?」

「こうしないと不安定なんですの」

「そ、それは分かりますけど……」

「お気になさらずに」


 にこやかに笑うシスティーナさん。

 そうは言われても、健全な男としては気になってしまう。

 背中のぬくもり。

 特に、つぶれた柔らかな触感に鼓動が早くなる。


「……システィーナ殿。仮にも公爵令嬢なのですから、そういうのは慎まれては?」

「あら、別にそんなつもりではありませんわよ。考えすぎではなくて?」

「そうでしょうか?」

「そうですわ。ラースさんのことを考えているから、そう思ってしまうんでしょうけど」

「なッ!?」


 ツバキさんの声が上ずった。

 肩が跳ね上がり、体が震える。

 表情は分からないが、何やら随分と動揺した様子だ。


「ツバキ、乱され過ぎ。それよりシスティーナさん、このあたりで一つ聞いておきたい」

「何かしら?」

「陸帝獣の封印を解いた者に、心当たりはない?」

「ああ、そのことですの。私たちもいろいろと調べたのですが……はっきりとは。ただ、黒魔導師が絡んでいるようですわ」

「やはり」


 言葉を詰まらせるテスラさん。

 予想はしていたが、あまり聞きたくないワードだった。


「黒魔導師どもめ……。最近、急に活動が活発になってきたな」

「ええ。一時期はおとなしかった」

「……そのことなんですが、ある筋からちょっとした情報を仕入れていますわ」

「ちょっとした情報?」

「ええ」


 もったいぶるように、深くうなずくシスティーナさん。

 彼女は振り向いたみんなの顔を見渡すと、軽く深呼吸をして言う。


「アザロフの星という団体を知っています?」

「知らない」

「私も、初めて聞くな」

「最近結成された、黒魔導師の団体だそうですわ。総帥の名のもとに、災厄の復活を企んでいるのだとか」

「災厄っていうと……初代賢者が封じたっていうあの?」


 シェイルさんの声が震える。

 ――災厄。

 それは遥か古の時代に、初代賢者が封じ込めたという謎の存在だ。

 万の魔を統べる帝王。

 狭間より現れし邪悪の神。

 堕ちた創造主。

 その正体については諸説あるが、いまだにはっきりとはしてない。

 ただ一つ言えるのは、とんでもなくヤバいってことぐらいだ。

 これまでの相手とは、まるっきり次元が違う。


「ええ。あちこちで起こしている騒動は、そのための準備段階なのだとか」

「大変じゃないか! そのことは、ギルドは知っているのか?」

「流石に大ごとですので、父を通して秘密裏に連絡を取っていますわ。まもなく、対策会議が始まるかと」

「それにしても、大変な事態だな。なぜそんなことに……」

「なんでも、凶星が近づいているのだとか。それ以上のことは、我々の情報網ではわかりませんでしたけど」


 凶星か……。

 さっぱり聞いたことのない言葉に、俺たちは揃って顔を見合わせる。

 

「何か思い当たるか?」

「さあ」

「私もわからないわ」

「俺も」

「うーむ……いずれにしても、厄介だな。賢者がそろそろ代わるという時期なのに」


 しかめっ面をするツバキさん。

 彼女のため息につられるようにして、全員の顔つきが渋くなる。

 黒魔導師たちがこれから何をやらかすのか。

 少なくとも、ろくでもないことだけは確かそうであった。


「まあいいわ。今はそれより、陸帝獣よ!」

「……そうだな!」

「テスラ、早く出して!」

「了解!」


 大地を蹴飛ばし、一気に走り出すゴーレム。

 力強い四肢が、岩だらけの大地や崖を軽やかに踏み越えていく。

 その速さたるや、まさに風のごとし。

 見る見るうちに山を駆け上り、空が迫ってくる。

 そして十分ほどで、問題の入り口へとたどり着いてしまった。


「おお……今までで一番デカイかも!」


 現れた入り口の大きさに、息をのむ。

 山がそこだけ、地底に向かってえぐり取られたかのようだった。

 山頂に続く尾根が円く途切れて、黒々とした穴がぽっかりと開いている。

 地底世界へと延びるそれは、さながら冥界への入り口のようだ。


「む! 何か、来る!」

「え? ……あ、ほんとだ!」

「これは……!」


 大地が揺れる。

 雪が舞い上がり、煙となってあたりに漂う。

 沈黙。

 迫りくる存在感に、その場にいた全員が圧倒され、言葉を失った。

 やがて、巨大な穴から影が這い出して来る。


「こいつが……なんて大きさだ!」


 姿を現した陸帝獣ベヒモス。

 さながら動く山脈のようなその姿に、俺は思わず息を飲むのだった――。


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