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第四十六話 報酬と千年洞窟

「……すげえ!」


 白いクロスの敷かれた長テーブルに、次々と料理が運ばれてくる。

 その豪華さときたら、今まで見たことがないほどであった。

 山海の珍味を一堂に集めた、という形容がふさわしい。

 中央に置かれた巨大な鳥の丸焼きからは、ある種の風格すら感じる。


「どうぞ、たくさんお食べになってくださいね!」

「ありがとうございます!」


 料理を勧めてくるシスティーナさんに、恐縮しながら頭を下げる。

 彼女の治療を終えてから、およそ半日。

 俺たちは、公爵家の城で盛大にもてなされていた。

 システィーナさんの治療のお礼と、陸帝獣討伐の歓迎を兼ねてのことだ。


「……それで、さっきの話は本当?」


 切り分けた鳥肉をかじると、テスラさんが話を切り出す。

 翡翠の瞳が、スッと細められた。

 鋭いまなざしを向けられたシスティーナさんは、サッと扇で口元を抑えると笑う。


「騎士の話ですか?」

「ええ。陸帝獣を討伐したら、ラースを騎士にするって本気?」

「もちろんですわ。私ではなく、お父様が陛下にお頼みすることになりますが」

「……それはつまり、ラースを国で飼うということか?」


 向かいに座っていたツバキさんが、語気も鋭く言う。

 確かに、騎士の位を賜るということは王国貴族の末席に加わるということ。

 そうなってしまえば、国の意志に反することは出来ない。

 国で飼う――極端な言い方をしてしまえば、そうだった。


「ラース様のことを、国で抑えておきたいという気持ちは確かにありますわ。あれだけの力、野放しにしておきたくはないですもの。ただ、八割は純粋な善意でしてよ」

「善意?」

「そうですわ。私のことを完璧に治療していただきましたし、そのうえで陸帝獣の討伐にまで協力していただいたら、金銭ではお礼しきれませんもの。何か特別な報酬が支払われて当然ですわ」

「なるほど、それで騎士ってわけ。まあ、名誉欲のある奴なら死ぬほど欲しいだろうけど……」


 そう言うと、ゆっくりこちらを見やってくるシェイルさん。

 突然のことに、俺は戸惑ってしまって目をぱちくりとさせる。

 

「……まあ、ラースはそういう欲からは一番遠いでしょうね」

「え?」

「あんた、貴族とかなりたくないでしょ?」

「まあ、義務とか大変そうですからね……。身軽でいたいです」


 貴族といえば特権階級だが、その分だけ責任も大きい。

 王国騎士には、有事の際には必ず参戦しなければならない義務が課せられていたはずだ。

 国民の一人として愛国心がないわけではないが、国にいろいろと束縛されるのは御免こうむりたい。

 

「そうでしたか。では、別の方法を考えさせていただきましょう」

「おお! だったら、家と良いんじゃないか? 王都八番街区の」

「いいわねえ! 私、前々からあのあたりに住みたかったわ!」

「……何ですか、その王都八番街区って」

「魔法ギルド本部のある場所。この地区にホームを構えるのが、魔導師パーティのステータス」

「へえ……」


 アクレの街に住んでいたせいか、初めて聞く話だった。

 というか、魔法ギルドの本部が王都にあること自体が初耳だ。

 でも家ぐらい、自分たちで買えばいいんじゃないのか?

 そう思っていると、見透かしたようにテスラさんが言う。


「八番街区の土地は、常に売り切れ状態。何かしらのコネを使って、売り出される前に情報を入手しなければ入手不可能」

「なるほど。それで、特別な報酬ってわけですか」

「分かりましたわ。では、もし陸帝獣を退治していただいた暁には八番街区の屋敷を手配いたしましょう」


 おお、さすがは公爵令嬢!

 気前よく決断したシスティーナさんに、俺たち四人の目が輝く。

 既に、金銭は十分に持ち合わせている身。

 それよりも、こういった特別な報酬の方が数段嬉しかった。


「ただし、あくまでも陸帝獣が討伐できればの話ですわ」

「もちろん、わかってます! それで、その陸帝獣はどこにいるんですか」

「我がバラド公爵領の西端にいますわ。ダルム山脈から領内に侵入してきたところを、わたくしが撃退しましたの」

「なるほど、ということはダルム山脈にいる可能性が高いな」

「ええ。厳密には……ダルム山脈の千年洞窟にいると思われます」


 そう言ったシスティーナさんの口調は、やけに重々しかった。

 千年洞窟という単語には、何か特別な意味があるらしい。

 いったい、何だろうか?

 俺たちは互いに顔を見合わせると、緊張感から唾を飲む。


「……千年洞窟というのは、ダルム山脈の地下に広がる大空洞のことですわ。その広さは半端ではなく、一度迷うと千年は外に出られないって言われていますの。洞窟というよりはもはや、地底世界ですわね」

「そりゃまた……厄介な場所ね」

「ええ。さらに陸帝獣はもともとここの主でして。内部を知り尽くしていますわ」

「天然の大迷宮、しかも敵にとっては勝手知ったる庭ってことか」


 こりゃ、相当俺たちにとって不利な場所だな……。

 というか、下手に出かけたら迷子になって出られなくなりそうだ。

 俺、そこまで方向感覚に自信はないし。


「外に出てくるのを待って、討伐するわけにはいかないんですか?」

「千年洞窟には、入り口が数百か所もありますの。外で待ち伏せて遭遇できる可能性はかなり低いですわ。かといって、放置しておけば我が領内は荒らされ放題になってしまいます!」

「……思った以上に厄介だな。どうする、ラース?」

「ううーん……そうですねえ」


 こういう場合、いったいどうすればいいんだろう?

 俺は腕組みをすると、額にしわを寄せて考え始める。

 思考が巡り、脳がフル回転を始めた。

 そして数分後――


「そうだ、単純な方法があるじゃないですか!」


 とある方法を思いついた俺は、ぽんと手をたたくのだった――。


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