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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第四十五話 病の理由と古の獣

「おっらあああァ!!」


 布団に手を押し当て、全力で魔力を注ぎ込む。

 金色の輝きが、掌から放たれ一気に広がっていった。

 空っぽだった器が、見る見るうちに満たされていく。


「おおおッ!!」


 衰弱し、熱も失ってしまっていた公爵令嬢の肉体。

 それが少しずつ光を帯びて、暖かくなっていく。

 ――トクン、トクン。

 弱まっていた心臓の拍動が、再び強まり始めた。

 布団の隙間からかすかにのぞく横顔。

 その白い頬に、次第に赤みがさしていく。


「すばらしい、これならば……!」

「仕上げッ!!」


 最後にもう一押し、力を籠める。

 公爵令嬢の身体が、にわかに強い光を帯びた。

 枕のそばから、美しい金髪がゆらりゆらりと立ち上がる。

 やがてそれが収まると、令嬢の瞼がゆっくりゆっくりと開かれた。

 抜ける空を思わせる青の瞳が、冴えた光を放つ。


「んが……わたくしは……」

「システィーナ!!」


 起き上がった令嬢――システィーナさんに向かって、すぐさま飛び込む公爵様。

 ボンっと低い音がして、布団が跳ねる。

 システィーナさんはいきなり飛び込んできた父親に、戸惑いを隠すことができなかった。

 形のいい眉が、疑問で吊り上がる。


「な、なんですの!?」

「ああ、よかった! 本当によかったぞ……」

「お父様、あの、ですから……」

「あなたは、魔欠病でかなり危ない状態になっていたんですよ」

「え、わたくしが? 言われてみれば……」


 額に手を当て、ふーむと唸るシスティーナさん。

 どうやら、目覚めたばかりで一時的に記憶が混乱しているようである。


「ああ、そうでしたわ! 私はヤツの討伐に出向いて、そこで――」

「そうだ、無茶をして魔欠病になったのだ。それをこの方に、救っていただいたのだよ」

「そうでしたの! ありがとうございますわ!」


 システィーナさんは布団をはだけてこちらに振り向くと、深々と頭を下げた。

 ――タプン!

 大きく揺れたパジャマの胸元に、思わず目を奪われる。

 よくよく見ればこのシスティーナさんという人物、目が覚めるような美人である。

 スタイルも、すごくゴージャスな感じでメリハリがはっきりとしている。


「ありがとうございますわ! お礼は後ほど、たっぷりと差し上げます」

「は、はい!」

「いやはや信じられん、まさかこの場で助けてもらえるとは。君には本当に感謝するよ!」

「ありがとうございます!」


 公爵様とシスティーナさんの双方に握手を求められ、すぐに応じる。

 まさかこんなに上手くいくとは!

 我ながら気分が良かった。


「ところで、システィーナさん――失礼! システィーナ様はどうして魔欠病なんかに? 普通はならないですよね?」

「呼び捨てで良いですわ。実は、領内に厄介な魔物が出現しまして。それの討伐に向かったところ、無茶をし過ぎてしまいましたの」

「厄介な魔物?」

「ええ。陸帝獣ベヒモスですわ」


 りくていじゅう?

 聞きなれない言葉に、俺はとっさにテスラさんたちの方へと視線を走らせた。

 すると彼女たちも知らない単語だったらしく、口元をへの字に曲げている。


「なんなんですか、そいつは」

「古に封じられた、大地の力を司る獣ですわ。その力は絶大で、岩に覆われた身体はいかなる攻撃をもはじきますの。もともとは山に封じられていたのですが、最近になって何者かが復活させたようで……」

「まさかそんなことが! どうして、すぐにギルドへ連絡しなかったんですか!」


 すごい剣幕で詰め寄るツバキさん。

 無理もない、それほどの大事ならばすぐに魔法ギルドへ話を通すのが普通だ。

 するとシスティーナさんも、負けじと言い返す。


「我がバラド家は五百年続く武門の家! 私も、ゆくゆくは魔導師団の長となる身ですわ。ですから、ギルドに頼らず自分たちで討伐しようとしたんですけれども……」


 だんだんと声が小さくなるシスティーナさん。

 討伐できると思って行動しては見たものの、結局できなかったことが恥ずかしくて悔しいらしい。

 かすかに、歯ぎしりの音も聞こえる。


「こうなっては、致し方あるまい。魔法ギルドに、すぐ正式な依頼を出そう」

「……そうですわね」

「だったら、俺たちがその依頼も受けましょうか?」

「ええッ!?」


 俺の提案に、公爵様はまたしても驚いた表情をした。

 システィーナさんも、思わず目を見開いてこちらを見る。

 

「陸帝獣の力は半端なものではありませんわ! 皆様を危険にさらすわけには!」

「そうですぞ! 特にラース様は、娘の治療で魔力を使われたばかり! 回復には、かなりお時間がかかるでしょうに」

「ああ、それなら平気です! まだまだ余裕なので!」

「……はい?」


 ぽかんとした顔をする公爵様たち。

 俺の言うことが、まったく信じられていないらしい。

 よし、それなら――


「ほいッ!」

「うおッ!?」


 掌から、純粋な魔力だけの塊を打つ。

 金色の玉がふわりと浮き上がり、シャボン玉よろしく弾けた。

 こうして現れた光の鱗粉を見て、公爵様もシスティーナさんもさらに唖然とした表情を強める。


「し、信じられん! 先ほどあれだけの魔力を出したのに!」

「ありえませんわ……! あなた、名前を教えてくださいまし!」

「ラースです」

「分かりました、しっかり覚えましたわ!」


 そう言うと、システィーナさんは自ら布団をどかしてベッドから降りた。

 そして俺の顔をまっすぐに見据えると、言う。


「ラース様、もし王国軍に入るつもりがありましたらいつでもお声がけくださいまし。相応の地位を約束いたしますわ」

「え、ええ?」

「そうだな。それともし陸帝獣を討伐することが出来たら、私から騎士の称号を与えられないかどうか陛下に打診してみよう」

「は、はい!?」


 予想していなかった展開。

 急すぎるそれに、俺はただただ目を丸くするのだった――。



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