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第四十四話 公爵令嬢の病

「こりゃ凄いな……!」


 アクレの街を発ち、街道を西に走ること三日。

 俺たち四人の目の前に、巨大な山城が姿を現した。

 岩山を削り出して作られたかのようなそれは、非常に重厚かつ堅固。

 緩やかに伸びる灰色の城壁は、さながら一枚岩と錯覚しそうなほどである。

 これが、バラド公爵の城か……!

 武門として有名な貴族らしいが、その家柄が住むところにまで現れているらしい。


「大した城ねえ。さすがは公爵様」

「この分なら、報酬の支払いも滞りなさそうだな」


 そう言うと、ツバキさんは手元の依頼書へと視線を落とした。

 そこに記された報酬金額は――驚異の五億ルーツ。

 これまでの最高額だ。

 さすがの俺も、あまりの金額に三度見したほどである。


「しっかし、変な話よね。依頼の詳細は城で話すなんて」

「高位貴族だとありがちな話」

「そうなの?」

「ええ。領主クラスはだいたいそう」


 テスラさんにそう言われ、ふむふむとうなずくシェイルさん。

 彼女もSランク魔導師だが、高位貴族の依頼を受けるのは初めてのようだった。


「よし、着いたっと!」

「城が見えてから、結構かかりましたね」


 城門を抜けたところで、揃って馬車を下りる。

 するとたちまち、どこからか燕尾服を着た男性が姿を現した。

 老紳士然とした人物で、ただ立っているだけなのに気品がある。

 姿勢の良さも見事で、見ていて気持ちのいい人物だ。


「ようこそ、魔法ギルドの皆様。私、執事のボナードでございます」


 優雅に礼をするボナードさん。

 俺たちもすぐに、彼に向かって頭を下げる。

 

「早速ですが、こちらへどうぞ。公爵様がお待ちです」

「はい!」


 ボナードさんに続いて、城の中へと足を踏み入れる。

 厳めしい外観に相応しく、内装もまた威風堂々たる雰囲気であった。

 壁に飾られた無数の武具の輝きが、威圧的ですらある。

 恐らくはコレクションなのだろうが、とても手入れが行き届いていた。


「この部屋におられます。くれぐれも、粗相がないようにお願いいたしますぞ」

「分かった」

「……その返事の時点で、なんだか不安です」


 いつもと変わらずそっけない口調のテスラさんに、ふうッと息が漏れる。

 ブレないというかなんというか。

 公爵様に対しても普段の態度を貫こうとする姿勢に、ある意味尊敬すら覚える。


「さあ、どうぞ」


 ゆっくりと扉が開かれる。

 古めかしい造りの通路に反して、部屋の中は開放的で明るい雰囲気であった。

 壁際に天蓋付きの大きなベッドがおかれていて、誰かが横になっているのが見える。

 そしてその脇には、立派な髭を生やした大柄な男性が腰かけていた。

 彼は俺たちの姿に気づくと、小さく手招きをする。


「魔導師の方々か。来たまえ、こっちだ」


 どうやら、この方が公爵様らしい。

 俺たちは深々と頭を下げると、すぐさま彼のそばへと移動した。

 そしてその手に促されるまま、壁際に置かれていた椅子へと腰を下ろす。


「私がデロス・アルバウム・バラドだ。よろしく頼む」

「こちらこそ! 魔導師のラースです!」

「テスラ」

「シェイルよ」

「ツバキです」


 俺に続いて、三人が自己紹介をする。

 流石に高ランク魔導師というべきか、公爵様を相手にしても自然体だ。

 一方の公爵様も、三人の姿勢を咎めようともしない。

 魔導師の地位ってやっぱりすげえんだな……。


「さて、さっそくだが依頼の詳細を説明しよう。君たちに頼みたいのは、我が娘の治療だ」

「治療? それなら、医者に頼んだ方がいいんじゃないのか?」

「娘は魔欠病だ、医者の手には負えんよ」

「魔欠病?」


 聞きなれない病名に、思わず聞き返す。

 するとすかさず、テスラさんが説明してくれた。


「魔導師がまれにかかる病。魔力を限界以上に使いすぎることで、体が極度に衰弱して元に戻らなくなることを言う」

「なるほど。ということは、公爵のご令嬢は魔導師なんですね?」

「ああ、天才と言われていたよ。これを治す方法は一つ、体内に本来の魔力量を大きく超える莫大な魔力を流し込むことだ。だが、娘の魔力量はもともと半端なものではなくてね。普通の魔導師では、流し込む方が魔欠病になってしまう」


 公爵様はそう言うと、ベッドのわきに置かれていた戸棚を開けた。

 そして中から、一枚の古びた地図を取り出す。


「この地図に示された場所に、竜の峰と呼ばれる山がある。そこには竜宝玉と呼ばれる強力な魔石が眠っていてね。娘を最初に診た魔導師の見立てでは、その膨大な魔力を使えば魔欠病を治療できる可能性があるとのことだ」

「竜の峰……聞いたことがあるな。古代龍たちが住まう場所だとか」

「そうだ。Sランク魔導師でも、容易に行ける場所ではないだろう。だがそこを何とか! 頼む、娘は私にとって……いや、この国にとって必要な存在なんだ!!」


 そう言うと、公爵様はあろうことか俺たちに向かって深々と頭を下げた。

 お、おいおい!?

 必死なのはわかるけど、公爵が頭なんて下げるか普通!?


「あ、頭を上げてください! ご令嬢は、俺が必ず何とかします!」

「本当か!?」

「ええ! なので、そこをどいてもらえますか? 早速、魔力を注いでみます!」

「……えっ?」


 俺がそう言うと、公爵様は思い切り目を見開いた。

 せっかくの渋くてダンディなお顔が、情けなく崩れてしまっている。

 

「ちょっと待ってくれ。今説明しただろう、娘の治療にはすさまじい魔力が必要なんだ。いくら君たちがSランクとはいえ、さすがに無理だろう!」

「平気。ラースは規格外」

「そうだな。ラースだからな」

「魔石を作れる男だからねえ。ふふふ!」

「ま、魔石を作る……?」

 

 混乱しきりの公爵様。

 ……こりゃ、まともに説明しようと思ったら時間がかかりすぎるな。

 俺はサッと腕まくりをすると、椅子を立ってベッドの横へと移動する。

 そして――


「おっらあああァ!!」


 唖然とする公爵様の前で、フルパワーで魔力を注ぎ込むのだった――!


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