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第四十話 飛べ!

「あの方角は……遺跡か!!」


 赤い柱が天に聳えていたのは、ちょうど村から見て真北の方角だった。

 例の遺跡がある周辺である。

 これは……間違いない。

 紫水晶に封じられていたヤーザスが、封印を破ったのだ。

 そしてその身に宿した邪悪な魔力を、世界に解放しているに違いなかった。


「なんてことだ……! こんなおぞましい魔力、見たことがないぞ!」

「フォルミードよりも強烈じゃないの、これ!?」

「これが……伝説の黒魔導師!」


 魔力が、黒い風となって荒れ狂う。

 空に暗雲が立ち込め、稲妻が逆巻いた。

 世界が唸る、さながら怯えているかのように。

 やがて大気が震え、光の柱の中から小さな人型が現れた。


「あれが……!」

「来るッ!!」


 人型が杖を掲げたその瞬間、魔法陣が空に浮かび上がった。

 その大きさはエルマ村がすっぽり収まってしまいそうなほどだ。

 あまりの迫力に、空全体が覆われたようにすら錯覚する。

 やがてその端に、次々と光の玉が現れた。

 そして――


「やばいッ!!」


 光が弾け、降り注ぐ。

 無数の光条が、俺たちをめがけて落ちてきた。

 こんなの、絶対によけきれない!

 敵の圧倒的な先制攻撃に、たまらず舌打ちをする。

 

「こっち!!」


 呆然としている俺の身体を、テスラさんが引っ張った。

 彼女は床に手をたたきつけると、即座にみんなを守る分厚い石のドームを作り上げる。

 すかさず、シェイルさんがそこへ強化を付与した。

 状況が状況なだけに、文字を刻む速度が信じられない程に早い。


「ぐッ……持つか!?」

「何とか耐える!」

「魔力貸します!」


 テスラさんの魔力とシェイルさんの付与によって、鋼をも上回る強度となっているはずのドーム。

 それが時折、メシメシと嫌な音を立てた。

 轟音が響く。

 床……いや、地面が震える。

 まったく、恐ろしい威力の魔法だ。

 こんなものを瞬間的に出してくるとは!


「これではらちが明かん! 何とか反撃出来ないのか!」

「……棘を飛ばすくらいなら」

「やってくれ!」

「分かった。シェイル、付与を」

「任せて!」


 テスラさんの求めに応じて、シェイルさんが文字を書き足す。

 続いて床の魔法陣が変化し、ビョウッと風切音が響いた。

 さながら、弓矢か何かを放ったようである。

 その音は光の爆発に負けじと、次々に連続していく。

 やがてわずかにだが、光の勢いが弱まってきた。


「今だ、出るぞ!!」

「はい!」


 ツバキさんと一緒に、ドームを脱出する。

 外に出ると、家は無残に崩壊し周囲は穴だらけになっていた。

 俺たちは即座に空を見上げると、こちらに迫ってきているヤーザスの姿をとらえる。

 そしてすぐさま、反撃へと打って出た


「はああぁッ!!」

「ファイアーボールッ!!」


 斬撃と炎が、宙を舞う魔導士に向かって飛ぶ。

 するとたちまち、半透明の壁が展開された。

 ――結界魔法!

 女王蜘蛛が展開したのと同じものである。

 しかも、込められている魔力量はこちらの方がはるかに上だ。


「さすがは伝説だな!」

「く、どうしてこんな奴が復活したんだ……!」


 確かに、俺たちは魔法陣を維持していた魔導師たちを解放した。

 だがその代わりに、魔石を残していったのだ。

 いつかは魔力が尽きるはずだったとはいえ、それはしばらく先の話。

 昨日の今日で、このヤーザスが復活するなんてありえないはずだった。


「……騙されたみたいだな」

「ということは、イクスさんが……?」

「状況的に、そうとしか考えようがない。あの魔石に欠陥があったか、イクスが後から抜いたんだ!」

「……やはり!」


 唇をかむ。

 思えば、いろいろと胡散臭い奴だったのだ。

 そもそも、あの遺跡に一人でいたこと自体が怪しすぎる。

 恐らく奴は、ヤーザスの復活をもくろむ黒魔導師だったのだろう。

 それが魔法陣の中枢へと進入するため、俺たちを利用したのだ。

 

「いずれにしても、やるしかないですね……!」

「でもどうする? あの結界、普通じゃ破れんぞ」


 宙に浮かぶヤーザスを見据えながら、ツバキさんが顔つきを険しくする。

 かすかに紅を帯びた半透明の幕が、ヤーザスの肉体を強固に守護していた。

 その威容はフォルミード相手にぶっ放した黄金の大剣ですら、防ぎきってしまいそうだ。

 あれをぶち破るのは、俺の馬鹿魔力でも相当に骨が折れそうだ。

 

「ラース! 聞いてほしいことがあるわ!」


 悩んでいると、ドームの陰からシェイルさんが呼び掛けてくる。

 俺はすぐさま彼女のもとへと近寄ると、耳を傾けた。

 シェイルさんはヤーザスに聞き取られないように、小声で素早く語る。

 その会話の内容に、俺はたちまち目を見開いた。


「……え? そんなことしてたんですか!?」

「ええ!」

「さすが、やりますね! よし、あいつを何とかできるかもしれない……!」


 シェイルさんの言葉で、希望が出てきた。

 あの怪物を退治するには、これにかけるより他はない。

 俺はすぐさまドームから外に出ると、ツバキさんに言う。


「ツバキさん、俺をあそこまでぶっ飛ばせますか?」

「え?」

「だから、俺の身体をヤーザスのところまで投げ飛ばせるかってことです!」

「……竜化すれば、できなくはないな」


 距離を測りながら、ツバキさんが言う。

 よし、そうと決まれば方法は一つだ!


「ツバキさん、俺を思いっきりぶん投げてください! あいつに向かって!」

「正気か!? 結界にぶつかるだけだぞ!」

「ですから、いい方法があるんです! シェイルさん!」

「任せて!」


 ドームの端から顔を出したシェイルさんが、親指を立てて言う。

 そうしていると、ヤーザスは再び魔法陣を浮かべて光を放ってきた。

 俺たちが何かしようとしていると察したのだろうか。

 その勢いはすさまじく、先ほどの猛攻をさらに上回っている。


「消えろ、虫けらどもめ!」

「まずいな!」

「くそ!」


 俺とツバキさんは急いでドームの中に避難した。

 が、さすがにテスラさんの魔力が持たないらしく、石にひびが入り始める。

 いよいよ危険を察知したソノラさんの額に、じわっと脂汗がにじんだ。

 さらには、先ほどまで寝ていたはずのひよこがキューキューと鳴き始める。


「持たない!」

「こうなったら、こちらから仕掛けるしかないですね! ツバキさん、ドームが砕けたらすぐに俺をぶん投げてください!」

「……わかった。何をするつもりかは知らないが、やってやろうじゃないか!」

「シェイルさんは、俺が奴のところについたらすぐにお願いします!」

「ええ、ばっちりやるわ!」


 うなずくシェイルさん。

 それに遅れて、ツバキさんが準備に入った。

 魔力が見る見るうちに増大し、白い肌が鱗に覆われていく。

 やがてその瞳が、金色に裂けた。

 これが……竜化!

 本物のドラゴンと同等、いや、それ以上の迫力を感じる。

 その場に立っているだけで、圧迫感があった。


「ダメ、割れる!」

「お願いします!」

「任された!!」


 うなずくツバキさん。

 こうして天井が砕け散った瞬間。

 俺の身体は強烈な加速度とともに、宙へと放たれたのだった――。


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