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第三話 魔法ギルドの常識、冒険者ギルドの非常識

「基本的に、魔法ギルドと冒険者ギルドは同じ仕組みです」


 カウンターに戻ったところで、ホリーさんはすぐに説明を開始した。

 よっぽど、俺にギルドへと入ってもらいたいらしい。

 その言葉には力がこもっていて、俺を見る眼つきが少し怖いぐらいだ。


「ギルドの掲示板にある依頼を請け負い、それを達成して報酬を得る。その点について、魔導師と冒険者の違いはほぼありません。ただし、魔法ギルドに出されている依頼の方が冒険者ギルドのものと比べて難易度が高いと言われています。その点にはご注意ください」

「具体的には、どれぐらい違うんですか?」

「3ランクほどは違うと言われてますね。仮に冒険者ギルドでSランク相当の依頼ならば、魔法ギルドではCランクとなります」

「……マジか!」


 予想以上にエグい差である。

 冒険者ギルドじゃ人外扱いされる最高ランクでも、魔法ギルドでは並程度ってことか!

 じゃあ、冒険者ギルドで最高どころかほぼ最低ランクだった俺は、魔法ギルドじゃどれだけ弱いんだ……?

 下限を突破しすぎているだろ。


「ホリーさん、俺やっぱダメだ。冒険者ギルドですらついていけてなかったのに、やっていける気がしない……」

「大丈夫です! 訓練すれば必ず、必ず一流の魔導師になれますから!」

「そう言われても、訓練してる間に死んじゃったら元も子もないよ」


 単純に考えて、魔法ギルドのFランク依頼は冒険者ギルドのCランク依頼と同等ということである。

 そんなもん、底辺戦士であるこの俺に達成できるはずがない。

 するとホリーさんは、俺の言い分を見越していたのかずいぶん余裕のある表情をする。

 

「大丈夫です! 魔法ギルドでは、魔法初心者の方が入った時のために教導官制度というものがあります。ギルドが指定した高ランク魔導師の方が一定期間、初心者の方に付き添うんです」

「へえ……それまた、しっかりしてるな。でもそれ、お金かかるんじゃないか?」

「ご心配なく、費用はすべてギルドの負担ですから」

「えッ?」


 予想していなかった返答に、言葉が詰まる。

 高ランクの人を拘束したら、結構なお金がかかるんじゃないか……?


「本当に……お金かからないんですか?」

「ええ、タダです」

「ちなみに、教導してくれる魔導師の人ってどれくらいのランクなんです?」

「最低でもBランクですね。ラースさんの場合、超大型新人なので恐らくはAランク以上の方が担当されると思いますが」

「そんな人が!? いや、ありがたいですけどギルドは大丈夫なんですか? 負担が凄いんじゃ……」


 俺がそう言うと、ホリーさんは何とも不思議そうに首を傾げた。

 そして、実にさわやかな笑顔で言い切る。


「新人育成は大事ですから! お金を惜しんで、人材を失うようなことがあってはそちらの方が大変です」

「ほえー……。冒険者ギルドに聞かせてやりたい言葉だな……」

「あれ、向こうのギルドは違うんですか?」

「冒険者ギルドは何と言うか……。新人はいくらでも湧いてくると思ってるので」


 実際、冒険者志望の若者なんて腐るほどいる。

 田舎の貧乏人なんて、農民か冒険者ぐらいしか人生の選択肢が無かったりするし。

 アクレ支部だけでも、毎年百人近い数の新人が誕生していたはずだ。


「へえ……それはまた。少なくとも、魔法ギルドはそんな無茶はさせないので安心してくださいね」

「はい、ありがとうございます」

「ではあらためて、こちらの契約書にサインを頂けますか?」

「分かりました」


 差し出された厚手の羊皮紙。

 その署名欄に、やや緊張しながらもペンを走らせる。


「はい、どうぞ」

「確認させていただきます。お名前はラース様で、お間違いないですね?」

「ええ、間違いないです」

「では、ラース様はこれより魔法ギルドの一員です!」


 そう言うと、ホリーさんは先ほどの契約書に大きなハンコを押した。

 その途端、羊皮紙に魔法陣が浮かび上がって光る。

 流石は魔法ギルド、こういうところにもしっかりと魔法を使っているようだ。


「おお! すげえ!」

「無事に契約完了しました。今から教導官となってくれる方を手配をするので、三日後の朝にまたここへ来てください」

「分かりました、三日後ですね」

「はい。マントを引き渡すのも、その時となります」

「マント?」


 俺が聞き返すと、ホリーさんは「ああ!」と手をついた。

 どうやら、何か説明することを忘れていたらしい。


「すいません、うっかりしていました。ギルドに属する魔導師は、身分を証明するために必ずマントを付けるならわしなんです。その色で、ランクが分かったりもするんですよ」

「へえ、そりゃ面白い」

「ちなみに、Sランクは黒いマントを付けることになります。ラースさんも是非目指してくださいね!」

「はい、自信はないですけど……」

「それほど謙遜なさらずとも良いのに。では、またのお越しを!」


 そう言って、爽やかな笑顔で俺を見送るホリーさん。

 それから、待つこと三日。

 再び魔法ギルドを訪れた俺を待っていたのは――


「テスラ。今日からあなたの担当」


 ずいぶんとそっけない挨拶をする、『黒マント』を羽織った少女であった――。


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