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第三十七話 VS女王蜘蛛

「こいつが……女王蜘蛛か!」


 ぬらぬらと黒光りする巨大な甲殻。

 その大きさは半端なものではなく、見ていて距離感が狂ってくるほどだ。

 背丈だけでも、普通の人間の三倍はあるだろう。

 さらにその背中からは、女王蜘蛛の由来とでもいうべき女性の半身らしきものが生えていた。

 その造形は美しく整っていたが、醜悪な蜘蛛の体と相まっておどろおどろしく見える。


「コロス、コロスッ!!」

「ち、完全なケダモノだな!」

「来るッ!!」


 テスラさんがそういうと同時に、蜘蛛の前脚が唸った。

 ザンッと激しい風切音。

 それに遅れて、近くの壁が粉砕される。

 重厚な石壁が、たったの一撃で木っ端微塵になった。

 あんなのに当たったら、人間なんてひとたまりもねえぞ……!


「これは、速攻で片づけた方がよさそうだな! 竜・神・斬ッ!!」


 ツバキさんは剣を高く構えると、気迫を込めた雄たけびを上げる。

 顔の半分に、一瞬だが竜の鱗のようなものが浮かび上がった。

 刹那、放たれる斬撃。

 青白い軌跡が、漆黒の巨体めがけて走り抜けた。

 だがそれを、蜘蛛は前脚をかかげて防ぐ。


「やるな!」

「今度は私」

 

 ツバキさんと入れ替わりで、今度はテスラさんが仕掛けた。

 彼女は地面に手を叩きつけると、すぐさま魔法陣を展開する。

 淡い紫の光が、古びた石の床にまばゆい幾何学文様を描き出した。


「剣よ!」


 世界が変形した。

 周囲の壁や床が、一斉に形を変え蜘蛛へと襲い掛かる。

 無数の剣が、漆黒の巨体を貫かんと殺到した。

 しかし――


「結界!?」


 剣の先端が、すべて半透明の壁によってはじき返された。

 蜘蛛の体の周囲を、にわかに紫電が走る。

 ――結界魔法。

 図書館で学んだ、上級魔法の一つだ。

 魔導師でも使えるものはごく限られているらしいのに、魔物がこれを使うとは!

 緊張感が場に漂う。


「コロス、コロスッ!!」

「まずッ!」


 蜘蛛の口から、いきなり赤黒い光線が放たれた。

 身体強化を限界までかけると、すぐさま飛び退いて回避する。

 爆発。

 地面が爆ぜて、熱と爆風が襲い掛かってくる。

 この女王蜘蛛って魔物……恐ろしく強いぞ!

 

「こいつ、ただの魔物じゃないわね!」

「きっとそいつは、ヤーザスの魔力に影響を受けているんです! だから力は半端じゃないはずですよ!」


 イクスが顔を引きつらせながら告げる。

 なるほど、どおりでめちゃくちゃな強さのはずだ!

 力技で倒すのは、少し難しいかもしれないな……。

 フォルミードにぶっ放したあれなら倒せるかもしれないが、この場所でそんなことをしたら生き埋めになってしまう。


「イクスさん、なんか弱点とかないんですか!?」

「そうですね……!」


 そう言うとイクスさんは、あご先に手を押し当てた。

 彼は瞳を閉じて何やら逡巡すると、床の魔法陣を指さして言う。


「魔法陣の大本へ行きましょう! そこへ行けば、ヤーザスの影響が弱まって力も衰えるはずです!」

「大本? ここではないのか?」

「ええ! 今は、この下の部屋から魔力を供給されてるんです! でも、扉が閉じられてて!」

「それぐらい、叩き壊せばいい」


 物騒ながらも、頼もしいことを言うテスラさん。

 ツバキさんもその言葉に同意してうなずく。

 

「そういうことなら早く行こう! このままだとヤバイぞ!」

「グラアアア!!」

「ちッ!!」


 再び、蜘蛛の口から光が放たれた。

 即座に身を低くすると、その破滅的な閃きを回避する。

 爆音。

 壁が粉砕され、破片が降り注ぐ。

 脇腹を鋭い痛みが走った。

 見れば、小石が服を破いて腹に当たっていた。


「こっちです! 早く!」


 いつの間にか、部屋の反対側近くまで移動していたイクスさん。

 俺たちはすぐさま彼の居る方へと移動すると、近くの入り口から奥に続く通路へと入った。

 そしてそのまま長い階段を駆け下りて、イクスさんの言っていた部屋を目指す。

 すると――巨大な扉が行く手を遮った。


「何だこりゃ……!」

「大きい!」

「予想以上だぞ、これは……!」


 分厚い石で出来た扉は、いつか見た竜の巣のものよりも大きかった。

 さらにその表面にはびっしりと魔法文字が刻まれていて、ただならぬ気配である。

 強い魔力の循環も感じられた。

 壊すといったが、これは一筋縄ではいかないかもしれない。

 強力な防御魔法がかけられているのは、明白だった。


「この扉の向こうに、魔法陣の大本があります! さあ早く!」

「そう言われても、これはちょっとな……!」

「……強化が付与されてるわ。それも、馬鹿みたいに強力よこれ!!」


 術式を見たシェイルさんが、悲鳴じみた声を上げる。

 だがそうしている間にも、蜘蛛は迫ってきていた。

 まずい、この狭い通路じゃ逃げ場がないぞ……!


「扉を開く方法、なんか知らないの!?」

「それが出来たら、自分一人で中に入ってます!」

「出来たら? 方法自体は知ってるの?」

「ええ。何でも賢者の後継者たる証を示せば、道は開かれるとか! でも、そんなのないですし!」

「……いや、それならあるかも!」


 視線を落とすと、左手にはめた指輪を見やる。

 初代賢者の遺産である月の指輪。

 これならば、後継者の証として認めてもらえるかもしれない。

 一か八か、かけてみる価値はある!


「この指輪、もしかしたら使えるかもしれません!」

「おお! 早速、魔力を通してみてください! 扉が反応するかも!」

「やってみます!」


 全身に巡らせている魔力を、月の指輪へと集中させていく。

 すると、指輪がにわかに金色の輝きを帯び始めた。

 俺の炎とそっくり同じ色である。

 やがてその光に反応するように、扉の魔法文字がうごめき始める。


「おお……!」


 ざらざらと音を立てながら、扉がゆっくりと動き始める。

 たちまちシェイルさんたちは目を見開くと、ひどく驚いた表情で俺の方を見た。


「ホントに開くなんて……すごいじゃない!」

「指輪だけじゃない。魔力の波長も受け入れられた……?」

「これはひょっとするかもな。やはりラースは桁外れだ」

「三人とも、なに驚いてるんですか! 今はそれどころじゃないですって!」


 次第に近づいてくる足音。

 女王蜘蛛は、もうすぐそこまで迫ってきている!

 俺は三人の肩に手をかけると、イクスと一緒に急いで扉の向こうへと移動した。

 すると、目の前に現れた光景に思わず息をのむ。

 そこにあったのは――


「人間じゃないか!」


 床一面に、淡く輝く魔法陣。

 その中心付近には、人間の入った巨大な水槽が並べられていた――。


十万文字を超えました!

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