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底辺戦士、チート魔導師に転職する!  作者: キミマロ


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第三十六話 古びた伝説

「誰だ!」


 腰の刀に手をかけたツバキさんは、目にもとまらぬ速さで抜刀した。

 青白い刃が、ザッと空を切る。

 それに合わせて、俺たちも戦闘態勢を取った。

 こんな場所に一人で来るなんて、明らかに普通の人間ではないからだ。


「おっと、そんなに警戒しないでくださいよ! 害意はないですから」

「信用できない」

「そうよ、あんた何者? 名を名乗りなさい!」

「僕はイクスって言います。しがないモグリの魔導師です」


 モグリの魔導師?

 初めて聞くワードに、俺は小首を傾げた。

 すぐさま、横に立っていたテスラさんに耳打ちをする。


「モグリって、何ですか?」

「魔法ギルドに所属していないってこと」

「ギルドに属してない? そんなの居るんですか?」


 魔法ギルドって、所属していて得なことしかないように思うんだけどな。

 マントは身分証明に使えるし、依頼はどれも高額報酬。

 それでいて、行動を束縛されるような義務などはほとんど発生しない。

 誰もが登録したいと考えるような組織だ。


「少しだけど居る。仕事のコネがあれば、ギルドに登録するよりもお金になるから」

「へえ……」

「うさんくさいけど、見ない肩書ではない」


 俺は改めて、イクスのほうを見やった。

 十代後半ほどに見える彼は、丸縁の眼鏡をかけてとても穏やかそうな顔立ちをしている。

 図書館に籠って、本でも読んでいそうな雰囲気だ。

 確かに、本人が言うように争いを好むようなタイプには見えない。


「モグリが、どうしてこんなところにいるのよ?」

「遺跡の調査です。皆さんは違うんですか?」

「私たちは、エルマ村に起きている事件を調べるためにここへ来たの。犯人が潜んでいる可能性があったから」

「ああ、あの村ですか……」

「あんた、何か知ってるの?」


 シェイルさんの声色が低くなる。

 人畜無害そうに見えるが、イクスは魔導師。

 ひょっとしたら、村を襲っている張本人かもしれなかった。

 

「いえ、噂を聞いたことがあるだけです。僕がここにいるのは、ただ純粋な調査ですよ」

「へえ……それで、この遺跡の何を調べてるの?」

「黒魔導師ヤーザスという人物を、ご存知ですか?」

「……!」


 テスラさんたちの顔つきが変わった。

 よっぽど有名な人物なのだろうか?

 再び、テスラさんに耳打ちをする。


「誰ですか、ヤーザスって?」

「伝説の黒魔導師。初代賢者の時代に、暴れたって言われてる」

「そりゃまた、ずいぶんと大物ですね……」

「伝説は多いし、恐れられてる。けど、そのほとんどは偽物」


 すっぱりと言ってのけるテスラさん。

 それに遅れて、シェイルさんが疑うそぶりを隠そうともせずに言う。


「ヤーザスねえ。この遺跡が、奴に関連しているっていうの?」

「ええ。あの紫水晶に、彼の魔力の一部が封じられていると言われています」

「あの水晶に? 確かに、ヤーザスの魔力なら闇に該当するんだろうけど……。根拠は?」

「この地域に伝わる古い伝承がありまして。それを丹念に検討していくとそうなりました」

「根拠になってない」


 イクスの胡散臭い物言いを、一言で論破したテスラさん。

 すると彼は「いやあ……」と言いながらポリポリと頭を掻いた。

 人がよさそうというか、どこか抜けているというか。

 あまり憎めそうにない雰囲気だ。


「まあいい。それで、さっき言っていた七色の輝石というのは何なんだ? 先ほどから気になっているのだが」

「ああ、はいはい。七色の輝石っていうのは、極めて強力な魔力を秘めた魔石のことですよ。もともとはその台座にはめ込まれ、ヤーザスを封印するための魔力を供給していたんです」

「……言われてみれば、それ聞いたことあるような。もしかして、願いをかなえるってやつ?」

「そうですそうです! 七色の輝石は、その絶大な魔力で手にしたものの願いをかなえるって言われてます。古い伝説過ぎて、真偽のほどは定かではないですけどね」


 それはまた、ヤーザスに負けず劣らずの代物だ。

 願いをかなえる……か。

 どんな願いでも叶うなんてことはないだろうけど、それでも十分すぎるくらいに凄い。

 あれ、でも……。


「そこの台座、空っぽじゃないですか! ということは……」

「ええ、七色の輝石はここにはありません。誰かが盗んだみたいなんです! おかげで、封印がだんだんと弱っているみたいで……」


 そう言うと、イクスは床の魔法陣へと視線を落とした。

 魔法陣のおぼろな輝きが、心なしか頼りなく見える。

 言われてみれば、御大層なものを封じている割には魔力も弱い。


「盗んだ……もしかして、ボランゴ山賊団!」

「だとすると、奴らが全滅したのは遺跡にかけられてた呪いのせいかもしれないな」

「そういうのって、実際あるんですか?」

「ええ。古い遺跡だとね、盗掘者対策で強烈な呪いがかけられてたりするのよ。封じているものがものだから、この遺跡にそれがあったとしても不思議じゃない」

「おお!」


 これは大きな進展だぞ!

 十年前の真実に、少しずつ近づきつつあるような気がする!

 そこさえわかれば、あの村に現在かけられている呪いの正体だって見えてくるはずだ。

 先ほどまで訝しげな表情をしていたシェイルさんが、にわかに前のめりになる。

 

「ねえあんた、他に知ってることはないの!?」

「そうですね、実は僕には開けられない扉があって――げッ!」


 ふいに、背筋がぞわりとした。

 体の底から不快感が湧き上がってくる。

 みんなもこの感覚を味わったようで、周囲の空気が一気に張り詰めた。

 これは――魔力だ!

 それも、ほの暗く歪なものである。

 本来あるべきものを、力任せにゆがめてしまったような感じだ。


「これは……!」

「来るぞッ!」


 ツバキさんが叫ぶと同時に、壁の一部が崩壊した。

 やがてそこから、黒光りする巨大な爪が姿を現す。

 そして――


「女王蜘蛛!!」


 人間の十倍はあろうかという大きさの化け物が、壁の隙間から姿を現したのだった――。


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